富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月十八日(火)一昨日の滝遊びにてZ嬢持参の虫刺れ薬の効能に蚊や蜂、植物によるかぶれに加え Wasps とありこれが何か?と話題に。WaspならアングロサクソンのところSがついてはアングロサクソンスパニッシュなる新種では?とT君。Waspに複数形もなく何かとZ嬢調べれば結局は雀蜂をwaspsと云ふと知る。だがこのご時世、waspの来襲に効く薬あらばイラクの諸君に配ってあげたいところ。さて本日。曇。早晩に私娼家に勤むKに邂逅。まことに気性優しき者何が悲しく当世に娼妓となるかと思ふが一たび廓に身堕とさば廓より出でるはまことに難きことにて良き旦那でも見つけ妾にでもなること祈るばかり。ぶらりとDVD屋など覗けば娯楽大衆作品ばかりか“Ken Park”だのケン=ローチ監督の“Sweet Sixteen”だの並び大したものだと感心しつつ自宅にて映画鑑賞の習慣なく何も購わず。帰宅せばマンションの同じ棟に住ふ潔癖性のキチガイな中年の婦人に遭遇。この潔癖夫人外気の汚染気になるようでいつも鼻に塵紙当てマンションの入口にては暗証番号での扉鍵解除もキーパッドに触るを惧れ誰か出入りあるまで待ちエレベータの▲▼の鈕すら直接触らず塵紙で押すほど。今晩は恰度どこかの部屋にて内装工事でもあったかベニヤ板だの塗料など搬ぶに出交したこの女、運搬作業中の工人に罵声浴びせ発狂状態。エレベータホールをば汚すことへの非難。工人このキチガイ相手する暇もなく無視し立去れば誰もおらぬホールにて奇声上げ怒り続け守衛室に迄罵声浴びせエレベータに乗り消え去る。この女の発狂ぶりもは個人の人権ゆへ尊重するが公共の福利に觝触せぬこと期すばかり。いずれにせよ潔癖性とはいへ鼻孔をば抑えた塵紙にてエレベータの鈕押しまた鼻に当て、と実は衛生どころか寧ろ不潔。その女の洟ついたであろうエレベータの鈕を押さねばならぬこちらこそ被害者。日刊リベタへの記事四本。食前にBowmore、鰻丼食し菊正宗。テレビドラマ「ウォーターボーイズ」の録画観る。食後にジャックダニエル。量的には大したことないが環境として飲過ぎ。ポリーニの演奏でベートーベンのピアノソナタ聴く。
マカオにラスベガス資本の金沙娯楽場本日開業。[スタンレー・ホー]氏の40年にわたる独占経営に終止符。40年前には対抗勢力による銃撃すら懸念されマカオ市民外出控え、ホー氏の賭場に職を得た者は対抗勢力によるいやがらせなど恐れ就業日まで誰にも云わず待ったといふ逸話あり。当世はまことに平和なマカオ。(日刊ベリタに詳細記事)……と書いたが晩のテレビニュース見ればカジノ開幕に集った数千人の民衆、開幕待ちきれず職員や守衛の抑制押切り場内に乱入。バカラだのブラックジャックの台に群がる様はデパートのバーゲン会場かスーパーの特売日の如し。民衆の浅ましき様まことに哀れなり。
▼昨秋開催されし「ハーバーフェスタ」につき政府の独立調査委員会報告書政府に提出。報告では、この開催が公共利益にどう合致するのかの検討を怠った政府、政府の投資拡推署の署長でありインベスト香港の代表も務めるマイク=ロウズ君、このフェスタの発案者である在香港米国商工会議所代表のジェームス=トンプソン君、そしてフェスタ開催を実際に請け合ったイベント会社「耀亜国際」、その4者のそれぞれの問題的を指摘。とくに政府側の責任者であるロ君はこの公的資金の融資を殆ど一人で決定し企画内容の詳細を検討しないまま事前に資金を振り出し開催前に一ヶ月の長期休暇の無責任さ。