富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月十一日(晴)仏蘭西の古今亭志らく師匠ぢゃなかった志らく大統領が訪中。北京では胡錦涛国家主席志らく師匠をば最高の国賓待遇で迎えエアバスは十億ドルの単位の受注締結、仏蘭西の財界トップ率いた団体旅行はこのあと上海、香港へ。昨年は巴里にて中国年と艶やかにサンジェルマンデプレのルイヴィトンの店先の飾りつけもシノワズリ。今年は北京がこの巴里祭気分で天安門広場に週末はオペラだか何だか大規模な催事あり。唯一悔まれるは北京の大気汚染にて可視界が五百米とはつまり天安門広場人民大会堂から広場に対峙する歴史&革命博物館どころか広場中央の毛沢東記念堂も曇る程。……とこの項ここまでタクシー車内にて打っていたのだが北角界隈でもあちこちで無線LANが勝手につながる箇所あり香港の無線網ぶりに驚かされるばかり。帰宅。でこの北京での仏蘭西文化年に比べ海老蔵君の襲名披露は團十郎も病ひをおしての巴里公演ながらその仏蘭西年に比べれば成田屋の名前だけでは弱かろうか。これに匹敵するならば巴里の名だたる大劇場をば借り切ってオペラ座では歌舞伎、バスティーユオペラ座では宝塚歌劇団、メゾンドラジオフランスで紅白歌合戦、パレドトキオで安来節にオルリー美術館で葛飾北斎展でも一挙開催するくらいせねばならず。晩に今ごろになってケーブルテレビで映画の『踊る大捜査線』を観る。練りに練った脚本、無駄のない筋、王家衛も見習ふべきか(笑)。王家衛といへば信報で黄珍尼が「翻版」といふ題で王家衛の『2046』取り上げ、先週土曜日の夜七時半に『2046』観れば劇場に客は数人と書き出して、或る映画評はこの作品を「史詩」と持ち上げ、また或る批評は記号論的に分析するが、黄女史はだれかが王様の新しい衣装での行進に「王様は裸だ」と号ぶべきだ、と指摘。一流の俳優揃えても王菲木村拓哉が打ち明けたように「撮影時には何を撮っているのか筋も全くわからない」状況で演技の仕様もなく監督が自作の物語をば何度も何度も「翻版」にて取り直す中で面白みも失せて最初は新鮮であった女優のロングドレスに高く結った髪も今さらの感あり。評判の化粧もアイラインがどの女優にも似合うものでもなく劉嘉玲のそれはオカマの女装の如し。六十年代にそんな化粧があった筈もなく映画広告のポスター写真見ただけでうんざり、と。文藝春秋十一月号で李登輝君が作家浅田次郎相手に「武士道と愛国心について」と談義。大正生れの万年青年が明治の先達の気概を語る。新渡戸稲造の『武士道』は矢内原忠雄の文語調訳がよく若い人にも是非読んでもらいたい、と言われても若い人が読む筈もなし。本来なら台湾総統辞めれば政界より足を洗い長老派教会の牧師として布教に勤しむと語った老輩はもはや日本人になき気概ある元日本人として文藝春秋などに弄ばれるばかり。李登輝氏が『跳舞時代』といふ映画取り上げ若い人にぜひ観てもらいたい、と語っているが筋を見ただけでは(こちら)日本でいへば『上海バンスキング』の如き昭和の初めのあの時代の徒花のようだが如何なものか。

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