富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

成田屋「壽三升景清」

fookpaktsuen2014-01-20

農暦十二月二十日。大寒。旅寓の客室あまりの乾燥に鼻をかめば血が混じり洗濯物は夜、寝る前に干すと朝には乾いてをり着替え不要。日比谷線で銀座。歌舞伎を見たいといふ若いS君と待合せ新橋演舞場成田屋の「壽三升景清」は十八番のうち悪七兵衛景清主人公とする「關羽」「鎌髭」「景清」「解脱」の4つを海老蔵が通し狂言にしたもので「正月で「壽」がつくから尚、てんこ盛り。アタシも自分では生まれて初めて1500円も出して筋書きを買つて話の筋を頭に入れておいたが、「発端」は景清からいきなり『關羽』で、景清の妄想といふわけだが唐突。幕間で客席でも職員が筋書き売り歩き購ふ客少なからず。その慌ただしい発端の後、昼の30分の休憩はさみ除幕で「鎌髭」となるのだが入道役の獅童が面白いが何だか地方巡業の芝居のやう。二幕目の花菱屋では阿古屋が芝雀。これが音羽屋か澤瀉屋の若旦那だつたりすると正月花形になるかしら。で「景清」の大牢の場となり今日の新作景清の山場は成田屋発案で津軽三味線加へ牢獄から出た景清が暴れた上に巨大な海老は出るわ、正月の鏡餅の上に海老蔵が乗るわ、の、これで「壽」。最後の「解脱」は景清役の海老蔵が何とも美しく、これがフツーに今日の一番だつたのかしら。景清」は、悪の権化のやうに扱はれるが実は目指す世界は現世での極楽浄土のやうな幸せな世界で源氏で頼朝公が造る国も同じもの、だから手を携へてそれが出来る……と景清があの世に旅立つ死に際の妄想に出てくるといふ話だが、なんだか、夏の海老蔵の「花咲か爺」が「世の中何もよくならないのに何だか気分でいゝ時代になつた」「明るいアベノミクスの時代の季節外れの花咲き物の感あり」だつたのと同じく、村上湛君に言はせれば明確な主題の無さになるだらうし、この平氏の悪者の源氏に託す夢もなんだか出来過ぎの話に思へてならず。都知事選でじつは舛添も脱原発なんですから、みたいな。芝居跳ねて、正月で初詣するほど信心もないが時間もあるので銀座線で浅草寺にでも参らうか、と思つたが末広町で下りて神田明神。何十年ぶり。晋三退治で将門の厄よけのお守り購ふ。湯島聖堂から聖橋渡りお茶の水。画材商レモンが昔よりずっと建築模型材料増えてゐる。駿河台の坂を下り神保町には向かはずスポーツ用品店街へ。ヴィクトリア商店でウォーキング用のアシックスの靴購ふ。神田驛まで漫ろ歩き。銀座。何十年ぶりかしら、で今は三越の別館が覆ひ被さつた「みかわや」で早めの晩餐。S君と海老のグラタン、蟹肉のクロケットビーフシチューをシェア。黒服氏のメニューでサラダ、温野菜の付け合わせまで料理と注文の品に合はせ「かうしませうか」といふ機転に敬服。デザートも美味しさうだつたが「みかわや」出て電車通りの銀座ウエストでシュークリーム。清楚な美。新橋でK君と別れ一旦、麻布に向かつたがZ嬢が恵比寿でF嬢らと会食なのを思ひ出し六本木乗り換へで恵比寿。ガーデンプレイスに近いビストロ(名前知らず)はZ嬢が場所を探す地図でさっと見せられてゐたので日仏会館に近い辺りで飲食店もすぐに探せるだらうから、と恵比寿驛から歩くと、ビストロの三階席の窓にZ嬢の横顔のシルエットが楽しそうに動き、それはまるでヒッチコックの「裏窓」のやうだが、Rue Favartといふ食肆で、三人での食事に勝手に闖入。赤ワインご馳走になる。タクシーで有栖川公園抜け鳥居坂旅寓に戻る。六本木ヒルズの街路樹のまぁネオンの派手なこと。