富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-10-30

十月三十日(火)昨日、香港の恒生指数が31586ポイントまで上昇。アタシはここ数年、株とか投資ファンドとか全く無縁。御仏に仕へる身か。来春の香港藝術節のチケットが届く。紐育フィルに倫敦フィル、歌劇はリゴレット、それにAndras Schiffのピアノリサイタルと、大宰的にあh「これで春までは生きてゐようと思つた」の楽しみ。それはいいのだが、某氏からも紐育フィルと倫敦フィルのチケット購入請はれ、十七日にアタシ自身の購入から数時間遅れでネットで。それがアタシのは二十日にクレジットカードに料金チャージされたが頼まれた分はチャージに至らず。気になつて数日前にURBTIXに電話で確認したが、この藝術節についてはチケット発行=予約確定なのでチケット発券前に確認には応じられぬ、の一点張り。で今日になり先行予約のチケット届いたので電話で確認求めれば案の定「申込みが遅かつた分、手続きも遅くなる」だの「購入希望の席が取れなかつたのではないか、その場合はその旨お知らせが届く」と不親切。でかういふ時になるとアタシはウソが上手で「申込みは確かに数時間遅かつたがアタシは予約受付番号が351番で数時間後のこれが831番、で更にその数日後に予約追加した1000番台のチケットも今日届いてゐる」と偽証。「それに1度目と3度目の予約がA席なのに対して、この取れてゐない2度目の予約はS席なので、S席がない場合はA席で、と第二希望も付いてをり、物理的にチケット売り切れは考へられない」と指摘。かう言はれてしまふと先方も「何かミスがあつた鴨」と思はざるを得ず、やうやく「それぢや調べる」に至る。官方に何かさせるには、ここまでウソも方便で努力せねばならぬ。それでも「831番の予約確認ができない」と電話の主はとても面倒くささうな対応で「名前と電話番号教へてくれれば調べて電話する」と言ふ。どうも信頼おけず「ファクスでネット予約の確認書のコピー送るから、そこに詳細がぜんぶ明記されてゐるから、それを参照してくれ」と求めるが、先方は「要らない」と言ふ。先方で予約確認ができないのに何もデータがなくてどうやつて調べるのだ?、とにかくファクスを見てくれ、と強引にファクス番号聞き、ファクスでデータを送り、さらに心配なのでネットでメールでも事情説明済ます。数時間後に担当者から「メールを見た」と電話あり(ファクスも他の部署から入手)。「予約は間違ひなくとれてゐる」がクレジットカードでの支払ひのところで何か支障があつたやうで、クレジットカード番号教へてくれれば即座に発券手続きにはひる、と。つまりは結局、先方にはデータがなく(つまり予約されてをらず)、それでも予約受付番号があるから「予約がない」とは言へず、とにかく現在ある席で(売り切れよりずつとマシだがネット予約の他に十一月のカウンター発売用にある程度、席は確保されては、ゐる)発券しよう、だが送られてきたデータのコピーはネット販売のためクレジットカード番号が3763-xxxx-xxxx-xxxxと見えないため電話で確認してきた、といふところか。結局、アタシの送つたファクスだけが根拠になつたもの。まるで「今、出ました、が念のため注文、教へておいてくれますか」の蕎麦屋の出前の如し。だが何でもミスなどあるのは仕方がない。ただこのケースで怖いのは、アタシがウソでもついて強引に確認を求めないかぎり、しばらく待て、で等閑にされること。これでネットの先行予約終はつてしまつたら一巻の終はり。早晩に驟雨。ジムで昨日に続き5kmだけ2%の傾斜で走る。帰宅して牛丼を食す。
