富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月五日(木)晴。朝、昨晩の競馬疲れもとれぬまま新聞広げ卒倒しそうに。海老鞍サミット終えたブッシュがヨルダンにてイスラエルパレスチナとの首脳会談開きシャロンパレスチナ国家容認と違法入植地からの撤退を表明、パレスチナ側も武装闘争停止を確約、と。93年のオスロでの暫定自治宣言にかわり米国主導での和平始まる。眩暈。これじゃ暴力団の抗争の手打ち。地元暴力団と地元住民との抗争に広域暴力団が乗り込み「てめーら、いつまでもドンパチやってるとウチの組が出てくぞ、いいのか、てめーらそれでも」とガン飛ばすが如し。かつてのパレスチナ解放のためにと日本赤軍までが合流し左翼ゲリラ活動が威欲衰えたあとはカーターのキャンプデービッド会談やオスロ合意など人道的見地よりの調停と和平交渉が続いたが、結局は覇権と軍事力による抑止とは……。イスラエルにしてみれば周辺の「テロ」国家を鎮圧成敗してくれる米国が自国支援を着実にするならばパレスチナとの対立、抗争など続けるよか譲歩を見せ周辺イスラム諸国に対して中近東にて謂わば小米国的に覇権握れるという利益勘定というか悲願達成。それもこれも米国がブッシュを大統領にしたことで米国本来の「悪い奴等をやっつけろ」という非常に単純で安易な保安官演じることになんの躊躇もなくなったからで、イスラエルにしてみれば祖国建国から着実に続けてきた米国でのロビー活動の成果がブッシュ当選という茶番でかなり急な展開みせ見事成就。それにしてもブッシュ当選、9-11、イスラム原理主義テロの登場、必要悪としてのイラクフセイン政権、と本当に偶然なのか疑うほど世の中に余りにも米国主導の新保守主義イスラエルに有利な出来事ばかり。これのどこが偶然なのだろうか、偶然のわけもなし。まるで広告代理店が仕込んだキャンペーンの如し……などと考えながら新聞スタンドに並ぶ朝刊見ると蘋果日報だけが一面全面昨晩の天安門事件追悼の維園64燭光集会。他の新聞は故意か偶然か富豪の車が事故で火災とか一面トップ。信報が一面トップは別記事(かなり興味ある内容にて下に綴る)ながら同面にこの追悼集会記事あり。昨晩の追悼集会は主催者側発表で50,000人と昨年を5000人上回る、これは93年並みの参加者数(ちなみに官憲は99年からだか数字発表せぬのは政治的配慮からか)。64からは14年経ても23条立法など悪雲立ち込めカソリック教会がこの動きに反対表明したことも大きい。ちなみに政府はこのビクトリア公園(維園)よりわずか1kmほど離れた香港大球場にて「活力香港強身健体show」ってもう少しマトモなアイデアはないものだろうか?、芸能人集めSARSに打ち勝つ健康な身体を作りましょう、というフィットネス企画。つまり市民は頭は使わず身体だけ動かして健康馬鹿になれ、ということか。これの参加者が18,000名(主催者発表)で、64の50,000名は少なくとも香港市民は理性的な判断ができるだけの頭があるということを表明。親中資本に買収され最近は董健華に対する辞任勧告ともとれる社説で話題のSouth China Morning Postは社説で、64の追悼集会が開かれることは香港が一国両制を維持できている証左であり、23条立法は来年のこの集会がどうなるのか?