富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十一月四日(月)秋晴。先月の北京の写真数葉を日 剩20日あたりに上網。日暮れて海峡沿いを走る。某君より香港の税制での給与所得と 住宅手当について質問あり賃貸の額とのかねあいで総収入をどう分けることが最も節税効果があるのか、といふことにつきメールで答えながら、会社で納税を全 額負担してくれる駐在員の場合はよいが個人負担者の場合、まぁHK$500からHK$2,000くらいは納税額が違ってくる話で、単純に住宅手当が非課税 かといふとthe value of quartersという賃貸住宅の価値見做し額が課税所得とされる点などあり複雑。給与所得と住宅手当の割合の採算分岐点が一 目瞭然の表計算があれば重宝する方も少なくないが簡単に綴れば
年収(月給+賞与の計、住宅手当を除く)……a
a×10%=Rental Value……b
(賃貸月額−住宅手当月額)×12=賃貸個人負担年額……c
a+(b−c)=d……課税所得額
bとcが同額の場合が最も課税所得が小さくなる。
あとは雇用主との交渉でこの最も課税所得が小さくなる分岐点で
月給と住宅手当を配分してもらえばよろしい。
……ということになる。
会社が直接賃貸している場合は単純にa+bが課税所得となる。
▼日本での東京12チャンネル(現・テレビ東京)で本放送されていたのももう30年近く前といふ「世界の料理ショー」、この主演 であったグラハム・カー氏、毎週のように欧米の名だたる一流の料理 屋を訪問しその美食を堪能し、自らがスタジオにて料理してみせる、というグルメ番組。同番組にも出ていた妻の糖尿病での過食などありカー氏は食生活の改善 に乗出し、その健康なる食生活の紹介が全米にて同じ悩みをもつ人々相手に大好評と(朝日新聞)。余はこの カー氏の料理により当時は香辛料や料理酒の使い方すらまだ馴染み薄き日本にて西洋料理の作り方をかなり学んだつもり。それにしてもカー氏のバターや砂糖の 使いすぎには子供ながら唖然としていたことを回想す。
NHKのニュース見ていたら厚生省の調査で毎年、煙草の喫煙で死亡する人の医療費で1.3兆円が費やさ れ、とそこまではまだ驚かなかったがこの煙草を原因とする死亡で毎年失われる労働力は5.8兆円、と(恐)、いつからここまで経済効果を算出する時代と なったのか。18歳の無職の不良少年が12歳の時からの喫煙が原因にて呼吸器疾病で死亡した場合、愛煙家で絶好調のベストセラー作家の肺癌、90歳の喫煙 歴50年の老人(無職)の肺腫瘍など、それぞれをどう労働力として査定するのかお聞きしたいもの。いずれにせよ国家が税収入に期待し公認した常習性のある 麻薬(といふ言葉は大麻に失礼なのでヤクと言わせて頂くが)それに因る疾病にて1.3兆円が費やされようと煙草による税収は 2.3兆円弱あり、まだまだ収益率48%であれば国家はまだこの収入を得よう。またどうせなら厚生省は、もしこの喫煙に因り死亡する国民がもし禁煙して健 康になり長寿を全うした場合、その人口の減少なきことで医療費福祉事業費等がいったいいくらかかるのかも試算すべき。その金額がもし死亡する人の医療費 1.3兆円より多い場合、いったいどうするのでせふ。国民の健康と長寿を祝し支出増も厭わない?
