富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2003-10-21

十月廿一日(火)朝も重湯。点滴にて抗生物質投与され眠くもならず『世界』十一月号読む。毎月考えさせられる事多き寺島実郎氏の連載にて寺島氏曰く氏が夏の欧米、中国への旅で痛感させられたのは(以下、要約)縮む日本=米国への過剰依存の中で主体的に行動しない日本への失望感。イラクでの米国支持で日本=勝ち組と認識するのは「とんでもない誤解」。中国は米国との関係を決定的に損ねることのない範囲で米国の行動を批判しイラク攻撃に反対し北朝鮮問題では米朝中の三者会談を実現して六カ国協議を北京で開催することで国際社会での存在感を示し特にアジア諸国から中国は対米でも筋通すアジアのリーダーとしての評価を得たのに比べ、日本は日本が国連の安保理常任理事国になったとしても米国の支持票を一票増やすにすぎないという印象を与えた、と寺島氏。続けて、日本の根源的不安定は、ドイツのEUでの存在とは対照的に、アジアとの協調と安定の基盤を持たないこと、と。N医師の診断あり体調回復見られ晩の診断で担任許可出すと言われ昼に平常食許可でるが何も入っておらぬ腹に突然ヘヴィイな食品は……と自ら気がかり辛みなしの麻婆豆腐かけた軟飯。午後も眠れず江戸川乱歩の『孤島の鬼』(光文社文庫)読む。かなり以前、余がまだポプラ社?の少年探偵団モノ読み耽った小学生の頃に創元社だったのか角川だったのか(それが桃源社版でなかったことは余の郷里のその本屋に桃源社版などなかった筈で(パリのジュンク書店にあったのが立派)それに桃源社版では漢字多く小学生なら書店で手にして購入する気はおきぬはず)少探=子ども向けに飽きたらず本屋で手にした乱歩が偶然にも『孤島の鬼』なり。余は当時からかなり「怪しげ」なもの(奇譚小説、絵、物置や蔵、人形、映画……とかなり乱歩趣味)に興味ある子でこの乱歩の文庫本にかなり惹かれたのは事実。だが流石に十だか十一だかの子どもいに内容が「難しい」以前に「子どもが読んではどこかまずい」といふ直感あり。当時、近くの書店は「つけ払い」がきいて小遣いの心配要らぬのだったが買った本は明細が家に届くわけで、この本は親に叱られのぢゃないか、と。当時同じく諦めたものに平壌放送で知ったチェチェ思想研究会あり(笑)。数十年を経て今回読めば最初の数章で最後の展開まで粗筋を思い出し、当時、書店で立ち読みしていたのかとも思う。老いて読めば奇形趣味も残忍さもそれほどの衝撃もなく寧ろ乱歩先生の物語の美学すら感じ入る。乱歩自身の解説にてこの物語が伊勢に滞在し乱歩先生の畏友である岩田準一氏との歓談のなかで生れていたと知りなるほどと理解。乱歩、岩田準一南方熊楠や村山槐多というネットワークも山口昌男的に面白い世界。一人閑かな病室にて乱歩先生など読むのも「あんまり」だが午後にさすがこの季節となると陽が傾くのも早く小高い西の丘陵に隠れようとする太陽の光が点滴の硝子管に光りとても乱歩的(写真)。ふと川端康成君もデジカメ携えていたらいろんな光のある景色撮影していただろうと想像。どうでもいい風景からきっと「へぇ」という光を獲ていただろう。病室に臥せていると普段考えぬいろいろなことを考えるもので、晩に有線電視のニュースで台湾の李登輝君のインタビューあり。台湾「正名」運動など積極的な李登輝君「台湾人の李登輝が台湾愛し台湾を憂うことが何がおかしいのか。政治に従事したがもともと牧師になりたかった李登輝が人の幸せ、人権を考えることがおかしいか」と。