と不安材料でもあるが、中国も天安門事件で当時の総書記趙紫陽氏が天安門に学生見舞い涙ながらに学生に罪はない旨を演説した時にその趙氏の傍らに企っていたのが現首相の温家寶氏であり、趙紫陽の側近中の側近であればそれだけで党中央で天安門事件以降は失脚させられても当然という予測もできたのにこうして首相に抜擢されるだけでも中国も中国なりに改革を遂げているのであり、その中国とのバランスのなかで香港は香港のこの自由をどう維持してゆくかが問われている、といった要旨。親中資本であると思えばぎりぎりの線でよく説いたと納得。箱島体制で体制すり寄りの迷走飛行続ける「ひかえめな愛国心」宣う朝日はこのSouth Chinaの爪の垢でも煎じて飲んだほうがよい。藪用あり尖沙咀東にある華懋廣塲ビルに参る。ここは香港の大手不動産デベロッパー華懋集団の大本営でもあり華懋集団といへば世界有数の女富豪と称されるNina女史が社主であり、もともとこの財閥は彼女の夫の父親が創業者であったがこの夫が二度目の誘拐で行方不明のまま裁判所が死亡確定し妻が亡夫の事業引継ぎ才覚で事業発展せせたが納得ゆかぬのは創業者である老父。息子の二度の誘拐は未解決のまま迷宮入り、亡息が妻を遺産相続人と遺書に認ためていたことで事業はこの妻に乗っ取られたようなもの、息子の死も釈然とせぬがまず明らかにこの遺書の信憑性が疑い裁判おこし昨年初審では偽造の可能性が指摘されこの女富豪が警察の事情聴取受けている。それだけでもかなり怪しいのだが何よりも妖しいのはこの女史の容貌であり(写真)ご覧の通りいがらしゆみこのキャンディキャンディの大ファン、そればかりかこのビルに入るなり昇降機ホールに巨大な女史のイメージキャラ像あり(写真)眩暈起こしそうになる。ちなみにこの伽羅キャラ像、韓国の何某か芸術家の製作、寄贈だそうな。このビルにオフィスがある会社の社員毎日この像を拝みながら昇降機にて階上に上がるとは。
▼信報にあった興味深い記事とは香港中文大学の調査によるとここ数年企業の収益が急減するなかで一部の大手上場企業では取締役の報酬が逆に上昇しており、具体的な数字で見ると91年から98年まで企業の利潤の増長が1.8倍なのに対して管理層の給与上昇は3.5倍という不均衡。例えば電話独占企業のPCCWが2000年にHK$69億の巨額損益を出しながら取締役の報奨金だの手当がHK$6.3億、高級ブランド小売のDickson Conceptも2001年の業績が前年比63%と低迷しながら社主Dickson Poon氏の年収が前年比6.25%上昇の推定HK$800〜850万などなど。明らかに会社経営層の給与取りすぎだがが会計士協会の専門家は上場会社の管理層の待遇給与を小株主などの意見で左右するようになると会社の管理機能体系を壊すことになりかねず監査役員の権限増強であるとか適正なる報酬検討委の設置などを提言。もはやこの厚遇は不公正、横領の域であろう。昔の経営者に比べ実際の創業能力や指導力など甚だ落ちるのだが肩書きだけが権威、それに最初からいつかは失脚が目に見えており「もらえるうちにもらっておこう」という狡賢さか。それにしても会社ぢたいが損益で株主だの投資者に明らかに負資産をもたせておいて、経営陣の無能力な上のこの狼藉がどうして許されるのか理解できず。香港金融管理局であるとか総裁の年収が米国のグリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長の数倍であるとか嗤うばかり。このような虚業の輩、魑魅魍魎が会社の現金をごっそりと横領して逃げてゆく、もしくは追い出されると思うと年収数千万円に甘んじ企業経営に勤しむ日本の大手企業の経営者は清貧と言わざるを得ず。ただどうせそこまで管理層が品行正しても結果的に会社の利益上がらぬのなら意味がないと言われては反論もできず?