発案者のト君は耀亜国際の出資者の一人と実に背景が怪しげ。具体的に出演したミュージシャンの出演料の高さも指摘されプリンスの百三十万香港ドルは米国での開催に比べ六割高、ニール=ヤングにも1000万円あまり高いギャラが支払われ、その過剰支払いだけでも総額千三百万香港ドル(約2億円)。しかも単独で招聘した場合なら出演料が高くなるが今回の場合プリンスもニール=ヤングもそれぞれアジアツアーの一環での香港公演。またミッシェル=ブランチの場合(といってもこれが誰か知らぬが)東京公演を終えて福岡での公演の間の日程で香港に招聘し往復にチャーター機を飛ばし50万香港ドル(約750万円)と。呆れるばかり。責任者は死刑とはいわぬが無期懲役の処すべき。(日刊ベリタに詳細記事)
梅原猛先生朝日に月一の連載で『反時代的密語』あり。ポスト加藤周一吉田秀和のための連載なのだろうか。梅原先生はじめ山崎正和とか中曽根大勲位が首相の頃のブレインら保守派と見做されたこの人たちが最近の日本についてかなりその欺瞞を尽く発言あり(漁り慶太氏については論評差し控え)。梅原先生は先月のこの連載にても靖国神社について言及。先生は大勲位首相時の首相靖国公式参拝合憲性審議のための藤波官房長官の私的諮問機関「靖国懇」の中にても靖国参拝に反対。その理由の一つに、記紀にある伝統的神道は味方よりむしろ味方に滅ぼされた敵を手厚く祀るが「靖国神道は自国犠牲者のみ祀り敵を祀せぬ、これは靖国神道が欧米の国家主義に影響され伝統を大きく逸脱する新しい神道であるため、と指摘(詳細はこちらが興味深い)。今月は「神は二度死んだ」と題し日本に於いて神殺しは二度あり一度目が廃仏毀釈。明治の「近代化」のなかで仏教が役割をなさぬからと排除され(浄土真宗などその危機回避で明治政府に近づくのだが)「外来の佛と土着の神を共存させた」修験道もまた否定され、明治の国家主義的なる靖国神道が生まれ現人神(天皇)信奉する。ここで生れた教育勅語は「現人神への信仰をもとに儒教道徳に近代道徳を加えたものが羅列すぎたにすぎない」もので結果として大日本帝国の崩壊となる。そして二度目の神殺しが一九四五年のこの現人神の人間宣言三島由紀夫がこの現人神の死を嘆きその神に殉じるため「悲惨で滑稽な劇」を演じている(梅原先生の興味深指摘はもし三島が第一の神の死にも目を向けていたらドストエフスキーほどになっていただろう、と)。梅原氏の指摘は、今日、社会の荒廃だの道徳の欠如だと憂われるわけだが、教育勅語に戻れといった声(教育基本法の改正だの日本の伝統、愛国心だのもこれに該当)もあるが、教育勅語はその第一の神殺しの後に造られたもので伝統精神どころか「伝統の崩壊の精神」に立脚していること。……と以上、梅原先生の御高説。結局、自民党であるとか(民主党公明党にもいえるのだが)保守財界右翼といった方が「伝統」だの「道徳」だのと宣っても所詮、明治の近代主義にもとずくものを日本の伝統だの、と誤解していること。その明治の近代主義は日本の近代化を成し遂げた結果、帝国のファシズムと崩壊という終焉迎えたわけで、今日の改革なるものが結局、戦後の否定で戻ろうとしているところが其処だと思へば将来の結果の失敗は明らか。それにしても伝統として培ってきたものを明治の近代化であっさりと忘却し一九四五年には民主国家建設で亦た戦前なるものを忘却し、今日に至り三度び戦後の否定……とこの節操のなさは特筆に値しよう。

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