富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月二十四日(火)快晴。昨日WHOが香港の感染地域指定を解除。それに由り日本政府も外務省のパブ安全の海外渡航情報だの厚生省の勧告も解除。三月末からの感染症「症候群」ひとまず終焉迎えるかと思うと安堵。さまざまな問題がこの症候群で明らかになった感あり。
1)対処の遅れ。香港の感染蔓延は単えに当初の隔離などができなかったことに因るが日本及び在港法人の動きなど見ていても感染源が特定できず感染者が街をうようよしていたころには対処せず日本政府の外務省だの厚生省の勧告が出たら一気に警戒ムードとなり渡航自粛だの、と。だがその頃にはすでに感染源も特定され蔓延地帯の封鎖だの隔離だの行われていた事実。
2)マスコミ、とくに日本のマスコミの過剰報道。「とにかく情報がなくて混乱してるんです、というコメントだけ言ってくれればいいんです」とテレビ取材の依頼、某新聞社は「情報がなくて大変だと思いますが」と(嗤)。情報がなくて混乱しているのはアンタらマスコミであろうし、情報がないということを強調することによって結局は疫禍を伝えるよかマスコミ報道の重要性を認識したいだけ。だが現実には感染源特定されず香港内の各地で感染者が出た数日を除けば情報がなくて困惑したこともなし。
3)そのマスコミが扱うべき情報について実は面白き現実はSARSについてはインターネットでの情報がかなり早く流れており(たとえば香港政府であるとかWHO、草の根的には日本人のこちらとか)マスコミもそれの後追いとなり、かつてはマスコミの情報を得る視聴者側と取材する側が今回のSARSでは同じスタートラインとなってしまった事実。マスコミがやっきになって取材しても例えば総領事館とか日本人学校などがすでに情報をそれぞれのサイトで公開しており取材するマスコミに「HP見てくれますか」と扱われては立場というものなし。芸能人が結婚するとか妊娠したとか最近はまず自分のHPで流してしまう、というのも実によくわかること。マスコミの餌食となるのなら最初に情報を公開したほうが勝ち。
4)今回のこの感染「症候群」のヒロインは、感染から疎開するため成田空港に降り立った主婦の感染が怖く「下界には下りないようにしていました」と。いったいアンタ何者?と唖然。陽明山荘にお住まいという噂も流れたがもう下界には下りてこられるのだろうか。
5)今日の信報の社説でも最初に語っていることだがSARSは結局、死亡率が17%に上ったこと。政府は当初、死亡率は5-6%としていたが、4月25日のこの日剰にて紹介した通りこれは死亡者数を当時の感染者数で割った数字のトリックで、本当は死亡者を完治者と死亡者の合計(つまり感染後の結果=生死が判明した者)で割らねばならず、そうすると死亡率は当時で最終的に19%と予想されていたもの。それが17%に下がっただけでもわずかの幸いか。感染を初期に抑えられなかった政府の責任はこの5-6%などという数字を用いたことからしても許されぬこと。
黄昏に尖沙咀東のRoyal Garden Hotel。このホテルもアーケードの商店は半数以上がすでに廃業、この不況のなかでのSARSの恐ろしさを感じ入るばかり。ただ疫禍解除とちょうど時を同じくしての朗報はかつて中環は閣麟街にてRolexの骨董時計扱っていたS氏より携帯に伝言あり西環街市にて家業再開と。嬉しいかぎり。ホテルの酒場Matiniで一人新聞読み記事を拾う。Z嬢と待合せ。19時前に格式ある酒場のシキタリとして酒菜が供されたのはありがたいが、それが焼豚(写真)。麦酒ならまだしもMatiniを売り物にした酒場でMatini飲む客に焼豚ではあるまい。口に豚の脂味が残ってとてもMatiniなど美味く飲めず。お勘定の時に大変申し訳ないが女給にそれを伝えたが“I see”などと笑顔で答えているが、ありゃきっと「この客は焼豚が嫌いなのだ、こんなに美味しいのに」と思っただけであろうし、明日あらためて飲食担当経理にお電話で伝えるべき。Z嬢と二人で某日本料理店にて寿司を主とした懐石料理。酒のリストを所望して開いたらいきなりアルゼンチンから始まり何かと思えばこの日本料理屋だけでなくホテルとしてのワインリストでインドとメキシコの間にJapanあり、そこに清酒並ぶ。