六月廿五日（土）朝、陋宅より官邸の我がメアドにメールしたらサーヴァーに拒否される。官邸に出向いたあと確認するとネット閲覧能ひ官邸内はメール出来、外部にも送信は出来るが外部から一切受信せず。普段は忌々しきジャンクメールはフィルター通り最初からジャンクメールフォルダに振り分けられてゐるが珍しくそのフォルダ覗くと昨晩三更半夜でピタリと受信途絶へる。偶然のサーヴァー不具合に非ず何らかの設定で深夜24時に誤作動開始と素人のアタシですらさう思ふ。担当のＭ君がプロヴァイダ（日系大手）に確認すると当方のサーヴァーとは全く別のデータセンターでの作業で誤設定があつた由。官邸で週末の書類整理などしてゐると午後になり一本、一時間後に亦た一本、三十分後に再び一本とジャンクメール入り始める。Ｍ君曰く宇宙空間のシェルターに閉じ込められ孤独に苛まれ運命もあと幾ばくかと思ふときシェルターの隅にゴキブリ一匹を見つけ「嗚呼、オマエにも生命が宿つてゐたのだね」と感慨に耽る、そんな気分のジャンクメール、と。午後も依然、マトモなメールは届かぬがプロヴァイダの担当者曰くシステム再起動でIPアドレス振り分けられ世界中にその指令が届くまで数時間から半日かゝるので徐々に回復、と何とも悠長といへば悠長だが、たかだかメール送受信でも世界中でそれだけのネットワークと思ふと怖いほど。昼過ぎ遅く天后の華姐清湯腩で腩河食し晩に自宅でそうめん。晩遅く太古城の映画館で中共結党90周年記念祝賀映画「建黨偉業」見る（官方）。一昨年の中共建国60周年記念映画「建国大業」に続き国史といふか党史物の大家？韓三平の監督作品。辛亥革命から民国建国、袁世凱（周潤發）の君臨、五四運動から1912年の中共結党までの近代史。中国の国策（党策）国威発揚官製映画といふ印象でゐると国父孫文（马少骅）は別格としても、これまで中共史では冷遇の陳独秀（冯远征）や反共としての胡適（吳彥祖）が今更ながら格別の扱ひ。配役で面白いのは袁世凱の取巻きで皆さんお笑い系。北洋政府で袁世凱襲ひ大総統になる黎元洪演じる范伟、第三代大総統の馮國璋役の冯巩は本当に馮國璋の曾孫！らで意図的な配役でないにせよ失笑してしまふところ。もう一つ笑へるのは1921年の上海に於る第一回党大会*1（一大）に広東省代表で現れた陳公博が妻同伴で毛澤東らが「開会還可以帯家属（会議に配偶者同伴できるのか？）」と呟くシーンも観客が笑ふのは共産党幹部が公用に配偶者同伴は一大からの伝統か、と皮肉に思ふゆゑ。どうであれ毛澤東（刘烨）が五四運動の頃の北京（北大図書館司書）から一大でも、陳独秀や李大釗（张嘉译）、その後、共産党から離れ国民党の汪兆銘政権の中枢となる周仏海や陳公博ら親日派の若き幹部のなかではまだ／＼湖南長沙出の田舎漢なのが（実際にさうだが中共の官方映画でも演出が）興味深いところ。敢へて毛澤東をば極端に英雄視、偶像神格化せず史実に基づいてをります、といふわけで寧ろさうすることで民国建国から五四運動、中共成立に至る正当性の確認作業といへなくもなし。公開にあたり網上では「愚作」的書込み目立つといはれてもいたがけして駄作に非ず。たゞ一大のあと、数分間のエンディングシーンが「その後、過酷な国共内戦、長征、建国を経て今日の中共があり共産主義はその国是として……と、それを21世紀にあつて世界に稀な共産党専政国家（の特區で）でかうして見ることが何だかとても不自然な感じ。