富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

二月初三日(火)寒さぶり返し気温摂氏十三度まで下がるとか。昼前に寒冷警報発令され明朝は摂氏十度と極寒とか。香港は幸い未だ直接の感染なし。野鳥に詳しきH氏に「米埔の野鳥保護区が暫定閉鎖」と聞き世界でも有数の水質汚染なる珠江河口に位置する世界でも屈指の渡り鳥の宝庫もついに環境破壊に閉鎖か、と思えばさにあらずアジア席捲す鳥禽の流感により参観者への感染防御のための閉鎖とか。渡り鳥も今では人類にとってテロリスト扱い。九官鳥ならぬ「流感鳥」なる新種とか。日経galleryの編集者H嬢が「鳥かぜ」と呼び、神楽坂とかにありそうな「鳥料理 加勢」で通称が鳥かぜ。ここ数日腰痛あり養和病院に赴き呉医師の診断請ふ。院内は昨年のSARSの疫禍以来初めてマスク。物理治療 Physiotherapy 勧められ整体(Chiropractic)と何が異なるのかと思えば精緻な問診の上での通電治療施される。Happy Valleyの北村珈琲にて珈琲豆購ふ。午後の雨もあがり日暮れに帰宅途中車を降りてBraemar HillよりQuarry Bay Jogging Trail歩く。重く雲立ちこめる寒き早晩に山徑など独り歩みてPink Floyd聴く。其処はまるでPink Floydの映像の世界。徐々に足下もおぼつかぬほど暗き山徑のその途中には先の戦争にて日本軍の侵攻受け香島に籠る英軍の野営地もあり石爐並ぶなかを歩くは背筋寒きものもあり。幼き頃に夕方遊びやめず日暮れとなり家路を急ぐ頃、裏山などにあって感じたるは静寂のなかの怖さ、寂しさ。木枯らしの風に乗って物の怪が遊ぶか昼とは表情一変。住宅地とて薄暗く家に着き灯りへの安堵、夕餉の支度に忙しい祖母の後ろ姿見た時の安堵。キョービの生活にては忙しきうちに日など暮れて、その幼き頃の、まさに字の如く Evening time の風すら踊る不安定感を感じることもなし。かなり久々にその感覚を皮膚にて実感した思ひ。帰宅してチゲ鍋。椹木野依の岡本太郎論『黒い太陽と赤いカニ中央公論新社読む。椹木氏の一言を挙げれば……おそらく、岡本太郎に「希望」を見出すことができるほど、わたしたちはまだ、十分には「絶望」していない。確かに。まだ絶対的最悪にまでは落ちておらず。だが岡本太郎に希望見出す日も遠からず、か。多摩霊園にある岡本太郎の墓。この顔を微笑ましく見えようはずもなし。この顔には表情といふものがない。空虚。ゾクゾクッと寒さすら感じるこの墓に佇むマスク一つ。
▼戦前は上海にあり戦後香港に遷った永安百貨店は英国系Lane Crowfordと並び香港代表する百貨店ながら不況のうえに百貨店の凋落もあり店舗徐々に減らし、損益HK$118m記録した01年には尖沙咀東と美孚を閉店し今年に入り九龍湾の徳福花園の店閉じたばかりだが新たにホンハムと九龍湾の店も閉じる決定。これで残るは上環の本店、油麻地、太古城とDiscovery Bayの小規模店の4軒のみ。経常損益は02年がHK$52m、昨年上期もHK$21mともはや死に体。死に体といへば香港政府も財政赤字はHK$540億と市民一人あたりHK$1億をば無能無策なる政府のために負債あり。
▼米国紐育州立大学水牛城分校医学院とは何かと思えばバッファロー大学、其処の調査研究によると大麻喫煙する男性の精子は受精卵に行き着かず死滅し易く結果的に生育率低きことになり、大麻吸飲男子は正常よりまた精液量も少ない、と。これは大麻に含まれるTHCなる物質が精子の正常なる活動規則を壊すためだそうな。大麻吸飲が健康に及ぼす影響は稀といふキョービの常識に対して「やはり大麻は悪しき」といふ好材料。いずれにせよ大麻は「まぁ競争なんてよそーよぉ」という感覚なわけで精子も受精といふ生産活動に積極的にならぬのも道理あり。大麻は興奮剤にあらず。この非生産性が時の国家権力にとっては、煙草といふ一服させれば暫くは集中力劇しき麻薬に比べ、やはり国民に喫ませたくなき所以か。