▼先週より『東週刊』なる雑誌の某女優強迫ヌード写真掲載にて騒然。ゴシップ週刊誌である『東週刊』が某女 優が12年前に或る芸能界系暴力団だか何かに強迫され裸にされた時の写真を掲載、これが警察沙汰にもなっておらぬ過去の出来事で、これが発売されるや「こ の女優は誰だ?」といふような下衆な詮索よりも人権蹂躙、雑誌の理性なき様に非難怒濤の如し。警察は真相解明を約束し香港政府首脳も事件に大きな関心を示 し芸人マスコミ団体などもこの雑誌社に強烈なる抗議。実はこの『東週刊』の発売元は英皇集団なる新興財閥にて投資金融などの他ここは英皇娯楽なる一大芸能 プロダクションを有す(芸人謝霆鋒など所属)。その香港芸能界のいわばドンである醜聞絶えぬエグき英皇集 団に芸能人が一斉に抗議。ことの深刻さに『東週刊』は編集長以下三名が即刻辞職、『東週刊』の廃刊を決定、ドンである楊受成も北朝鮮より帰国し(何をしに行ってたのかしら?)この写真掲載について謝罪したが、沈静化せず昨日、香港政府庁舎前に芸能人集結し(当然、英皇の所属芸人は来られぬが)抗議活動。そこにこの話題の匿名女優が現われ名乗りを上げ、その勇気は喝采を 浴びるとともにこの女優は人々の正義感と支援に勇気が湧き此処に現れた、と宣言。芸能界といふ世界でそのドンである楊受成に対して芸人が集結し抗議した正 義感、美談といえば美談、ながら、芸能界である。駆け出しの芸人が何をされ何をさせられているかといえば想像に易きことにて、かりに当時の秘匿写真、ビデ オの類が流出したとしても驚くに能わず。今回の場合、週刊誌の表紙写真というのは余りに酷い仕打ち。その下劣さは明白。だが、その愚劣なる出版の事実を除 けば、芸人がその泥沼の如き芸能界において何があろうが、一般の人権、理性、正義などといふもので全てを語るべからず。この女優とてこれを刑事沙汰にでき ぬのは芸能界なるものがさういった仕組みの世界であり、トーシローがそれに口を挟むべきでなし。「大和屋にセクハラされて歌舞伎界を去った弟子の悲劇」と 同じ。その泥々した裏がある故に表面こそ華やかにて人にチヤホヤされるのが芸能の世界。獣といふには獣に失礼な破廉恥なる所作など芸能界にいくらでもあら う。基本的には人買い、スターになることに憧れる少年少女がどれだけの惨い事をされ、それでも芸人になる「夢」をもち這い上がっていった者の、そういう世 界である。全て芸能といふ異界のこと。寧ろこういった事で出版言論の自由に制限が強まり警察など官憲の支配が拡がることこそ不安。香港基本法23条による 国家公安条例の立法化だの香港の一国両制といったものには無関心ながら、こういった個々の事例となると世論(参政のため の選挙権登録すらしておらぬ市民たち)がここまで翼賛的に「かわいそう」だの「むごい」「ひどい」と声を挙げる、この大局への無関心との ギャップこそ不気味なるもの。市民の、こういった国政に対する無関心と<権力>に一切関係なき事での市民のいわば「ガス抜き」的な世論高揚を安堵して見つ めているものこそ<権力>なり。『信報』の社説曰く、政治介入を防ぐためにこそマスコミには自律が必要、と。
▼北京政府、ポスト江沢民の政府指導部を承認する形式的な第16回党大会を控えた実質上の決議会議となる 15期7中全会に朱鎔基首相参加せずカンボジアでのASEAN首脳会議に参加。党幹部のこの7中全会への不参加は異例中の異例。党内ナンバー2である朱鎔 基の不在でも七中全会開催可能といふことで党の安定性を誇示、といふ見方もある反面、ポスト江沢民の新体制に党内で異論あり朱鎔基は江沢民の推進する路線 への異議ありか、と憶測もされる。朱鎔基、中国を代表する経済通にて党内エリートとして将来を託されたが天安門事件後に突然、上海市党書記であった江沢民 が抜擢され、但し江沢民が表面的な領袖で朱鎔基が実質的な政務を遂行と思われていたものが、台湾総統選挙での民進党・阿扁の当選を阻止する武力侵攻もあり えるという感情的な威嚇発言など朱の印象よりかなりかけ離れた感情的タカ派ぶりを露出させ、感情的になってもどこか愛嬌のある江沢民に比べ朱鎔基の堅い性 格はイマイチ民衆の支持を得ず。本人の使命感をもってすれば江沢民による新指導部の選定とそれへの禅譲による今後の院政により同時期に引退をせざるを得ぬ 己に釈然とせぬものあり、か。所詮、12億の人民を有する国家の政治体制とて城山三郎の描く企業小説での取締役の確執と大差なきものなり。総じていえば、 本来、官僚肌の朱容基は民衆の好感の多少にかかわらず徹して官務遂行すべき立場ながらその官僚であるべき朱鎔基が総理となってしまう体制こそ中国の党・政 府一元体制の問題点……とそういうわけ。本来こういうことは新聞の社説とかで言ってほしいのだけど、昨日の朝日の社説など「ブラジル…… サンバの踊りほどほどに」って(笑)、「金融危機の瀬戸際にいるブラジルの新大統領に野党の労働党のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ氏が選ばれた」こと でなんで日本の新聞が社説に取り上げるの?すら疑問だが、そのうえ「経済の安定を期待する国際社会はカルドーゾ現大統領の後継者で与党の社会民主党のジョ ゼ・セラ氏を望んだ」」「しかし国民は景気後退による雇用不安が高まるなかで国の財布のひもを緩めてくれそうなルラ氏を選んだ」、と。おいおい、あくまで ブラジル国民の自らの選択でしょうに、それを「国際社会はセラ氏を望んだ」とは……合州国の他国介入の横暴さもさることながら朝日新聞もそれに近いものあ り。