日本料理屋でワイン出すのは自由だが(余は飲まぬが)他のウイスキーであるとかウォッカとかはそのリストに含まれておらず日本酒だけはJapanese Wineということなのだろうか。多国籍料理屋ならまだいいが、そこそこ名の通った日本料理屋で懐石というときにインドとメキシコの間から清酒選ぶのもねぇ……。結果的にお食事はといえば価格は超一流、味は寿司も含め愕然とするほど、福正宗の生冷酒も酢が入ったような味……とかなり悲しくなるくらいだったのだが、今晩は実はお食事券いただいて、の話なので余り悪口をいうのは失礼かと思い敢えて店の名は挙げぬが、ただお食事券使っても懐石とお酒の差額で他の店なら二人で軽く飲んで食べれるけっこうな額も払っており、その額だけで考えてもまだ割が合わないほど。二度と行くまひ。前回一度行ったのは歌舞伎の市村萬次郎丈の初めての香港公演跳ねたあとに萬次郎ご夫妻に招かれ末席を汚した時。その時そこそこイケた記憶もあるのだが。
▼8名のSARSで亡くなった医療関係者の写真を掲げたSouth China Morning Post紙の1面全面記事、このSARSの数字を大きく掲げる。
These people died fighting a disease that struck down 378 of thier colleagues. In total, 1,755 Hong Kong residents were infected, 321 at Amoy Gardens alone, and 296 died. 1,262 people were put in isolation, 13,300 jobs were lost and 4,000 businesses folded. A WHO travel advisory was in place for 52 days, 13,783 flights were cancelled, 3,600,000 fewer travelleres crossed at Lowu and 1,000,000 foreign tourists stayed away. Today, 104 days after the outbreak began, we are free of Sars.
▼そのWHOの香港が疫禍から解除という報道を伝える日経の文章にSARSの撲滅まで「あと一歩まで来た」とか香港では20日以上「SARSの疑いで隔離した患者は出ていない」などという表現あり。「あと一歩まで来た」は文法としての間違いはないのだが「あと一歩のところまで来た」か「あと一歩だ」のほうが馴染む表現。また「SARSの疑いで隔離した患者は出ていない」というのは疑いで隔離された場合、まだ患者ではないと思うのだが如何だろうか。
SARSは去ったが待ちかねたように尖閣列島。日本政府がこの島々を「民間」から借り上げたことに抗議して中国より抗議船が釣魚台=尖閣列島を目指したところ日本の軍艦=海上保安庁の巡視船に航海阻止され、また数年ぶりに釣魚台=尖閣列島問題が日の目を見る。あまりにSARS終わっていいタイミングで意図的か、とすら疑いたくなるほど。
▼インド首相が訪中。中印関係原則並びに全面協力宣言を締結。インド政府はチベットが中国領土であることを初めて承認。ダライラマがインドに亡命し亡命政権をインドに設けているようにチベットは中国とインドの対立をうまく利用してきたが……。よくわらかぬが米国の覇権に対してインドという大国が中国と組んでそれを牽制という観測もあり。そのなかでチベットなど翻弄されろうのだろうが。
▼Z嬢がある日本人の女性から「ねぇ、○○さんの家ってお米がDouble Rumなんですって」という噂を聞かされた、と。Double Rumは豪州産の日本米にて、つまりこれを使っている家庭というのは貧乏、恥ずかしいというcodeが彼女たちの間にはある、ということ。くだらぬ。ちなみにZ嬢はDouble Rumには「劣るとも勝らぬ」桜の新城なるやはり豪州産日本米購っているとは言えずとも、客観的に考えて電気釜で日本に比べ電圧の関係でどれだけ早く炊飯がされ、水がこれほどまずく、そのような条件では日本産のコシヒカリ使ってもDouble Rumでも同じ、とZ嬢。むしろきちんと米を研いでから水切りして良質の炭までいれて炊けばどれだけ米も美味いことか。