富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-07-26

七月廿六日(日)朝早く将軍澳線の地下鉄使へば今朝が将軍澳線の康城站に向ふ支線開通。李嘉誠財閥の日出康城(Lohas Park)が其処。従来の寶林が終点の将軍澳線の四運行のうち一本が康城行きに。坑口站で待ち合はせ六人で西貢へ。広州から来られる方もあり折角だからMacLehoseトレイルで風光明媚を楽しみませう、となつたが猛暑猛々しく常識的にトレイルする時期ぢやないので北譚涌からのSection-1は禁断のタクシー蹈破。肌を熬る陽射しだが風があるのは幸ひ。眺望もいつにもまして見事。アタシは上半身裸の短パン姿で傘をさす、香港でいちばん涼しい歩き方。西湾の海岸に下る途中の坂で飼ひ主に連れられ炎天下散歩の仔犬が熱中症だらう歩けず臥せる。小型の暑さに向かぬ欧州犬をばこんなところに散歩に連れてくる飼ひ主も飼ひ主。せめて抱くなりして歩かせず海で遊ばせてやるならまだしも。このSection-2が初めての方が四名でかなりゆつくりと歩き大浪湾を抜け赤柱に到著が午後二時前。水上タクシー雇ひ黄石。赤柱の廃村の波止場に着けば炎天下、船を待つ若者一人在り。聞けば一人なら黄石までHK$120と言はれ「誰か、やがて来るから他の客が来るの待て」と船主に言はれた由。相乗りならHK$20となる。路線バスで西貢。この苛酷な条件をSection 一〜二と20kmも山路走つた知己の七名も西貢に無事戻られ(タクシーで彼らが走る傍ら追ひ抜いたのは恥づかしいが)、十数名で全記海鮮酒家に魚介を食しビール大いに飲む。全記はこの数年でかなり評判高くなつたが店員のこれまたきびきびと働く態といひ真摯な対応といひ……それも映画俳優にでもしたいほど精悍で華のある店主自らが率先して働き彼の誠実さが店員に伝はつてゐるからなのだらう。帰宅して冷水のシャワー浴びて早晩に西湾河。さつきまで海鮮食べてゐたのにZ嬢が夕食未だ、を理由に太安樓で雲呑麺食し電影資料館。「熒影相隨:戲‧夢‧人生」と題して方育平作品の特集。方育平といへば「獅子山下」の優れたテレビドラマ作品を七十年代後半に残した人で「解毒」「野孩子」「夜遊人」やアタシが「獅子山下」で一番印象に残る作品の一つ「元洲仔之歌」もこの人。で寡作だが四本ほど映画作品も残してをり今晩その内の「半邊人」(1982年)見る。父母の営む街市の魚屋の商売手伝ひながら俳優になる夢をもち旺角砵蘭街の電影文化中心で演劇学ぶ少女・阿瑩(許素瑩)が主人公。家族の生活や困難、演劇教へる脚本家とのプラトニックな師妹愛。家族の話は方育平の専業で而も許素瑩なる少女が見事に肴を捌いて見せるのも、許素瑩自身が映画学校の生徒で彼女の家の生業がそれ。家庭環境は実話で父母兄弟姉妹役も実の家族。若い姉が子を孕むのも実話で、別れた彼氏も本物でドキュメンタリーのやう。その話に対して映画学校の俳優養成コースでの話がどうもピンとこない。こちらも実在の学校で出演する生徒らも、授業の内容や劇中劇となる話劇も実話。だが先生役の脚本家(この映画の脚本書いた王正方が演ず)のキャラクターが不明朗。実際に若くして映画制作の夢適はぬまゝ亡くなつた脚本家があり、その人へのオマージュの由。この家族と映画学校の二つの話が、前者だけなら「獅子山下」として秀作で、後者の話が映画とするには難もあるが許素瑩を主人公とすることで、彼女が健気に俳優にならうと意志貫徹することで作品となつてゐる。

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