富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月三日(日)映画観るには勿体ない快晴。金鐘UA映画館にて引き続き香港国際映画祭オランダ映画“Simon”観る。Eddy Terstall監督。昨年の同映画祭で上映され好評博した“The Barbarian Invasions”がヒューマニズム尊厳死扱ったカナダのケベック映画なら、同じテーマでこれは実にオランダらしい物語。大麻売る喫茶店の経営者Simonがゲイの歯科学生を偶然に車で轢いてしまったところから物語始まる。この二人は親友となり十四年後、Simonは妻と離婚し彼女と暮らす。歯科学生は歯科医師となり恋人と同性結婚も近い頃にSimonは癌を発病。癌の末期にどう人生を充実させるか。モルヒネ投与での尊厳死を決めた彼らの日々。その「逝去」予定日がこの歯科医師の結婚式と同じ時期。オランダらしさ。昼に太古城のUA映画館で伊蘭映画“Story Undone”観る。アフガニスタンから伊蘭への密出国に挑む人々の物語。その不法出国の一団を追うドキュメンタリー映画の監督とカメラマン。この二人が記録映画撮る物語で映画ぢたはドキュメンタリーの形式を用いた劇作品といふ凝った作り。それが見事に演出に活きている。「太古城のフードコートの日曜日午後」といふ環境で叉鶏飯食し楼上のPacific Coffeeで昨日の日記綴る。ジム。午後遅く太古城UAに戻り王超監督の『日日夜夜』観る。人身事故続く中国の炭坑舞台にした話。フランス映画資本の製作。経済発展から見捨てられた国営の小さな炭坑。事故で亡くなった炭坑主の親方の意志引き継ぎ炭坑で生産上げる若い技師。親方の少し知恵遅れの息子を独り立ちさせて炭坑を去る技師。西北の荒涼とした砂漠での物語は中国映画で食傷気味でもあるが「これでもか」と見せる演出。ふと思ったがここまで映画見続けられるのもひとえに最近の映画館など映写場所の椅子の座り心地の良さ。二時間坐っていても全く疲れなし。灣仔の詩藝戯院でチベット映画“Kekexili”(監督:陸川)観る。Kekexiliは西蔵語で風光明媚な桃源郷、美しき女性称える言葉だがこの映画では西蔵羚羊(チベットカモシカ)の毛皮狙った狩猟乱獲から羚羊を守る警備隊が物語の主。北京の雑誌社から派遣された若い記者の青年が遭遇したものは過酷な自然環境で羚羊狙う違法狩猟団を追う彼ら。限られた食糧、燃料で砂漠と高原を進み故障したジープの仲間は置き去りにせざるを得ず町に食糧燃料得に戻った退院は砂地獄に呑み込まれ命を落とし補給食糧燃料ない中で数年かけて追い続けた狩猟団の団長を追いつめるが……。そして記者が見た大きな矛盾は自治区政府の承認で出来たこの警備隊も予算に乏しく隊員の給料どころか燃料買う資金も乏しく、それを補うのが密猟団の下っ端から賦てた罰金であり不法に乱獲された羚羊の毛皮を町の密売屋に売って得た現金。記者はこの事実をどう報じるのか、と悩む。実話に基づいた話で警備隊は最後に残った隊長が密猟団に殺されたことで記者は事実の報道決意し後日談として政府がこの密猟団撲滅に乗り出し国立自然保護区が設けられ西蔵羚羊は種の撲滅がどうにか避けられ繁殖する。映画終わって湾仔のLockhart Rd街市隣りの「城邦書店」初めて訪れる。台湾の誠品書店の雰囲気の小さな書店だがサイードネグリ&ハートの『帝国』だの興味深き書籍並ぶ。台湾の故・辜振甫氏の伝記『勁寒梅香』黄天才(台湾中央通信社社長)著と台湾鉄道百年史購入。MTRで西湾河。住宅密集の「太安楼」ビル楼下の雑居商店街は行列のできる小さな(正直言って小汚い)立ち食い多し。太安楼の太康街に面した出口角にある牛什串立ち食い。この店はもともと電器屋なのだが何故か店主の始めた牛什の屋台が好評で行列できる。今でも電器屋の店先で屋台出す不思議。Z嬢とで落ち合い恒河カレー屋でカレー食す。この店もかなりの混雑。晩九時半からZ嬢と香港電影資料館にて『早期粤港風貌』という戦前撮影された映画で香港の都市風景が映画に現れる作品(断片もあり)観る。6本集め108分に編輯。1898年撮影といふ貴重な映像もあり。香港映画の創始者(日本でいえばマキノ省三)黎民偉の撮影した有名な国民党北伐のニュース映画も初めて観る。映画五本でさすがに疲れる。
ローマ法王ヨハネ・パウロ2世逝去。享年八十四歳。次の法皇選出の選挙(根比ーべ)は百十七名の枢機卿が世界中より集まり、だそうだが実は今回はヨハネ・パウロ2世が生前にもう1人枢機卿追加指名しており計百十八名といふ話あり。その1名は何処の地域選出かを明かせぬ理由あり。それがバチカンを正式に認めておらぬ中国から参加の枢機卿であるからといふ。北京政府がカソリックを正式に認めておらぬように思われてもいるが正確には中国は憲法でも宗教の自由認めておりカソリックについても中国政府の承認下にある中国天主教愛国会と政府に批判的ではない司教組織である中国天主教主教団などあり。この「愛国的な」組織が国内に五百万人といわれるカソリック教徒代表してローマ法皇逝去に哀悼の意を表すが中国政府としては正式に友好関係のないバチカンに対して中国国内のカソリック教会と信者がバチカンと交流することに遺憾であるのは事実。中国政府がバチカンを認めぬのは共産党が政治経済文化の全てを統率するなかでバチカンといふ巨大な権力がそれに対峙するだけの統率力をもつことへの懸念。そして歴史的には中国の列強による植民地化でカソリック教会が果した役割に対しての断罪。中国においては侵略者であった一部の神父らについてバチカンが数年前に殉教者として聖人として扱ったことについても中国政府は改めてバチカンに対して対立姿勢を強める結果となった経緯もあり。ちなみに北京には名園として名高い泰王府の隣りに高い壁に囲まれたバチカンの北京駐在事務所あり。バチカン法王庁の「中国」大使館は台北に存在。

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