十一月六日(水)快晴。昨晩遅く吉野俊彦『断腸亭の経 済学』読了。著者は千葉生まれながら東大、日銀調査局長まで務めた経済家でしかも森鴎外や荷風の研究家。曾ては財界とて「昨今の吉右衛門君の舞台 は」などと劇評、謡曲やオペラなど趣味人多きものながらゴルフが全ての文化を駆逐したか。吉野氏は東京人にて、それが身に染みつきすぎているからか荷風の 日記が戦後一行日記になってゆくなかで「晝淺草。大黒屋にて晩餐」といふ記述を「不思議に思うだろうが」「大黒屋は市川の荷風の住処の近所」というような 注釈をつけているが「不思議に思うだろうが」というのが、それだけじゃ何が不思議なのかわからぬ者多し。「大黒屋といっても浅草の雷門の大黒屋ではない」 「晝に浅草に行ってずっと徘徊して夜となり大黒屋なんじゃなくて、さっさと市川に帰って近所で晩飯ということ」と書かないかぎり「大黒屋といえば浅草」と いう印象なき「田舎の」人々には理解できぬこと。でも東京人たる氏はそういう観念なくさらりと書いているのが、それが東京文化。吉野氏曰く日記といふもの は鴎外も荷風も晩年は一日が一行になっていく、と。あたしゃまだ大丈夫か(笑)。ContaxのG1購っ てより写真撮影始め白黒写真の露出もよくわからずながら或る人に写真なかなか好しと讃められ調子に乗り写真二葉、日剩10 月24日のあたりに上網。センチメンタルに物語などつける。晩に二日続け佐敦に赴き、ふと大家樂にて独り食事せんと発案。昨今香港に於ても日本のハンバーガー だの牛丼と同じくファーストフードだのコンビニの類が熾烈なる低価格競争繰り広げセブンイレブンHK$10にて弁当売り出せば大家樂などHK$13だかで 飯と湯に食後の飲み物までつけるほどにて、日頃卑下するファーストフードの類食すことかなり稀にて大家樂など七、八年ぶりか。しかも大家樂の旗艦店なる佐 敦道呉松街交差点の店にてHK$10の弁当だのHK$13の餐飯(セットメニュー)は晝時のみ、夜はさすがに値段が漲るが、それでもHK$25にてぶっ掛 け飯に凍檸茶つき。夜メニューは「鍋」が売出しらしく、わずかHK$45ほどで牛肉、野菜たっぷりの鍋が、しかも出来合いに非ず素材の具が皿に盛られ簡易 コンロのきちんとした鍋セットに火を点し鍋するはかなり本格的。価格破壊のなかでの盡力に共感しつつぶっ掛け飯といへば科学調味料に甘味使いすぎ当然のこ とながら素材の味など微塵も非ず餌の如し。三更臥して荷風『断腸亭日剩』昭和12年冬の頃を久々に読み始む。
▼中国の一党独裁など揶揄するまえにふと思えば日本とて曾てのソ連の如く自民党支配の下、国家機関と党組織 がずるずるべったりに癒合、と築地のH君。人材も結局その枠組みのなかの「改革派」という形でしか出てこれない。もしくはその亜流ということ以外にカラー の見出せぬ民主党。竹中平蔵の「改革」とか90%の日本人は痛い目にしか合わぬのに、ただそれを呆然と眺めている現実。何をどうしたいのか、まったく見え ぬ国家の実態恐ろしきばかりなり。
▼築地H君、某愛国紙に「ザ・フォーク・クルセダーズの再結成」の記事あり「加藤和彦と北山修が「昨秋、あ るコンサートの帰りに飲みながら」「再燃」で「作り手も聞き手も楽しみ、明日に勇気がわく音楽活動をしよう」ということになり(なんかちょっと民主党っぽい……笑)「あと一人は僕たちよりもフォークルに詳しい坂崎君しかいないと、僕が電話を しました」(加藤和彦)、と。「さすが業界の便利屋・坂崎幸之助は引っ張りだこ」だが「僕たち」にはしだ のりひこは存在せず。「あと一人」をはしだにするか坂崎にするかの選択(身長は同じくらいか?)なら実用 重視で坂崎をとるのも当然なんかも知れぬが、そもそも「僕たち」というところにはしだは最初から入っておらぬやう、とH君。作詞・北山、作曲・加藤で、ふ つうこういうケースでは両雄並びたたずで加藤×北山の間で「俺のバンドだ」的な争いが生じ、第3勢力をとりこんで多数派工作(といっても2対1になるしか ないが)に走るものだがフォークルの場合はしだは完全に枠外。はしだ先生が党に近いことが要因か?。再結成といえばオリジナルメンバーが入らぬ場合ふつう 「なお森本太郎は、慶応高校の古典の教師をしているため今回の再結成には不参加」とかいないならいないで何らかの説明があるでしょうが、とH君。フォーク ルは北山・加藤の二人組だったかのような歴史の偽造が行われ、スターリン主義的偏向の故にはしだの存在は抹消された?、のか。……なんてフォーク、左翼の 話題出しても今の若い人にはわからないのだろうなぁ。
▼北京、第16回党大会開催にあたり天安門広場に椰 子の樹まで飾る。本日の最低気温四度なり。南国の樹木には甚だ辛き寒さなり。天安門に飾られる偉大なる毛主席の肖像への眺め遮る装飾にて不敬に当らぬか。 天安門広場、無駄な装飾なきことが既存の<象徴>を美しく見せると余は思ふが如何に。富士に月見草似合っても天安門に椰子は似合わず。されどこれ北京政府 の支配は果てなる南国海南島、いや厳密には中国政府の主張通せば越南より以南に位置する!南 沙群島まで中国領土にて、その国家の広大さを象徴する演出か(笑)。