李登輝先生の発言をかなり取上げた形になりこれが香港で許容されるのが不思議なほどだが考えてみれば地上波局に比べ有線は台湾の取上げが弛いといへば弛い感じもあり。地上波が香港とはいいつつ広東省一千万世帯?とかで見られているのに対して有線なら香港だけといふことで中国公安も比較的有線には弛いとか? 晩の有線でのニュースの途中でバンコクからAPEC会議了えた中国主席Coquinteau君の記者会見の生中継あり。今ひとつ華に欠けるが優秀なる官僚然としたCoquinteau主席の会見の様子見て、日本ならさしずめ加藤紘一君であればこのような振りかと加藤君失脚が残念に思えてならず。いずれにせよCoquinteau主席の記者会見に集まった記者の数の凄さ。小泉改憲ぢゃない小泉会見の有無、どれくらいの記者集まったのか知らぬが世界の注目は経済大国日本よか大国中国にあり。基調談話終わり記者からの質疑応答あり朝日新聞の記者勇んで質問、含羞みつつ中国語にて「手短か」が原則のところ3つも質問、1つ目は中国国内の経済格差、2つ目は日中関係、3つ目がAPECでの台湾代表李遠哲との会談の内容について。日中関係の質問の仕方は粗忽、勝谷誠彦氏なら「築地踊り」と揶揄するだろうが「日中関係でここ数年政府首脳の相互訪問が杜絶えているが関係改善のために日本は何が必要か?」と、これぢゃまずい(笑)。これじゃまさに朝貢外交。たんに小泉靖国参拝だの日本の歴史認識に中国が不満なのは誰にも明白、日本には円借款だの技術援助などじゅうぶんにしているといふ認識もあり、中国にもいつまでも過去の侵略行為持ち出す中国の姿勢にも疑問の声もあり、そういった点でも突くべき。偶然だろうが朝日新聞への主席応答の最中に30以上に及んだ生中継中断される。晩に養和病院名物の(と勝手に決めているが)滑鶏の釜飯食す。N医師の診断あり抗生物質の点滴更に1本済ませ昨晩から点滴続きシャツ脱げずの百年ぶりにシャワー浴びて退院。帰宅。昼寐もしておらぬのに薬の所為か夜眠れず乱歩『猟奇の果て』読了。乱歩先生の長編で連載作品にありがちな有名な「駄作」ながら此処までもうどうしようもない筋となると亦たそれも楽し。先生が途中で「あー、もう投げ出したい」と思いつつの連載ゆえ(編集長は横溝正史明智小五郎登場し警視総監から総理大臣まで登場し殆ど曽我対面。光文社文庫版では横溝氏提案での路線変更に至らぬ地味な結論ながらの別本も掲載され貴重。
▼築地のH君によればケン・ローチ監督、朝日新聞には「国労闘争団支援の集会に映画監督ケン・ローチ氏が参加し組合員を激励」との記事あり(笑)、招聘元である産経新聞では「第15回高松宮殿下記念世界文化賞の授賞式に出席するため一足早く来日した映画監督で演劇・映像部門受賞者のケン・ローチさん(67)が二十日、京都市西京区桂離宮を訪れ、約一時間かけて散策を楽しんだ」となぜかカラー写真入り(笑)。不確かな表現、これでは本来目的があるが「世界文化賞の授賞式に出席するため一足早く来日」とも読めるが実際は「世界文化賞の授賞式に先立ち国労闘争団支援の集会出席のため一足早く来日」のはず。どうであれ、産経新聞は監督が何のために「一足早く」来たのかは当然あくまで不問。ちなみに監督の桂離宮でのコメントは「細かいところまでていねいに作り込んである美しい庭園で、感激です。雑然とした街中とは別世界にいるようで、気持の良い時間を過ごせました」。朝日のほうには「イギリスの国鉄民営化は完全な失敗。鉄道の安全性も労働者の働く条件も悪くなった」との発言。漫然と読んでる読者は、同じ人とは気づかぬだろう、と。まさに。これ今年最高の笑話。