富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

フィリピンはボラカイ島のFriday’s

三月二十七日より三十一日。フィリピンはボラカイ島Friday'sなるリゾートに遊ぶ。ボラカイは東南アジアでも有数のどこまでも透明は海にて、海水がきれなばかりか施設と環境は論外だが砂の質は確かにAmanpuloよりこっちのほうがもっときめ細いほど。リゾートはすでに日本人のブームは去り韓国人が熱く、そこにかなり肥満したフィリピンの金満家ご一行が加わり、繁盛。ブルジョワジー=肥満というのはローマ帝の昔からのこととはいえ、フィリピンの場合はそこに太平洋的な肥満美学が加わったか、肥満度はかなりのもの、朝食後にビーチにてコーラがぶ飲みポテチ喰らう家族眺め驚愕。相変わらずマリンスポーツなるもの一切せず浜辺にてサンミゲルを飲みながら、夜はMacallanの12年モノを飲みがならの読書、やはり後味、キレの良さではサンミゲルはフィリピン産の瓶モノに限る。
丸谷才一文章読本』、谷崎、三島に比べかなり実用的なもの、三者を通して志賀直哉の再読を要すと痛感、判り易い読み易い文章という点では丸谷の日本文は今日最も秀逸なもの、但し日本語「作文の技術」としては思想的には今では嫌悪感たっぷりだが本多勝一の課本に勝るものはなし、殊に最近の若い新聞記者はこれらを必読要す。
山口昌男内田魯庵山脈』(昌文社)、頁二段組で600頁の大著である、山口君の歴史人類学として『敗者の』『挫折の』に続いて今回は内田魯庵なる明治から大正の自由なる知の徘徊者を中心にして、確かに当時のリゾーム的な知に100年後に光を照らすなど山口君にしかできない事なのだが、もうここまで来ると殆どビョーキ、内田魯庵は取り上げられたが他にもこういった対象となる御仁はいくらでもいるわけで、そのうちこうして脚光を浴びたのは魯庵そして彼ら知の遊者たちが活字に歴史を残したからで、それのない者=人の記憶にだけ残った者たちはその記憶を有する者が絶えた時に歴史から葬られると思うとマルケスの『百年の孤独』を彷彿、この山口君の作業がどれだけ制限されたものかと思い、おそらくそういった歴史的な時間に対しては半永久的に残すメディアとしてインターネットはかなり有効であると思い、本人がサイトを閉じてしまう=死に対して恒常的にその死者のサイトを残すような互助組織が生まれてもいいのでは?と思う。唯一箇所気になった記述は平子鐸嶺について「40才以下でこの名を知っている学者は『法隆寺への精神史』の著者の井上章一氏くらいであろう」と、せっかくこの書において知の自由、大学などヒエラルヒー的構造からの脱却、時間を超えた知の営みを語りながら、この「40才以下の……」は全く意味もなく寧ろ疑問。
アナール歴史学といえば藤原書店藤原書店といえばアナール学派というわけでアナール派の巨匠アラン=コルバン『レジャーの誕生』、70年代は前衛であったこの学派ももはや定説と化し、レジャーについてすでに観光人類学などが明らかにしたシステムをかなりアナールらしくデータにもとづき歴史の中で検証、568頁のこれも大著だが6500円は高すぎ、全く誰もやっていなかったレジャーというシステムを発見したのならこの値段でもいいが検証本なのである、キリスト教的な勤労=労働や田舎の「団居(まどひ)」の対としてのre-creationがどう政治的なレジャーと転移していったか、という、それでこの値段は無謀。
以上三冊は読了しこのFriday'sなるリゾートの書架に残す。何れ日か誰か読む哉。
島は辺鄙なはずが浜辺沿いにそこそこボラカイ銀座、「トロピカルな」バーや料理屋も並び、水上水下スポーツの店が日本人インストラクターまで常駐し並び、ホテルでは到着した日の夜に食事したのみで、毎晩、タイ、日本、インドと食べ歩く。食材にも乏しい辺鄙な島にしては意外と充実した味、日本料理は「おふくろさん」なる寂し気な店、客は毎晩一、二組みのみ。食事しながら「日刊まにら新聞」なる邦字紙(読売系?)を眺める。
「日刊まにら新聞」のバックナンバー。マニラ大都市圏にてゴミ処理が行き詰りボラカイから60km!の湾沖合いに埋め立てを一旦決定するが国際的にも有名な透明度の高い海洋汚染が焦点となり流石にこの埋め立て案は却下される。今年1月辞任直前の大統領エストラーダ君の純信頼度(支持率から不支持率を差し引いた数字)は前回調査で4%だったものが1月はマイナス19%となっており、そろそろ辞任というそういう記事なのだが、注目すべきは現大統領アロヨ嬢の純信頼度はなんとマイナス39%、それが大統領に推挙されるとは、事の背景を知らぬが注目すべき事実。パサイ市の市議会議員が設立したゲイの老人のための老人ホームGolden Gay、フィリピン的な博愛、そこに宿る老人の一人は日本が戦争中に従軍慰安「夫」とされ日本兵に強姦された過去あり、と……慰安婦だけではない軍隊という装置。新聞に広告だす飲食店は料理屋の場合「お子さん連れのファミリーでもOK」との表記が目立ち、これは香港にはない事、マニラ故の地域事情か、日本料理に親が子供を同伴したらその筋の方がホステス同伴するが主流の店とか。「あなたも現地で100円ショップを始めませんか」という新商品の紹介から商品調達まで我が社が、というのも気になる広告。
マニラに戻り同業のH氏におよそ九年ぶり、H氏時間とれず我らボラカイからの到着後、国際線空港まで車で送られその途上僅か10分程度の邂逅。