▼朝日の「ブラジル……サンバの踊りほどほどに」に比べ目より鱗がおちること少なからぬ『信報』林行止専 欄。先週木曜日はタイトルもズバリ「チェチェンの独立を認めなければロシアは安寧なる日々は有り難し(不准車臣獨立、俄 國難有寧日)」。ロシアのチェチェン独立阻止と軍事介入が昨今のことばかり取り上げられるが帝政ロシアの時代にすでに19世紀初頭にはチェ チェンのイスラム主義と帝政軍との激戦ありロシア軍の残虐ぶりにトルストイは軍職を去り『戦争と平和』にはこのチェチェン戦争が背景に。また10月革命に てソ連成立後はレーニンチェチェンに和平案を提示したが一向に実現されずスターリン時代にはチェチェン人が多く殺害される。91年のソ連崩壊でチェチェ ンはソ連の他の15のソ連加盟共和国と一様に独立を求めたがロシア政府は1936年のスターリン時代の憲法を持ちだしチェチェンは他のSister Union Republic(姉妹邦の共和国)とは事なりロシア国家下の自治邦であり独立の権限を剥 奪。そして94年から96年にかけて民主選挙を実施していたチェチェンに軍事介入をして独立を阻止し99年の大規模な鎮圧といふのが歴史(とても参考になるサイトはこ ちら)。ロシアがチェチェン人を「野蛮、変態、瘋狂で極右ファシスト」と罵っても、どちらに理があるかは明白。詰まる所、チェチェ ンの石油資源の確保がためだけにロシアがチェチェンの独立を認めず、それにチェチェンが抗するのは正義。しかし世界の世論は「反テロ」という浅はかな思考 に覆われており、マスコミも挙ってチェチェンをテロリスト集団としてロシアをそのテロに怯える被害者と見る。先日のモスクワの劇場占拠が明らかにそれ。こ のような状況では今後ともチェチェンの抗争は続くことは免れず、と。御意。
チェチェン紛争もそうだが、ただただイスラムを敵とするこの浅はかなる感覚。結局、資本主義と自由主義な るものは真の「資本」主義と「自由」主義に非ず、つねに資本主義に抗する非自由なる敵の存在あってこそ。かつてはそれが共産主義独裁であり、それが崩壊す れば今度はイスラムとなる。昨日、ハーフマラソンを走っており"Islamic College"のTシャツ着た少年走るのを見かけ、中国にもイスラム教広汎にて香港にも中近東イスラムとはまた別に中華伊西蘭の社会あり、当世の浅はかな思慮には (思慮といふにも浅はかだが)ただイスラム蔑視しか有らず、では伊西蘭中学の学生とて日本の朝鮮学校の生徒の如く世間の蔑視のなかで不愉快な思いもあろう し、そういった浅はかな社会のなかで中華伊西蘭までが消滅してゆくのか、と思う。さういふことを考えているからマラソンの成績は上がらず。
▼日本は「1兆円の電子政府予算、大幅削減目指す 無駄を総点検」と(朝日)。 掛け声ばかりの空論、結局は政府の基盤たる情報処理をNTTデータなどの一民間企業に下駄を預けてしまふ愚策。そのうえ実現は困難とは呆れてモノも言え ず。それでいて住基ネットなど明らかに情報垂れ流しの世紀の愚行はきちんと実施。香港などこんな大風呂敷拡げた構想など唱える暇があればさっさと電子政府化を実現。政府の施行するほぼ全域にわたる服務がネット上にて閲覧、 利用可。自動車免許の申請までネット上にて可。本来、日本はかういふ情報技術力ありがなら政府による規制、民間企業の自社利益姿勢、「もし事故があった ら」といふ深刻な意味のない悲観的思考性(ただしみずほ銀行のデータ不能放射能漏れなど発生の危険性の予測される事故はいくらでも現実に発生する)に依 り構想が実現せず。日本といふのは3で済むことを必要以上の10まで行い、その7の余剰なる生産力、マンパワー、資金が動くことにて全体としてのミタメの 経済活性化を高め、それを経済成長としてきた社会。その無駄を協調だの努力などという美辞麗句の下に「わかちあふ」ことにて共同体をまとめてきたのも事 実。3で済むのに10の人とカネが流動することで当然のことながら余剰である7の分、経済社会が動いているように見える。その結果を無駄と思わず「成果が 上がった」と成員がわかちあうことにて共同体を維持し達成感などいちいち言葉にするが単なる形式主義。かうした無駄を削除して本当にコストをかける部分だ けに最低限の投資をすれば良きものを「痛みをわかちあふ改革」だのと宣う首相と辛抱を続ける日々。現実に電子政府化など実現されれば人、カネ、物流がかな り削減されるわけで、シンガポールの官公庁など正面玄関にて「なぜにこんなに閑散としているのか」と思えるが現実にはコスト効率よく組織運営が機能してい る社会となるのだが、霞ヶ関などやはり人、カネ、物流があってこそ繁栄、もしくは首都移転などという発想のうちは電子政府化など到底実現できず。