富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

ABKAI

fookpaktsuen2013-08-10

陰暦七月初四。ホテルの眼下、右の方は麻布市兵衛町。高級マンション並び荷風散人暮らした頃の跡形もなし。溜池山王経由で国会議事堂前まで延々と地下道歩き地下鉄で根津。台東区書道博物館中村不折の書を拝もうと往つたのだが目的地は根岸。根津ぢゃない。猛暑のなか根津から根岸まで言問通り歩く。愛玉子だとか寄りたい喫茶、お菓子屋などあるが大汗かき黙々と根岸へ。台東区書道博物館。これが出来たのも根岸在住不折先生の漢籍書法に関する貴重なコレクションと、それに勿論だが不折先生自身の書があるゆゑ。そこに最近、近隣の不折旧宅にあつた、不折自身の作品や蒐集品収めた大谷石造りの蔵を復元。「旧宅から不折が転居後、蔵を覆う形で住宅が建てられたため(蔵は)所在不明だったが、二年前の住宅取り壊しで見つかり」と東京新聞の記事にあるのは不折は旧宅(根岸三丁目)から大正四年に現在、この博物館になつてゐる新居(根岸二丁目)に転居し、その後、蔵を覆ふ形で鉄筋コンクリートの二階建て住宅が建てられ、これまでも旧宅住所から蔵探しも行われたが見つからず蔵は所在不明とされてゐた由。それが道路拡張工事(2011年)で蔵を覆つてゐた住宅取壊しとなり蔵がほゞ百年ぶりに屋外に露はれたといふ。不折は陋宅にも祖父の得た書状などあり菩提の神崎寺の広間にも扁額掛けられ法事のたびに眺める。こゝの向かひは子規庵。明日から月末まで休館。病間の縁側にヘチマがなる。
糸瓜咲て痰のつまりし佛かな
痰一斗意糸瓜の水も間にあはず
をととひのへちまの水も取らざりき
と子規絶筆三句の、その糸瓜がかう成つてゐたのか。酷暑がいかにも。ラブホテル街抜けると笹乃雪。豆腐も食べたいが一人ぢゃねぇ。上野。
暑さゆゑ遠き藪より蓮の玉
で蓮玉庵に入る。中学のころに鈴本に通つてゐたころのしもた屋は今ではモダンな店構へ。菊水の冷酒。蕎麦。猛暑に草臥れてゐたが少し元気になり蕎麦屋ハシゴで薮でもせいろ一枚。組紐の道明で最近、ネクタイなどする機会少ないのだが組紐のネクタイはジャケットなしでも素敵、で一本購ふ。銀座線で渋谷。気温摂氏37度超へ。シアターコクーン。母とZ嬢と劇場で待合せ。海老蔵君の自主公演ABKAIで「蛇柳」と「はなさかじいさん」見る。前者は昭和22年に三升による上映以来の由。芝居仕立てにされたが高野山の話で、もつと鏡花のやうな、更に折口信夫的な演出のほうが個人的には面白いと思ふ。神秘的でぞっとさせれば夏のコクーン向き。後者(はなさかじいいさん)は海老蔵君が一生懸命で華のある役者なのはその通り。一寸だけ、人間の自然破壊のエゴに対する批判的なところあるが、まぁ何だか明るいアベノミクスの時代の季節外れの花咲き物の感あり。世の中何もよくならないのに何だか気分でいゝ時代になつた、といふやうな。世の中正直者のじいさんに奇特な犬が現れ「こゝ掘れワン/\」で富裕になれる時代ぢゃないが(まぁ、この昔話出来た時代だつて、けして世の中安泰ではなかつたからこそ、の夢物語だつたのだらうが)チョートク先生が顔本に載せてをられたが内閣府調査で現在の生活「満足」71%と、まさにそんな時代の雰囲気。 夏のコクーンといふと勘九郎(故勘三郎)だが母がじいさんとシロのかけひきを中村屋のシロと笹野高史のじいさんで見たい、と。御意。それにしても先日、畏友村上湛君と話してゐて、彼は古典劇評論の専門家だが芝居に没頭、感情移入できるのに対してアタシは本当に芝居や音楽に感動できない粗末者。東急本店からのシャトルバスで渋谷駅。気温は一向に下がらず何もする気もおきず。銀座線で表参道。暑さ凌ぎに半時間ほどブティック巡り。根津美術館前の天ぷらの「みや川」に飰す。あっさりとした関西風の天ぷら。美味。酒は「底抜け」。タクシーで母を渋谷駅まで送りZ嬢と都営バスでアークヒルズ。まだ晩八時前だが酷暑にへと/\で九時過ぎには就寝。