富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月廿一日(月)台風の余波にて通り雨あり。
▼23條立法化に対しての、また董建華による治世の不満から政治不信高またるが保安局長葉劉淑儀と財政司司長梁錦松の辞任及び北京詣果たした董建華への北京中央の続投支持に因りひとまず政治熱下がった感あり。興味深き事はこの冷めた?落ち着いた状況の中でそれを表すが如き評論がいくつか出始めた事なり。劉健威は『信報』の連載にて「血肉模糊的中産階級」なる文章を載せ「50万人デモで中産階級はどこに?」と書き始め、デモに中産階級がいなかったとは言わぬし、人数も多く今までデモに参加などしなかった中産階級の友人たちは皆参加した、が、民主派人士であるとか民主党が彼らを代表するのかどうか、寧ろ彼らがデモに出たといふことは彼らを代表する政党がないから自らが立ち上がったのであり、最も荒謬なるは自由党で当初の立場を翻し田北俊が突然(行政会からの辞任で)この民意の最前線に降りてきて最大の英雄となった、と。「香港には文化的な中産階級もいないし政治的なそれもいないのであり、政治的なリングの上では彼らは牛頭角の下町のオバチャンと一緒なのだ」と結ぶ。政治的な泥臭さからも市民の世論からも距離置いた「一流の文化人としての」劉健威らしい立場、としか言えず。同じ『信報』の文化欄に頸翔なる筆名の隨筆もデモの民衆運動が完全直接選挙の要求など代議政制へと動いているが、それを否定せぬが他の想像だの方法はないのか、と。チェコの劇作家で大統領も務めたハベル氏の“The Power of the Powerless”にある「活得磊落(小事に拘らず高大なる意思をもって活きる)」なる言葉を引き、生活や労働条件の厳しい香港に必要なのは「尊厳をもって活きる」ことであり、政治改革も必要だがまず尊嚴のある生活なくしては政治改革も瓦解するのでは?と。この隨筆も言はむとする処は解らぬでもないが素直に政治改革も生活改善の一途であると思えばここまでシニカルにならずとも、と思えなくもなし。同じ日の紙面に載った二つの文章読み結局、いったいどうすれば彼らのお気に召すのか理解できず。それに比べると同じ日の『信報』に特区基本法委員であり香港大学の法学部教授陳弘毅氏の「民主派に投票して行政長官直接選挙を」なる分析は明解にて陳教授曰く董建華辞任要求の世論強まり確かに董建華が自願退任すれば事は成すが、それは一国二制度と香港の憲政発展に無益であり、民主と法治は等しく重要であり世論により董建華辞任を求めることは法治精神の犠牲あり、最善は2004年の立法会選挙にて民主派に投票し民主派が多数になることで基本法45条に基づき立法会で三分の二が行政長官直接選挙実施に賛成し可決され、それを行政長官が同意し全人代が批准すれば2007年の第三回行政長官選挙で直接選挙の実施が可能、と。陳教授はこの可決がされれば香港の民意尊重にて行政長官がこれに同意せず全人代がこれを批准せぬことはないであろう、と。その理由として、この、現在は行政長官選出で投票権なき市民が直接投票といっても基本法45条に則れば完全直接選挙ではなくあくまで「広汎なる代表制をもつ指名委員会が民主的手続きを踏んで指名」した被選挙人に対して選挙人=投票権のある市民全員が投票するもので、それは米国式の間接選挙とは異なり、政府にとってみれば意中になき者が候補者になるわけで受容の範疇、と。但し陳教授指摘の通り、行政長官の直接選挙は実現できても立法会ぢたいの選挙については全面直接選挙実施に60名の議員定数で三分の二の賛成が必要であることを思えば30議席の地区別直接選挙で選ばれた議員全員がに合意してもの更に11議席もの職業別選挙枠の議員の同意が必要であり職業別枠の議員にしてみたら議席失うこの全面直接選挙には同意し難く直選はかなり困難なのが事実(陳教授は地区別直接選挙枠を30名としているが24名の誤り?こちら参照)。
新潟県加茂市長の小池清彦氏がイラク特措法廃案の要望書を国会議員全員と閣僚に送る義挙(19日朝日「ひと」欄)。小池氏は地元神社の52代目宮司防衛庁の元局長。それなら生っ粹の保守派だが「イラクは小規模不正規軍によるゲリラ戦場。自衛隊を送れば明確な海外派兵になり憲法9条違反」と小池氏。首相小泉三世のイラクでの国内紛争は「夜盗や強盗のたぐい」「殺されるかもしれない。相手を殺す場合もないとは言えない」といった発言に対して、小池氏は80年の米国からの防衛力増強圧力高まった折には防衛局で防衛力整備計画の1年前倒しに取り組み92年のカンボジア派遣ではPKO協力法案の立法作業に係った教育訓練局長の時には「危険を冒すな、一滴も血を流すな」と現場を指導したが防衛力増強は「あれも米国の言いなりだったが増強の意義は日本にもあった。今回はブッシュ戦争の尻拭いにすぎない。自衛隊が命をかけるのは祖国防衛だけでいい」と小池氏。現在は無所属市長3期目で「労組の支持を失ったら市長職から身をひく」と公約に掲げ市民の注文即決を心がける。この要望書受取った自民党議員より「戦争に流れる空気を変えるためお互い頑張ろう」と電話あったそうで「日本が大東亜戦争に突き進んだ時、風潮を怖れず正しいと信ずることを言うべきだった。今、そんな思いで行動している」と。世にイカサマ右翼蔓延る中、この小池氏だの後藤田氏、亀井静香チャンだの自衛隊、警察官僚であって実際に兵を動かす力もったある保守のみ事実を冷静に見てとる。小泉三世といい安倍&石破坊やといい中国を刺激するだけの麻生だ江藤だといった議員らも保守ならば小池、後藤田といった保守の真摯なる神髓を学ぶべし。
▼先週末に北京に参った董建華、Coquinteau総書記と温家寶首相に拝し北京中央の「董建華長官の率いる特区政府の指導で香港市民が目の前の困難を克服することをなお信じている」だの「香港市民が香港の根本的な大局を重視し香港の安定を維持することをなお信じている」といった発言を頂き一先ず董建華解任なき意向授かる。が、董建華の不徳については今回は解任なきことで赦しを得たがもはや背水の陣。たんに江沢民ら前指導部が董建華再任にて熱烈支持した過去あり董建華解任は江沢民の面に泥を塗ることになるゆえの表面上の続投にすぎず。結局はすでに董建華指導力もなく50万人デモの如き大きな市民反発さえなければ二期目満了まで行政長官の椅子に坐られるだけ。次回の行政長官選挙については『大公報』だの保守派民建聯などが(現在の選挙人による代表選挙を廃し)市民による直接選挙実施を示唆しており(ちなみに直接選挙実施は今のところ行政長官だけで立法会の議員選挙は職業別枠の維持のままで全面直選は示唆しておらず)、それと23條立法の仕切り直しにより(またCoquinteau総書記と温家寶首相の中央新指導部に対する香港での高い高感度により)市民の反政府世論を抑えやふという魂胆。行政長官の直接選挙は香港の自治と民主制の上で北京政府にしてみればかなりの譲歩だが董建華だの親中左派だの支持激減の民建聯などに任せておいて市民の反発食らうよか所詮「地方自治体」ゆえに民主派の取り込みにより安定した政治体制の維持を図ろうとするもの。