富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-03-21

三月廿一日(水)FCCでドライマティーニ二杯。香港映画祭始まって三日目にして漸く映画鑑賞。旺角のUA映画館。“Sons”(Erik Richter Strand監督、諾威、06年)看る。公共室内プールで監視員する主人公がプールで少年漁る男を見つけ勇気をもって告発してゆくのだが(ただそれだけなら社会正義で終るが)この監視員じたいが売春婦の請け負いで買春客を恐喝したり単なる正義漢ではないのがミソ。さらにこの監視員や周囲の友人らの過去のトラウマなどいろいろ絡み地味ながら面白い展開に。ちょっと映画館を出て旺角の裏町を歩く。「再開発」で出来たLangham Placeの裏手、Nelson街のあたりはまだ路上市場あり安堵の感。すぐに「再開発」されるのだろうが。「人和」系の豆腐屋で煎豆腐(HK$5)食す。ほんの数口の豆腐で今夜はこれが晩飯がわり。旧正月で日本から戻ってから香港マラソン挟んで体重は4kgくらい下がったままを維持。我ながら偉いと思う。映画館に戻り“Three Days to Forever”(Riri Riza監督、インドネシア、06年)看る。ジャカルタの都市型上流階級の一族を舞台にイトコにあたる若い男女の恋愛物。結果が見えるだけにけったるくもあり。さりげなく煙草を吸う場面でつないでしまうのは演出の「逃げ」だと思うが、それが何度も続き食傷気味。勿論、ジャカルタからジョグジャカルタまで車で旅する二人がイトコ同士ということで愛情を抑えようとすることをチェーンスモークが表わしている、ととらえることも可能なのだが。終って監督と主演俳優との一問一答などあったが銅鑼湾での次の映画に急ごうと会場を出ると次の映画に並ぶ行列あり。一見して「クセのある」かなり年齢層の客筋に何の映画か?と気になりパンフレットを見ると“The Yacoubian Building”(Marawan Hamed監督、埃及、05年)という映画で172分という時間に本晩3本目としてちょっと二の足踏んだが、どうせなら看てしまえ、と鑑賞(これまで香港映画祭で一日に六本映画看たこともあるが、同じ映画で三本通し、というのは初めて)。埃及の首都カイロに1920年に建てられた高層の豪華な西洋建築の建物(現存)を舞台に舞台をキョービに移し何人もの住人の態を描く。それだけでも面白そうだが住人というのが、このビルが栄華の象徴であった時代から住まう財産家の兄妹は親の財産をめぐり骨肉の争い(兄の老いても尚盛んなエロ事も面白い)、路上での靴磨きから一念発起し贈賄続け政界進出を狙う自動車ディーラー社長は愛人を囲い愛人が妊娠すると堕胎を迫り、ビルの屋上は半ばスラム化し貧困層が住まい、若い大卒の男は出自が被差別層であるため正職に就けず社会正義のためテロ組織に加わり、その妹は生活費工面のため上述のディーラーの愛人となる。同性愛者である新聞編集長は路上で軍人など誘い自宅に連れ込み(その軍人を愛人とするのに軍人の妻子までこのビルの屋上に住まわせ)……とまるで現代のエミール=ゾラ的な世界。このビルが朽ちかけるように登場人物はみな破局に向う。それにしても一つのビルディングをまるで生態系のように見事にモチーフにする。偶然ながら看て良かった作品。

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