富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月七日(金)新界に往く用あり昼に粉嶺聯和墟の「ジャズラーメン」に食す。ネギラーメン麺HK$10増し辛み度1スープ。麺の茹で加減、ネギもネギラーメンだと見た目にてネギを縦に細く切る食肆多きに対してジャズは「従来通り」駅の立食い蕎麦の如く小口に切り天こ盛り。野暮だがネギの風味増して引立つ。一つ残念なことはスープ少なく敢て堅めに茹で必要以上に解されておらぬ麺は麺がスープに浸まず。昼も正午より十分も過ぎれば狭い店内は満席の盛況なり。晩にビビンバ食しZ嬢に「一度「だけ」見てみればよろし」と勧められ毒にも薬にもならぬ百年一日の如きNHKのクイズ番組の「挑戦!ことばゲーム」見る。面白みもなき司会と回答者。点数競っても賞金にならぬのはいつものこと。言葉の連想にて解答「写真集」のヒント「篠山紀信」で「南沙織!」とか笑いもとれず、頭と尻の言葉あわせで「う」と「こ」を繋がねばならぬ時に回答者の全員が「ウンコ!」と答えてしまえばいいとわかっていても言えぬのがNHK。回答者が尻取りで焦燥って「かたわ」とか言ってしまったらスタジオはどうなるのか、などと想像しつつ見終ってテロップで井上頌一先生の構成と納得。それに続くニュースで官房長官福田二世辞任を知る。記者会見の録画見れば、あれけ横柄なほどの自信に濫れし人が原稿持つ手は震えその手の震え抑えられず演台に手が当る音マイクが拾い言葉に詰訥あり尋常でなき様甚だし。辞任の緊張もわからぬでもないが国民の前でのあの動顛ぶり披露は所詮二世政治家の限界。福田一世の「天の声にも変な声がある」には到底及ぶまじ。福田二世「国民におわび申し上げたい」と宣ひ朝日新聞もそれを「陳謝」と表現するが記者会見の映像から国民へのお詫びの陳謝の念など微塵も感じられず。政治家なるもの一世の大胆さ、二世のひ弱さに比べやはり孫の代にもなるとDNAに非動顛性のデータでも刷込まれているのか福田君の辞任接けた小泉三世曰く「私も……衝撃、でした……翻意を……促したが本人……の意思が…固く、残念だ……けど仕方がないと思っている」とこの人のコメントはゆっくり語り始め最後が突然の早口で記者の速記を逸らかす術あり。ブッシュ二世は米軍のイラク軍捕虜に対する蛮行につき加害の兵隊らは「いずれ裁きを受けなければならない」と米国の公平さと正義を説くが「裁きを受けるのはアンタや!」。シーア派の指導者が「あんな残虐さをもつ国がどうして他の国に平和だの民主主義を説くのか」と。御意。
ピカソ廿四歳の作品「パイプを持つ少年(拿煙斗的男孩)」(絵)約113億円にて競売にて落札とか。この絵が名画たる所以は何処に。確かに、色彩的には美しい。少年の顔面の微妙な紅、花の冠と背景の何ともいへぬ茜の色、そしてその紅系と見事なコントラストの青い衣色。薔薇色の時代の代表作などと賞めることは簡単。この少年が素朴で若さ濫れるけがれなき明るさであれば実に通俗的で名画になど値せず。どこにでもある三流画家の作品。だが誰でもわかることだが少年のこの表情に陰鬱とした翳りあり。そこから見てゆけば、結論から言えばこの作品の「卑猥」さに気づくわけで、これは「パイプを持たされた少年」といふこと。少年とパイプといふ似合わぬ、まさに対比。パイプは老いた男であり、少年の持つパイプの吸口がこちらを向いていることからも、少年がパイプを吸っているのではなく、こちら側にいるもう一人の人物のパイプを持たされていること。しかも花の冠。女の子なら自分で花の冠づくりも「あり」だが。三島由紀夫の『豊饒の海天人五衰の有名なる筋に海を見渡す信号通信所で本多繁邦が少年安永透に邂逅したところで
「はい」と、階段の上から一人のランニング・シャツの少年が顏を出した。その少年の髮に一輪の紫の花が傾いでゐるのに目を留めた本多はおどろゐた。紫陽花のやうである。少年が顏を出したとたんに、花はその髮から離れて、階段をころがり落ちて、本多の足許に屆いた。それを見て少年の動顛してゐる樣子がわかつた。頭上の花を忘れてゐたのだらう。花をひろつた本多は、その紫陽花が蝕まれて、半ば茶色がゝつて、萎み果てゝゐるのに氣づゐた。
とあり、これこそ花、少年、老人の図式だが、これもしばらく読むと、その紫陽花も透自身の装いでなく女友達絹江の悪戯で透本人は知らずにいたことがわかる。つまり少年は自分では花を飾らぬことが常識にある。このピカソの描く少年も白かに、この花の冠は厭々ながらかぶることを強いられている。この少年の姿勢にしても、上半身の窮屈さと逆に太腿を大きく開いた不自然さ。少年は、こちら側にいるパイプの持主により、この「まなざしを被る側」を強いられている、ということ。そこまでわからなくとも、我々がそのパイプの持ち主と同じ側から少年を見ることで、非常に猥褻なる視線を投げかけている。ピカソの凄さ。

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