富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

西條宇十(さいじょううそ)『ぼくの五輪』


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防疫対策で世の中もう全くワケがわからなくなつてきてゐる。そのなかで圧倒的な安定ぶりを見せるのが日本。昨晩、バンコクから羽田へのフライトで戻つた知己の某氏によればそこ/\の乗客数だつたさうだが羽田で健康申告書を書かされるでもなくほゞフリーで日本人も外国人も入国したのださうな。

NHKスペシャル「“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~」

日曜晩の番組だつたが評判になつてゐるので今日になつてこれを見る。日本で感染拡大はギリギリのところで踏みとどまり抑へられてゐる……といふのだが(これって福島核禍の時もさうだつた)。それは不特定多数にPCR検査したり感染もない市民が不安で医療機関に殺到したりもせずクラスターとなるリスクの高い感染者の確定が徹底してゐるからだといふ。それがどこまで保つのか。私は東北大学の押谷教授が苦手。マイクロ飛沫感染についての高感度カメラでの撮影画像は面白かったが何うせなら一般的な市販の外科用マスクをして思いつきりクシャミした際にマスクを超へて、このマイクロ飛沫が拡がるのか何うかといつた検証も見たかつた。ところで厚労省にある、この新型肝炎対策チームこそ会議室だかに長机並べ専門家が肩を寄せ合ひ昼夜この対策を講じてゐて番組に写つた中でマスクしてゐた専門官は一人。ほんとこゝこそ濃厚接触パンデミックになるのではないかとすら思ふ。

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あれだけ熱狂的であつた夏の五輪開催が「延期」といふ潮の流れになると予想以上に恰もそれが規定路線であつたかのやうに受容されてゆくのが日本の美。 

西條宇十(さいじょううそ)『ぼくの五輪』

母さん、僕のあの五輪、どうしたんでせうね?
ええ、春、福島から東都へゆくみちで、
ヰルスで流れたあの幻の五輪ですよ。

母さん、あれは好きな五輪でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなりコロナが吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向こうから森の元首相が来ましたっけね、
加賀の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い小池で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。

母さん、ほんとにあの五輪どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた昭恵の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、森加計の霧が霞ヶ関をこめ、
あの五輪の下で毎晩官公鳥が泣いたかも知れませんよ。

母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
永田町に、静かに嘘がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの幻の五輪と、
その裏に僕が書いた
S.A. という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。

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