富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

九月初七日(日)昨晩の深酒に酔い未だ褪めず。不快に非ずただただ眠し。余の属する走行会の船遊びにてO氏家族とZ嬢につきあい買出し。九時に中環の皇后波止場より船出。朝は雨降りどうなることかと思ったが船出でれば時折青空広がり肌を炒るほどの日差し。船の屋上のデッキに寝続け強烈な太陽の下熟睡し日焼け止めすら塗らずかなり日焼けの失態。龍鼓州にて白海豚(Pink Dolphin)三匹回遊するを眺める。この珠江の下流、未処理の下水だの工業廃液だのが流出するこの世界でも有数の汚染地域に海豚こうして生息することは不便ながらも米埔の野鳥保護区と並び奇跡。昼すぎ大嶼山の大澳。波止場に向かって伸びていた街がバスの普及でバス停に向けて発展し波止場側にはかつての役場だの学校だの廃墟残る。遅い昼食ののち観光客で賑わう大澳の旧市街散策。午後三時前に船に乗る頃に雨模様となり帰りの船は大雨のなか中環に戻る。さすがに昨晩の深酒と船で寝ていただけとはいへ七時間の船に疲労困憊。帰宅して蕎麦食し村上春樹サリンジャー戦記』少し読む。村上春樹曰く「もともと深い問題を抱えた人が即決的な回答を求めることがまずいんであって(笑)、根本的な問題のない人はそんなに安易には回答を求めないんですよね。だから『キャッチャー』のいちばんいい読者というのは、そこに意味や解答を求めない人なんじゃないかな。「ああ、面白かった。なんか温泉に入ってきたみたいで、身体がほかほかするな。どうしてかはよくわからないけど、よかった。心に残った」くらいで、そのままほんのりと内部に止めておける人ですね。……と村上春樹サリンジャーのこと語るようでその本質は村上作品とその読者の世界を暴露(笑)。まさにこれこそ村上ワールド、だから興味もないのだが。村上春樹と柴田先生は『ライ麦』の筋のうちホールデン少年がアントリーニ先生の家を夜中に訪れカウチで寝入ってしまい気づいたらアントリーニ先生に髪を撫でられておりゾッとして先生の家を飛び出すシーンについて語っているのだが、これは表面的には先生にゾッとしてなのだが、本質は、アントリーニ先生こそホールデンにとっては自分もそうなりたい、ライ麦畑のなかを走りまわる子供たちが崖から落ちないように崖に立つ「捕まえ手」そのものであり、村上&柴田もそこまで語ってはおらぬが、つまりその理想型である先生が自分の髪を撫でていたことは、自分も子供たちを守るようなことを言っても実質的には子供の味方でも何でもないこと、むしろ危害を加える大人になってしまう、という惧れをホールデンはこの先生の行為から感じてしまったわけで、自分の夢が壊されることに怯え先生の家を飛び出した、と余は思えるのだが、どうであろうか。