この映画作品につき、このところアタシが一番好きな吳康民先生が生粋の親中土共でありながら歯に衣着せぬ論評が傑作（「建黨」為什麼要靠「英皇」？、明報23日）。康民先生曰く、この映画なにが奇怪かといへば中共成立90周年の記念大作でありながら何故に中央の官系電影公司出品とせず香港の商業映画の「英皇」電影なのか、銀幕に最初「英皇電影」の文字のあと何故にロゴで王冠が映るのか、があまりに滑稽、と康民先生（確かに……笑）*2。ただ逆さにとれば党中央の宣伝部は賢明で官方の製作ならば党正史に基づき党宣ばかりで一部の党幹部が偉人化され党外、反共人士が醜悪化され映画としては香港ばかりか内地でも不評になるだらう。香港の芸能大手たる英皇電影と合作とすることで英皇旗下の天皇巨星ら多く出演し党宣伝映画の色彩薄れることは成功のはず。だが厳格にいへばこの映画は「建黨偉業」に非ず辛亥革命から袁世凱専政（それも不是一個窩嚢的人物として）、講蔡鍔滇軍討伐、講張勳復辟、五四運動に至る民国前半の歴史映画であり辜鴻銘（刘佩琦が好演）などといふ末民初の英文学者までトリックスター的に丁寧に扱つてみせた。ただ康民先生も若い人には劉絀華が演じる蔡鍔が誰か、も解らず小鳳仙（モデル出身のAngela Baby扮する）との恋愛故事をぼんやりと知るくらゐか、と*3。だがそれにしてもオールスター総出演*4で何だかこの映画にせよ前作の「建国大業」にせよ正月娯楽映画のやうだが劉燁の演じた毛澤東、馮遠の陳獨秀、吳彥祖の胡適、いずれもなか／＼見事な配役で好演こそしてゐるが三人が目立つては文革時に江青女史が戯劇に求めた「三突出」*5満たしてをらず、これでは素晴らしいとはいへまひ、と（笑）。
*1:それにしてもこの上海の一大に参列の各省代表13名で（13名といふのも基督の最後の晩餐的だが）中共建国まで生き残り且つ死ぬまで中国共産党内で名誉保全出来たのが毛沢東と董必武（劉少奇失脚後の国家副主席）の二人だけ、といふのが何とも……。
*2:筋金入りの土共として康民先生は映画から今日の時代を見て憤るのは五四運動の当時「還我青島」「收回山東權利」「廢除二十一條」「抵制日貨」とスローガンを叫び国賊的売国奴を襲撃するのに何故に今の若者たちは政治に敏感であつても南沙諸島の越南やフィリピンとの主権問題の背後に米国の魔の手があることに抗議せぬのか？といふこともちゃんとこの映画評のなかで怒つてゐらつしやる。
*3:それでも映画のなかでは悲劇の妓女の素性などわからぬ zh.wikipedia.org/wiki/小鳳仙
*4:此片只求大卡士，大製作，許多大明星都如閃星一瞬。你會記得女大明星范冰冰、周迅、葉璇、李沁、楊穎扮演哪個角色嗎？你會記得男大明星任達華、張家輝、陳坤、梁家輝扮演哪個角色嗎？
*5:三突出是中国文革期间的文艺指导理论之一。最早由于会泳在1968年5月23日在《文匯報》撰文《让文艺界永远成为宣传毛泽东思想的阵地》一文中提出，受到江青等人的赞同和推广，被称为“文艺创作塑造无产阶级英雄人物必须遵循的一条原则。三突出指：在所有人物中突出正面人物；在正面人物中突出英雄人物；在英雄人物中突出主要英雄人物 其具体实践是在文艺创作中把正面人物放在画面或舞台的中央，打正光，而反面人物要在角落打底光或背光，等等。文革之后，有些其他事物借用这一词汇，如某某菜肴的“三突出”特色，等等。维基百科より引用
