富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十一月十三日(火)曇。晩に某在港邦人紙編集長S嬢と歓談。銅鑼灣日本料理屋は何処も誰かしら知りあい居り不要に人に遇わぬやふに亦打合せあり静かに語れる場所と皮肉にも日本人倶楽部の桜を選ぶが折悪しく39階家族食堂改装中にて桜には出張だ社用での宴会だで会社勤めの主を逸したる邦人母子多く甚煩。その亭主らはといえば倶楽部より歩けば五分とかからぬ何処かの日本料理屋にて宴会か。S嬢に尋ねその答えを得、溜飲下がりし思いをせしはS嬢の仕事場が入る大廈の路上に数カ月前に溢れたる若者男女の奇景にて、夕方より夜にか数多の若者が一見して着慣れぬスーツ姿にて路上に屯し歩行、この大廈への出入りに支障をきたす程なり。これが音楽会の入場券なり漫画、電脳ゲームソフトの類いを求める行列ならわかるが行列を作るでもなく屯する衆、スーツ姿といえども会社の社員採用の面接の如きものでなき事は失礼ながら屯する若者の間の抜けた面構へからして明白、いったい何の集会かと怪訝に思ううちにいつの間にか路上より若者たち消え失せたり。S嬢曰くこの大廈に仏蘭西のAromatherapyにて香油と壺を売る商いす会社あり、通常のAromaは水に香油浮かし蝋燭の熱にて水を熱し油の香を飛ばすものがこのaromaは所謂アルコールランプの発火油じたいが香油にて一旦ランプに火を点せば火を消してもその余熱にてコイルが熱く発火油よりの香を飛ばす仕組みなり。これだけならけして面白可笑しくもなき事がこれが謂わば鼠講にて、しかも飛び級の制度あり某かの資金を納め油壺の在庫を抱え入会即高級会員とならば子を産みもせぬのに孫鼠、曾孫鼠忽ち現れ自らのリベートを得るという。実に怪しき商法なり。それに何故若者が絡むかといえばその日暮らしの若者たち濡れ手に粟のこの商売、手を出したくとも資金なし、その組織は若者に借金しても利息より利益多く返済は容易と耳打ち、しかも正業にも就かず借金するにも担保もなき若者を一旦は社員と見立て在職証明乱発、若者はスーツ姿にて在職証明持参して高利貸へと走り資金調達する仕組みなり。そのうえ友人知人を紹介すればまたリベートが入るというわけにて正しく鼠の如く若者がこの大廈へと殺到し溢れたるものなり。最高潮に達す折にはこの会社へ出入りする者多くエレベーターが独占され他の店子に大きな不便とさえなりぬ。この鼠講の末路といえば当然の如く収益少なければ高利貸への利息払えず雪達磨式に利息増え破産せし若者続出、当局に訴えマスコミが取り上げればこの組織曰く若者を唆しは一部の悪徳社員の仕業にて会社はそれに一切係わらずと、今もって地味に油壺を売りたる会員を勧誘続きたり。