富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月朔日(金)快晴。中共國慶節。朝の八時より灣仔の「大陸観光客記念広場」にて国旗掲揚式あり董建華はじめ政府要人ら参閲。このあと國慶酒宴開催され昼前に民主派含む御一行飛行機にて北京に飛んで胡錦涛国家主席らに拝顔の誉れ、晩に國慶宴に参加して深夜帰港とか。N氏の誘いありO君らと沙田の站にてN氏らと待ち合わせ一行八名で乗合バスで馬鞍山は恒安邨の団地に到り坂道を馬鞍山村への方に上り馬鞍山郊野公園管理所。連休初日にてBBQなどする市民多し。此処から山道をば上ること一時間余で牛押山(標高667m)。途中いくつか急な斜面あり備え付けの荒縄に捉まり登る箇所もあり。眼下に馬鞍山の住宅地と吐露港の向こうに中文大学を眺める(写真)。馬鞍山へと尾根を渡り牛押山を眺める(写真の背景の稜線が右から牛押山から馬鞍山)。馬鞍山よりトレイル4区に降りて余は夕方からの予定ありN氏らと別れ久々に山をば一時間ほど走って昴平より大水井に下り北港凹の集落。太平村の小店にて麦酒一罐購い立ち飲み。この太平村(写真)は罹災者集落をば政府がとにかく長屋の如く集合住宅建造したもの。ミニバスで彩虹経由しジムに立ち寄り一浴し帰宅。夕方、Z嬢と北角よりミニバスでCyberportへと向かふ。Cyberport(写真)は政府鳴り物入りで建設のハイテク地区にてシリコンヴァレイだの台湾の新竹をば目指し大型公共事業で景気対策なども図ったが結局はこの開発は李嘉誠財閥に丸投げされ李嘉誠がまた独占事業をば一つ得ただけの結末。笑止千萬。初めて此処を訪れてみれば建設途中とはいへ李嘉誠系列のスーパーParknshopと「工事人夫立ち入り禁止」で物議醸し出したcybercanteen、それに採算は当面まるで合わぬ(大陸からの団体客を誘致するにはやはり躊躇ひたありか)ホテルLe Meridien CyberportとBroadway系列の映画館だけが稼働中。今後Phase-3まで建設が終わってどれだけのCyber都市となるのか期待したいところ(嗤)。その閑散としたCyberportをば休日にフラフラとするのはその九割が映画の客にて「どうせ閑な連休の初日だし映画見るのも何処でもいいけどCyberportまで行ってみない?」といふ連中で余とZ嬢も実はその一組。王家衛監督がトニー梁朝偉章子怡王菲木村拓哉に鞏俐、マギー張曼玉など豪華絢爛たる役者揃え5年の年月を費やした期待作「2046」がついに公開される。駄作。王家衛の作品は酷くなるばかりで今回も殆ど「悪口言うためにも見ておかねば」モードであったし、Z嬢は開演前に長蛇の列の手洗いに並んだのも「トイレ我慢していつ終わるか、終わるか」と思うのは嫌だから、といふことであったが、余も映画館の強烈なる冷房に冷え切って寒さに凍え惰眠を貪るわけにもいかず、せめて広東語のお勉強と思ったが広東語と北京語と木村拓哉の日本語がごちゃごちゃで登場人物は物語上意思の疎通があったのか(笑)、王家衛が映画撮りたいと思ふのは本人の自由だが王家衛を香港映画の唯一の藝術派の巨匠の如く扱い、何より不思議なのは王家衛の映画にカネを出そうといふプロダクションあることに(といっても香港の製作会社はもうすでに三歩も四歩も王家衛の制作から退いており……そりゃそうである制作に五年も費やされては香港では話にならず)今回はフランスだかイタリアの製作会社だとか。駄作といふ意外に表現のしようがなし。王家衛の映画の酷さは今に始ったことに非ず、ただ王家衛の映画がわからないといふと馬鹿だと思われるのが怖いからみんなわかったフリする、謂わば「ベルリン天使の詩」の状況で、だが例えばバタイユを読んで「何が書かれているのかわからない」といふのは本人の感性の乏しさに映るからわかったフリをするわけだが、王家衛の映画はもっと早い時期から「駄作」であり「何がなんだかわからない」わけで「阿飛正傳」が香港映画であんなの今までなかったから誰もなんと批評していいのかわからぬまま「 」つきで名作扱いされ、それが重慶森林だの王菲を起用してのnouvelle hongkongの巨匠扱いされ、張國榮梁朝偉起用してのホモ映画で収益的には持ち直したが、やはり「花様年華」で限界は見えていたわけで、いつまでも制作上で行き詰まると過去の作品の結局収拾つかずワケのわからなくなってしまった部分にひっかけて前作髣髴させる音楽流して誤魔化す、それだけのこと。王家衛が映画をとるのは自由だが、わけのわからない映画を「圧倒的なオリジナリティでアジア映画の概念すら変えてしまった」だの馬鹿なヨイショは止めるべき。