▼昨日の日経一面に「エルピーダ1000億円調達」とDRAM製造企業の記事あり。ではDRAMとは何か記事読んだら「記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー」とあり意味全く不明。文字通り読めば「随時書き込み読み出しのできるメモリーなのだがいちいち記憶保持動作なるものが必要」って、つまり不便なメモリなのではないか?と読めやせぬか。そんな不便なものに親会社のNEC日立製作所、それに米インテルなどが1000億円投資するだろうか。このDRAMなるもの、素直にDynamic Randam Access Memoryと書かれていれば素人ながら「ああ、なるほど、かなりダイナミックにランダムなアクセスのできるメモリ」なのだ、と判りその製造意義が理解可。せめて「書き込み読み出しが随時可能なメモリ」でいいのではないだろうか、日経の説明の「記憶保持動作」の「動作」がよく判らぬのだが、これは動作でなく「作用」だとしたら「記憶保持作用」つまり、それってメモリのことか? どう考えても不可解な説明。それにしても英語か、日本語だの長ったらしい言い回しになってしまい品がなく、こういった造語が見事な漢語ではどうなのかと探したら「静態随機存取記憶体」と真に言い得た表現。集積回路なのであるからHDのようにガギガギと音たてて動くものに非ず(つまり記憶保持に動作はなく)静態でありながら随時、機に応じて保存と取出しできる記憶体(メモリ)とこれなら理解可。せっかく漢字と漢語の伝統があるのだから話し言葉DRAMでいいが書き言葉でもっと漢字多用して意味を伝えるほうが「記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー」なとどいう不明朗な言葉並べるよかどれだけ利があるか。
▼同じ昨日の日経だったが拉致議連北朝鮮政策を巡り外務審議官田中均君らの責任追求だそうな。田中君は先の日米首脳会談で小泉三世が北朝鮮には「対話と圧力が必要」と述べたのに対して田中君が記者への説明資料から「圧力」の文言を抜き、更に北東アジア局長平松君も国連人権委員会作業部会に対して拉致問題の追加資料がないと事実に異なる通知をしたのが咎だそうな。拉致も家族会、支援する会に続いて議員連盟(おまけに会長はムネオとの冷戦構造の箍の外れた中川昭一君)、この拉致についてはちょっとでもその主催者らの意向から反れた発言、思考があるだけで糾弾されてしまうのだから、このままゆけばどこまでこの覇権が及ぶのか理解するだけでも恐ろしいこと。それにしても拉致議連って言い回しはどうにかならぬだろうか。「ナベサダ兄殺害」でナベサダ氏が兄殺害したのか?と驚いたように、これでは拉致する側の議員連盟。抗拉致議連とか拉致抗議議連とかでないと漢語としての意味通じず。
▼これも昨日の新聞にあった弔報だが、若い方はご存知なかろうが和製ディマジオの異名とった50年に松竹で(って六代目菊五郎が亡くなった翌年の歌舞伎世ではない、野球である)プロ野球初の50号超える本塁打記録した小鶴誠氏が逝去(80歳)。そしてわれら往年のプロレスファンにとっては「銀髪の吸血鬼」と名を馳せたフレッド・ブラッシー氏も逝去(85歳)。得意技が噛みつきの反則攻撃だってんだからたいしたもの。日経には「数度にわたって来日」し力道山ジャイアント馬場らと戦ったとあるが数度どころぢゃない。「数度米国に帰国」というくらい日本で活躍。それにしても相手に噛みついて相手の額だの耳だのを血だらけにして血まみれの口をあけて客を睨んでみせる演技は見事。それも当時だからできたことで今のような感染症の蔓延する社会ではあの噛みつきなどまさに命取りで数ヶ月でお陀仏かも、とても85歳の天寿など全うできず。50年代から70年代が今にして思えばなんと平和な時代であったか。
▼昨日の新聞は読んで驚くこと多かったのだが、日経で演劇研究の河竹登志夫氏(市村萬次郎の初回の香港公演(確か96年)の際に河竹氏も同行し歌舞伎についての講演あり)の自伝的随筆あり、それに子供の頃に見た芝居で1924年生まれで5歳の時だそうだから29年になるのだろうが昭和4年に大隈講堂で勘弥と八重子(13代目守田勘弥と初代の水谷八重子)が演じる「ファウスト」を見ており、牢獄の場と加藤精一のメフィストを覚えていると。こんな芝居が演じられていたとは想像するだけでもわくわく。細かい説明は省くがこの13代目の姉の子が14代目であり、このファウストからつづく情念の結晶のようなものが玉三郎という稀有の女形を生んだと思うとさらにぞくぞく。と書いても若い方にはご理解いただけぬだろうから多少説明すると玉三郎君は14代目の養子なのだがうちの祖母など生前「玉三郎ちゃんは勘弥と八重子の子に決まってるぢゃないのよ、どうして突然巣鴨だかの料亭であんな綺麗な子が生まれるはずがあるのよ」と。これが事実かどうかは別としてその筋のほうが美が引き立つ、というそういうお話。