富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-03-13

三月十三日(木)疫禍再来、つまり2003年のSARSのマスコミによる報道禍の再来。今回のこの流感報道での最も大きな特徴は台湾の総統選挙との重なり。香港駐在の朝日や読売の特派員が台北に在り、そこから香港の流感について報道=こりや大変。読売(電子版)は昼頃に「インフルエンザで子ども4人死亡、全小学校を閉鎖…香港」と台北から(こちら吉田健一記者)。見出しは「猛威」だが記事じたいは「衛生当局幹部は「新型インフルエンザではない」として、市民に冷静な対応を呼びかけている」と締めて比較的冷静。翌14日の紙面(国際衛星版)では記事載せず。読売の良識・見識?を見せる。で朝日、03年の疫禍では大袈裟報道は群を抜いたが、読売と同じ見出しは「猛威」で台北から(こちら林望記者)、従来型ウイルスであり政府は「全面的な休校は「市民の懸念を考慮した上での予防的な措置だ」と強調している、としつつ「03年の新型肺炎SARSで300人近い死者が出た記憶があるだけに市民は心配を募らせている。隣接する中国広東省深センや広州などでも感染が広がり、症状の重い患者が出ている模様だ」としてAPの「香港の小学校で12日、マスクをつけ並んで歩く子どもたち」の写真の掲載。翌14日の国際面(衛星版)では4段組みで同じ内容と写真が記事に。これを読むと「日本では03年のSARSでの恐ろしい記憶」があるだけに、まるで香港全域でマスクをした子どもが溢れ流感禍に恐々としてゐる様の想像に易いだらう。が現実は異なる。03年の疫禍では最も冷静な報道と思つた共同通信だが、今回は「広東省など中国南部を中心に、鳥インフルエンザ感染による死者が相次いでいることもあり、香港当局が警戒を強めている」と今回の流感が鳥フルと直接関係ないことには言及しておらず(こちら)。それに「鳥インフルエンザ感染による死者が相次いでいる」つて、昨年が3人で今年は今までに3人(3月11日現在、WHO)。「相次ぐ」の表現の基準は如何に。特定の流感感染の深刻な学校(日本でも学校閉鎖の部類)はともかく、それ以外の学校は平常通り。現在、政府衛生局の把握してゐる流感の兆候のある児童は香港全体で486人=香港の全小学生の約0.12%、この一週間ほどで流感に罹つた子供(中学生以下)は802人で全体の0.077%=1万人に7.7人。「香港全体の小学校が休校」と聞くと大阪市の全部の小学校が学校閉鎖、で日本の印象ではパニックだが政府高官の突然の発表で翌朝一斉休校できるドラスティックな香港(SARSでの対応経験あり)と、これほどの決定には内閣安全保障・危機管理室が作動してしまいさうな日本とは感覚が全く違うことに留意すべき。WHOも「香港政府が一部の学校を休校措置としたことは評価すべきことで、これは過剰反応ではない」としつつ「香港のインフルエンザの状況ぢや季節性の通常のものでWHOに通報を要するものではない」と。香港で死亡した子供も、7歳の男子は喘息の持病がありステロイド系薬物投与治療で免疫力が低下してゐたところでインフルエンザのウイルスに感染しての併発症としての急性脳炎が死因。もう一人の3才女子は先天性の酵素欠乏(赤血球か)で、インフルエンザのウイルスでの心臓や肝臓なの細胞の脂肪化が死因。可哀想だがSARSのやうな誰も彼も感染が死に至る疫病に非ず。日本の皆さん、どうぞご安心を。テロだ疫禍だ、と一切合切「不安」の言葉だけが踊る世界よ。……朝からこの疫禍の渦中?にあつたが、母に四月の歌舞伎座の切符の先行発売で予約頼まれてゐたこと思ひ出して慌ててネットで予約。仁左衛門丈に大和屋、勘三郎で(食傷気味だが)勧進帳……ほかに演目はなのかしら。どうせなら武藤敏郎・日銀副総裁を義経に、弁慶は福田二世、富樫は小澤一郎君で「通せ、通せぬ」でもすれば如何?
▼信報の阿五さんの「琲話」とか蘋果日報の古徳明さんの「征服英語」とか、香港の中文紙には「ウィッキーさんのワンポイント英会話」のやうな連載あり。内容は高度で、例へば香港政府の08/09年の予算案で
Eliminating the effects of the rates concession and public housing rental waiver, the underlying inflation rate was 2.8 per cent.
といふ一節の誤り、と言はれてもアタシなどさつぱり解らぬが、厳密には主文の主語がthe underlying inflationなのだからEliminatingの主語も同じくthe underlying inflationとなつてしまひ、これでは意味が通らぬから、本来は
If we eliminate the effects of the rates concession and public housing rental waiver, the underlying inflation was 2.8 per cent.
とすべき。ただこのテの表現は文豪Alexander Popeにも見られるものでinformal standard usageとして許容範囲か、といつた話が、香港の大衆紙である蘋果日報にあり。また例へば大使館はEmbassyで領事館はConsulateは領事館だが「ロシア政府は駐米大使を召喚した」が“Russia has recalled its ambassador to the US”なのに対して「日本領事館は抗議状の受取りを拒否した」は“The Japanese Consul-General in Hong Kong refused to accept the letter of protest”となり、大使の場合は to で総領事の場合は at/in となる。この違ひが何故か、と言へば(アタシもこれで間違つたことがあるが)大使は特命全権で国家を代表し(日本でいへば元首=天皇の特命を受け=総理大臣の、ぢやない)相手国政府と遣り取りをするので、通常 to +国家名称 を用ゐ、領事は一定の地域・都市を管轄するので at/in なのだ、と。納得。

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