▼昨日の朝日新聞で「歴史は生きてゐる」東アジアの150年「第5章満州事変と「満州国」」を読み、歴史的発見に驚く。記者(吉澤龍彦氏)が旧満州でのリットン調査団に関して取材。報告書には日本や傀儡の満州国政府が調査団が直接、民衆から取材することを阻んでゐる中、どうやつて住民がリットン調査団に近づき現実を伝へようとしたのか。そこに鞏天民といふ銀行家の存在あり。鞏はキリスト教青年団の活動通じて学生らに調査団宛に手紙を書かせ、報告書には実際にこの多くの手紙についての記載もある、といふ。05年7月に瀋陽晩報が当時のこの鞏天民らによる活動の記事を掲載。それによると鞏天民らは「満州」事変が日本側により計画的に起こされたこと、満州が傀儡政権であることなどを告発しようと考へ、それを証明する資料を収集、で“TRUTH”と題する冊子作成し、瀋陽在住の英国人牧師に託し、この牧師が自宅にリットンらを夕食会に招いた際に、この冊子をひそかに渡した、といふ(以上が瀋陽晩報の記事)。これに吉澤記者は興味もち、瀋陽で九一八事変(満州事変)研究する歴史家に尋ねたが「エピソードは知られてゐるが史実として確認されてゐない」といふ答へ。前述の瀋陽晩報の取材を受けてゐた鞏国賢氏(鞏天民の孫)にも取材申し込んだが理由もはつきりせぬまま断られ、で吉澤記者は当時の国際連盟の資料有するジュネーブの国連欧州本部図書館に問ひ合はせる。……と関係資料の中から青い布を張つた表紙で閉ぢたアルバムが現れた。同じ青の布袋に入りピンクの糸でTRUTHと刺繍。そこには満州事変以来、日本の憲兵によつて銃撃された市民の名簿、学校教科書の書き換へや削除のリスト、憲兵により検閲された手紙など……と、事実も凄いが、この吉澤龍彦といふ記者の徹底した検証への執念に驚くばかり。この記者の八月の同連載の「脱亜論」も面白かつたが。それにしてもこの“TRUTH”と題する冊子の存在。第一級資料だが、ざくつとネットで漁つてみたが、これまで全く陽の目を浴びてをらぬやう。本当だとしたら、かういふものの発掘こそ、「作る会」的な自虐史観から現実を明らかにするのだ、と思ふ。
▼先週末の朝日新聞の読書欄。アタシの好きな連載「たひせつな本」は俳優の米倉斉加年氏が『長靴の三銃士』を紹介。氏が国民学校三年生の昭和十八年、非適性書籍として謂わば焚書の中に埋もれてゐた一冊がこれ。米倉氏に言はせれば「異端のにほひ」があり熱中して読んだあと、やはり「怖くなつた」で放り積まれた本の中に返した、と云ふ。さすが米倉斉加年、で随筆としても見事。この日の読書欄の巻頭で紹介されてゐるのが愛知大現代中国学部教授の加々美光行『鏡の中の日本と中国』(日本評論社)。評者は高原明生(東大教授・東アジア政治)。高原教授の見事な書評読んだだけで本書も読んだつもり、にしたいが『逆説としての中国革命』は中国研究の書籍の中でも名著の一つ。とくに非常に政治的背景強烈なアヂ研の中国研究者の中で加々美氏は抜きんでた碩学のお一人。読みたひ一冊。一つ気になつたのは高原教授が、中国研究をする者が徒に研究成果が現実の政治に何らかの影響与へることへの期待といふ無自覚により「知らずして自分の目的に合つた因果関係を進めてしまひがちになる」といふ指摘はその通りだが、続けて「また、自分を研究対象に対して優越する位置に置くといふ「オリエンタリズム」的な近代科学の弊害が生じる」としてゐる点については「自分を研究対象に対して優越する位置に置く」=オリエンタリズムとすることには、アタシは多少疑問あり。サイード教授の見たオリエンタリズムといふのは、その中に「自分を研究対象に対して優越する位置に置く」やうなケースもあるが、そればかりではないはず。己の優位もあり偏見もあり必要以上の美化もあり、一言でいへば「西洋が東洋に付与した共同幻想」がオリエンタリズムとアタシは思ふ。
▼九月に大阪で痴漢行為で捕まつた香港の現職警官(32歳)。日本では30万円の罰金刑で帰港。即刻、香港警察の処分受けぬやう辞表提出。勤務暦が10年に数ヶ月足りず。だが未取得の有給休暇など算入せば10年勤務扱ひとなり55歳になり退職金受け取り可。警察といへば、尖沙咀など両替店三度襲つた強盗が四度目の仕業で逮捕されてみると香港警察特殊任務部隊「飛虎隊」(Flying Tigers)の元隊員(警長、53歳、退職済み)。借金返済に窮し強盗したさうだが三度の強盗でたかだか16万ドル=240万円とはセコい。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/