富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月二十八日(金)薄曇。昨晩ここ数日の疲労にて日記すら綴れず。更新せぬこと稀な我ならば「すわ富柏村も感染か」と思われた輩もありやなしや。キョービの流行りはマスクにて、誰彼ともなく顔あわせばマスクにてどれだけ防疫の効用ありなしと話題弾みマスクも外科手術用のマスクにては肺炎の菌防げぬだのN95なるマスク効果的だの日本の花粉症のマスクがいいだの駄目だの、住友3Mの花粉対策防塵用が高いが最高だの、何処そこにてはN95 をHK$100にて売っていただの、金持ち及び全額保険カバーにて治療費など気にもせぬ日本人外来多き某総合病院にてマスク売るオファーあるが暴利貪るに違いないとの憶測だの、日本の知人兄妹に頼み東急ハンズにある最も緻密なる防菌マスクをDHLにて送るよう依頼しただの、成田空港にマスク売り場出現だの、東大病院の医者に頼んだが時節柄花粉対策にてネコババする職員多く管理厳しく外部持ち出し禁止だの、いちばん安全なのは米軍の対細菌兵器用マスクであるとか、米国総領事館イラク駐留軍より防砂マスクをわけてもらえるよう打診中とか、営団地下鉄サリン対応マスクは効果覿面とか、何処まで本当で嘘かも判らぬ話多し。いずれにせよ、この物騒で不景気なる昨今にあってひとり笑い止まらぬは薬局だの大手ドラッグストアのWatson's(屈臣氏)とManningsが双璧、マスクばかりか漂白剤、消毒液、消毒用アルコール、消毒アルコールパッド、そのうえ帰宅したらすぐ嗽口に嗽液は必要、沐浴推奨され、すべてがWatson'sにて扱う商品ばかり。このマスク大売れに便乗してルイヴィトン社が高級マスク売り出し、The Louis Vuitton mask is made of “super-soft Connolly leather with a monogrammed sterling silver clasp” and retails at $1,800で、中環のThe Landmarkのルイヴィトンには早速有閑マダムの行列出来、即時売れ切れで二週間待ちのウェイティングリストだの、Gucciもそれに対抗して明日よりマスク発売とか……メールにて非典型肺炎の如く拡散される。肺炎蔓延にて鬱屈とした日には誰でも馬鹿馬鹿しきこと考えるもの。さふいふ我もどうせならNikeだのAdidasだの若者向けに自社ブランドのマスク売り出すか、もしくは宣伝かねて無料配布すれば顔面前の広告とはこれほど効果あるものなく、日本政府も日の丸マスクでも作って総領事館より邦人に配布でもすれば国旗への愛着も沸くのでは?と思いもするが白地に赤丸のマスクしては吐血しているとでも思われ怖がられるだけ、か。いずれにせよ人のおかしきところ「大変なことになりました、なりました」と当人か家族に被害なきかぎりはどこか昭和初期の銀座のカフェにて憂国談義の如し。またどれだけ情報掴んでいるかが仮面ライダーカードどれだけもっているかに近い自慢話となり、焦点は邦人に感染者ありやなしやと詮索、邦人にとっては邦人との接触多く気になるのだろうが、それいぜんに社会なるもの人対人の接触の場にて国籍も人種も関係なし。大学8校も休校措置。来週調べものあり香港大図書館に行くつもりが。北角を車で過ぎれば街ゆく人も少なく北角といへば大陸からの観光客にて賑わふはずが見かけもせず。帰宅するとZ嬢昨日I嬢よりいただいた夜来香、余の書斎に活けてあり芳香漂い束の間の憩ひ。親子丼。NHKニュース10イラクの米軍に密着取材する記者との珍問答に呆れる。何食しているのかだのどのように寝るかだの、南極越冬隊へのインタビューの如し。そのうえ「人がいい」以外何の取り柄もなき司会の今井環と元気だけが取り柄の森田美由紀であるから特派員に「お疲れじゃないですか?」、特派員も今時の本多勝一とは違う意味で従軍を恐れぬ若者であるから「大丈夫です、若いですから」と暫し笑顔にて談笑。
▼国内インター校出身者の大学入学資格について文部科学省、欧米系のみ認め朝鮮学校などアジア系校にそれ認めぬ「緩和策」、在日マイノリティ団体などよりの反発うけ、あっさりとこの緩和策凍結し再検討、と。反発あることは最初から予想できることにて、それに「屈する」程度なら最初からこういった判断をせぬこと。朝鮮学校など外したことが対北朝鮮の「国際」問題(これのどこが外交なのかわからぬが)絡みといい、だが反論された場合に建前であってすら何ら論理的に立ち向かうだけの根拠もなく、そういった理論で語れぬ連中の何処か文部「科学」省なのか聞いて呆れるばかり。それにしても日経の社会面、朝日ほど激情ではないが「在日朝鮮人系の団体や一部の大学教員などから(略)反発が相次いだ」って、この大学教授の「一部」とはどのくらいの反発なのか、こういった慣用節は不案内。こう書けば少数ながら反発する大学教員がいる、というように読めるが、具体的な問答調査の数字があるわけでもなく、根拠なき修辞。ところで「朝鮮学校などアジア系の民族学校」と日経も書いているが、これって日本最大のアジア系民族学校である日本の小学校もこれに該当するのだろうか。
▼忙殺され新聞読む暇もなくいると多摩のD君より米国政府内部ではパウエルが「保守派が外交失敗の責任追及してるが自分は辞めない」と言った(毎日)翌日、当の保守派の頭目パールが辞任する(毎日)などの動き、報せあり。戦時中にもかかわらず(だからこそ?)米政権中枢でネオコン共和党穏健派のすごい暗闘が展開している模様。我が国では内閣なり自民党なりでこのような動きといへば真紀子大臣の半ばお笑いになつてしまふ。
▼築地のH君はフランス事情気になり産経新聞(27日「山口昌子の眼」パリ支局長)に「大統領は後に、80年に初めてドビルパン氏に会ったときの印象を親しい記者にこう語っている。《彼がやってくるのが見えた。長身のこの青年は外務省のアフリカ部に勤務していた。実に素晴らしい知性の持ち主だった》。さっそうと登場した青年にシラク氏が一目ぼれした様子がうかがえる。シラク氏48歳、ドビルパン氏27歳」とあり「産経新聞にもためになる記事がでる(こともある)、と。確かに。フランスだとこうして美学、それが日本で想像するとどうして三塚博系の脂ぎった代議士と松下政経塾出身の若造の醜い世界想像してしまふのか。