富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2003-02-01

癸未(みずのとひつじ)年正月元旦(土)晴。昨晩一 人四合だか飲んで一時頃寝ても朝六時すぎには目が覚める、老い。不快なる宿酔もなく気持ちよく目覚めるが最近疲れがすぐ目にくるようで飲みづかれで目が痛 む。居間にほのかに桃の花の香り。橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか」ちくま新書読む。朝日の書評に亜流であること面白かった橋本評論の世界なのに 最近は権威になってしまったこと嘆いていたが、実際には治ちゃん本人は昔から書いていることも論法も変わっていないのであって変わったのは橋本治といふ 「へんなおじさん」を「なんかちょっとへん」と思って斜視していた世間が「いや実はこの人の言っていることは真っ当なのかもしれない」と思うようになって しまって、これまで橋本治なんて……と卑下していた人、嫌っていた人、気持ち悪いと思っていた業界関係者まで橋本治をそれなりに認めざるを得なくなって、 そうすると、でもやっぱりどこか認めたくないから、そこで「亜流であったから良かったのに橋本治もなんか権威になっちゃうと」といふ論法を用いることにな るってことか。ただ読んでいて感じることは、治ちゃんの独特の饒舌なる文体、要約したら10分の1でまとめられるし、この本でいえば第一章「美しい」が分 かる人、分からない人、この章は不要、第二章は青空があってこそ雲が美しいと映える、といふこと、それに最後の「人間の前から夕焼けが遠ざかって、「人間 の一日は感動で終わる」という事実も遠ざかって行った時、「美しいを分かる」の大切さもまた、曖昧になって行ったのだと、私はそのように思っています」と いふ、この一文だけでいいのかもしれない。第三章以降は得意の枕草子だの用いて具体的に美を語るのでいいのだが、ただ朝日の書評でも指摘されていたが「清 少納言的な女と兼好法師的な男が結婚した……その結果が、「現代日本の平均的な中流夫婦像」となっているもかもしれません」と言われても、確かにそういう 男女の一対はよくいるが、果たしてそれが現代日本の平均的な中流夫婦像かと言うと、そんなはずはない。イケイケのオンナとどこか退いてしまっているオトコ という確かに面白い一対だが、兼好法師とて治ちゃんが嫌うほどフツーの男ではないし、兼好法師だけの素養のあるってことぢたい現代日本の平均的な中流夫婦 像で描かれるオトーサンとは違うはず。午後ジム。更衣室で財布なくす。ジム出て気がつき戻るがロッカー(というか床に落 としていたはず)になく、現金数百ドルと5年使っていたヴィトンの財布は諦めてすぐにクレジットカードの手続きと思ったがOctopus Cardが銀行口座と連動しており残高HK$0となると自動的に銀行口座からHK$250振替えされる仕組みとなっており最近は交通機関ばかりか このカードで買い物もできるので慌ててMTR尖沙咀站にて届け出、クレジットカードと銀行カードもすぐ取消しと再発行の手続き済ませ警察に届け出と彌敦 道歩いているとジムより電話あり財布拾った御仁あり、とジムに戻る。インド人の中年男性にて幸い財布は何も盗難に遭うこともないままこの御仁に拾われてお り謝礼をと札を数枚渡そうとすると固辞された上に冗談でポケットから数千ドル分の厚い札を見せられ「カネならあるから」と。深謝。Z嬢と尖沙咀で待ちあわ せOcean Terminalの船着き場に停泊する外用客船をぼんやりと眺める。初老からの夫婦づればかりだが客室のバルコニーで寛ぐ人、デッキ散歩する人、バーでグ ラス傾ける人、などなど。Dan Ryan'sで幾組かの友人と晩餐。佐敦に住むI夫妻宅にお邪魔し檸檬リキュール、伊太利産だからLiquare de Limoniか、MartellのCordon Bleuいただく。I氏宅の向いはかつての英軍Gun Club Hill Barracksに続く軍用地にて現在は人民解放軍の軍営、ここに大規模な軍営医院が出来ており、その向こうに高級マンションと思われる建物あり。高級士 官宿舎かと思えば帰宅して地図で確認すれば駐港三軍会所(クラブハウス)、なるほどね。
▼財布なくしてCredit Card会社などに電話するに繁華街うるさく、さすがに元旦で店も閉まったままのHyatt Regency HotelのShopping Arcadeで携帯から電話していると背広仕立屋に日本語で「どうかお気軽にお入りください」と看板あり。一瞬マトモな日本語に思ったが、こりゃ「どう ぞ」だ。不況のうえに日本人観光客も減り財布の紐はきつくなり「どうか」は店主の心情を吐露しているかも知れぬ。