日本では木村拓哉が出てしまったがタメに電通、フジテレビだのマガジンハウスだの「今さら退けず」状態で悲惨。日本では十月廿三日から公開。オフィシャルサイトの「全世界が待ち望んだ“幻の映画”の封印がいま解きあかされる」は映画の封印の解き明かされた結果「駄作だ」といふ事実が暴露されることを公開前から怯え「かつて誰も見たことのない映像美と予想不可能なストーリー展開」といふ説明は笑うに笑えず。日本での宣伝会社も苦肉の策か。担当者は公開前から夜も眠れまひ。キムタクでそこそこの集客あろうが木村君本人が制作の途中で言葉通じぬ上にあまりのワケのわからなさで出演放棄し帰国し完成間際に為方なくもう一度撮影に加わりストーリー取り繕いの部分に出演といふ経緯も悲惨にて、大スター御一行でカンヌに出向いたものの実際には殆ど真当に評価されず梁朝偉「誰も知らない」の柳楽少年の主演男優賞受賞に怒り心頭だったのも、出演者にしてみれば木村君も含め「王家衛の映画はワケわからぬが国際的には評価されており俳優として知名度得る点では出ておいて損はない」からのギャラの採算など考慮せず五年もかけての撮影。カンヌは悲惨であったが「それはなかったことにして」先月末からの公開では王家衛監督と出演者が香港、北京、台北と各地を巡回。各地のお歴々や映画など業界関係者がプレミア公開に鳩まり内心「なんだか全然よくわからない」と思いつつ「馬鹿だと思われる」のが怖いから「あのセンスは誰にもマネできない」(←そりゃそうだ……笑)などと感想述べる他なし。最初の十五分で飽きて途中から淀川長治的に何かこの映画のいい部分をさがそう、と思って懸命に見ていたが皆無。鞏俐もやっぱり老けた、だの梁朝偉もベットシーンで脇腹の贅肉がめだち尻の肉は落ちて見るに忍びなし。唯一の収穫は梁朝偉が何度か食事の話題で「羊南保」(南は扁が「月」で旁が「南」でバラ肉、保は「保」の下に「火」で鍋)に言及し冷え切った身体で「そういえばそろそろ羊肉の季節か」と思ったこと。映画終わってZ嬢と「やっぱりね」と苦笑。夜更けてCyberportは暗澹たる寂しさ。Le Meridien Hotelの灯りぼんやりと浮かぶがホテル内の閑散をば映し出す。このPokfulamの一帯、珠海河口の海をば一望する高級住宅地にて香港大学の高級職員宿舎だのありBaguio Villaの住民など眼下に突然このCyberportなど出来て視界も邪魔しては不快だろうに。バス乗り場に向かえば往路利用せしミニバスは二十人ほどが行列に並びバスも来ておらず中環に向かうバスは三十分に一台!と不便この上なし。映画見に来る客の降りたタクシーつかまえ西環桂香街の坤記。店の入り口に「支竹羊南保上市」と看板あり。久しく訪れぬうちに店は小奇麗に改装しており今晩も盛況。店の街頭に卓を出すがそれでいいか、と勿論それで構わず街頭の卓に羊南保(写真)と田鶏と鰻の釜飯をば食す。秀逸。鍋を食してもけして大汗かかぬ季節となり。昨年の今頃は巴里でジョルジュ五世通りの海鮮料理屋Marius et Janetteの店先で夜風浴びつつムール貝に舌鼓打ったことなど思い出し、この香港で路上にゴキブリ走る横丁にて羊肉鍋もまた好し。梅芳街の臨時街市跡(写真)。黒猫。公衆便所の水道から見事に水を汲む傑作(写真)。
▼立法会議員となる梁國雄君は今朝の國慶節記念式典に招かれ昨年迄と同様に棺桶をば御輿に会場近くに現れるが昨年までは警察のバリケードで衝突していたのに今年は議員として警察の護衛あり(笑)。棺桶は政府当局者との交渉で会場には持ち込みせず。但し「還政於民」「反平六四」と書いたTシャツは着たまま。董建華長官の挨拶の最中もひとりシュプレヒコールあげ乾杯は中国人民に。奴隷に立ち上がること謳う国歌をば梁君大声にて歌ふ。▼長嶋茂雄君病後初めて公の場に姿を現す、と築地のH君より「読売新聞社内が「公」かどうかわかりませんが」(笑)と報せあり。ナベツネとのツーショットの写真。日本中の野球ファンの鼻つまみものになったナベツネが流石に今度ばかりはその自覚があるのか「ギョクはまだこちらの掌中にある」と長嶋天皇復権に利用するあざとい狙い見え見え。スポーツ紙は各紙ともこの写真を一面に特大で掲載したが朝日は写真なしだそうな。しかしもっとも見事なる仕事は毎日新聞で写真を半分のところでトリミングして長嶋の写真だけを掲載するという会心の一撃、整理部の大ヒット(笑)。ですね。H君の指摘通り、この写真のニュース性は本来「長嶋が姿を見せた!」といふことで隣に写ってる老人は関係なし。しかし長嶋にとってナベツネは昭和三十年代からもう半世紀近き「政治的関係」あり。

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