富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月十七日(火)深更より稲光轟き落雷陣雨。雨が歇まづ。先々週末より「どうしちやつたのよ」といふくらゐの降雨。今日も休みなき本降り。豪雨の被害は華南九省に至る。何処に寄る気もせぬ雨空で日暮れ前に帰宅してドライシェリー一飲。残り物のテーブルワイン(白)でピーマンの肉詰め。晩に吉田秀和『音楽展望』1977年を少し読む。同年6月21日の記述にカセットテープ録音の普及について。コピーによる著作権や版権の問題なるある、としながらも例へば自然科学の分野で研究が一個人によるものでなく研究組織や企業などの投資による成果だとすれば研究成果が共有されることは「より多くの人間がより研究しやすくなるとしたら社会の立場からは一概にこれを却けてよいとばかりはいえない」とインターネット開発の初期の目標であつた学術的成果の共有を予感するやうな記述あり(インターネットが実は軍事的リスク分散といふ開発目的があつたことは此処では問はぬ)。先生が「科学技術の進歩が考え方の再検討を私たちにうながす」と仰つてから30年後、我々は此処までネットに支配された21世紀に在る。吉田秀和がその時代にまだ健筆を揮はれてゐる。
NHKにてブータン初の国会選挙のドキュメンタリ観る。司法長官から国会議員候補者ばかりか首都の街中にてテレビ取材に答へる若い娘らまでかなり流暢に英語で話す。英語が話せれば良いとは云はぬし明治期の日本のやうに外語会得こそ文明化といふ見方もあり。だがブータンのやうに鎖国だの非近代化と思はれるヒマラヤの小さな山国で実は英語くらゐ話せて当然の市民が少なからずゐる現実。「英語でしやべらナイト」の経済大国日本は如何に。
▼香港政府立法会が政府の副局長、政務アシスタント職新設に関して行政長官弁公室の陳徳霖につき不信任動議(昨日)。法的強制力はないが副局長8名、アシスタント9名のうち7名が陳徳霖嫡系。香港証券取引所の役員辞任したDavid Webb氏がブログにて政府系シンクタンク智經研究中心(Bauhinia Foundation Research Centre)につき公共信託組織でありながら資金源すら明らかにしてをらず、この06年3月の設立から大きく関はつたのが陳徳霖……云々と興味深き記述あり(こちら)。
▼今日のFT紙によればLe Monde紙の経営危機(月に€2mの赤字で01年からの損益が€167m)と大規模なリストラ。ネットとフリーペーパーの普及で発行部数の落ち込み、広告収入の減益はLe Monde紙に限つたことに非ず。問題は、1944年にド=ゴール将軍の構想で生まれた世界有数の中道左派のインテリ紙が存続の危機にあること。フランス語を解せぬと読めないところが日本では朝日新聞がもう絶対にこれ以上の隆盛なきことと同じ。英語であつただけFT紙やヘラトリ紙がどうにか生き残れるのと対照的だが、Le Monde紙や朝日新聞はもはやニュース速報的な報道からはこのさい手を引いて論評や解説記事専門の知的情報紙として生き残るしかないのでは? だが更に問題なのはキョービのネット社会でもはや前近代的な知識や教養は求められてをらぬこと。いつまで新聞が紙媒体で残るのかしら。せめてアタシや新聞購読量ではアタシの上をいくであらうS従兄の死後になりますやう。