富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月初二(水)病院の病室には簡易寝台が用意されたがお世辞にも寝るを厭ふやうなやつで結局ソファに寝て朝を迎える。快晴。病院近くのバイパス沿いの和食屋で朝定食す。朝のワイドショーで犯罪者の扱いについて討論あり。「そういう犯罪傾向の強い人間、野獣ですよ、そういう連中のために税金を使って更正させる必要が何故あるのか?」などと発言続きバカな司会者がわかつたやうな顔で頷く場面見て気持ち悪くなる。テレビを消して思つた。犯罪者更正の理由は2つ。ひとつは経済的には労働資源である人間の再利用。もうひとつは筒井康隆的には自分がいつ狂気的殺人者になるか誰もわからないから、だらう。自分だつたら社会に復帰したいといふ希望。妹が来院。自宅に届いていた北一輝著作集だのフーコーの旧著、高橋悠治のサティ奏でるCD、それにお餅まで持つて来てくれる。伯父(父の兄)と従兄弟のS兄が来院。主治医の来診あり。母も父の親友H氏運転の車で来院。僅か一晩の父の見舞い終わる。昼に午後から仕事に戻るS兄乗せて病院を出る。近くのJR駅でS兄降ろし成田空港まで一時間余。かつては原野であった「地方」に小綺麗な住宅地と洒落たショッピングゾーンいつくもあり。これぢゃ都市の空洞化も当然。その新しい街とてもきれいだが。中上健次生きていたらかつて路地の物語がこの現代にどうなつたかと興味あり。レンタカーをホテル日航近くの営業所に返却。空港までその車でお連れします、ってそれなら最初から空港引き渡しにしてくれればいいのに。成田空港。急な渡航でキャンセル待ち昼までかけていたが晩の香港直行便は二便とも満席で台北経由のCX451便にチェックイン。廊下側指定せば三人掛けの通路側と言われ機体とシート尋ねたらカウンター職員は「機体はB747ですが長距離便ではありませんから古い機体なのでロングシートではありません」と素っ頓狂なお答えに笑ふ。ボーダフォンの携帯が昼頃から不調で空港ターミナルのボーダフォンのカウンターで尋ねると音量が1まで弱まっていただけと判明。恥ずかしいかぎり。書店で『諸君』となぜか村上春樹の文庫本で出た『浜辺のカフカ』購ふ。キャセイのラウンジ。病院ではネット接続できず(モデム対応の公衆電話あったがICテレホンカード専用とあり病院の売店も近くのコンビニもこのICテレカ売り切れで妹に聞いたら近々廃止になるカードで何処も扱っておらぬそうな)空港内のワイヤレスで接続。日刊ベリタに昨日書いておいた記事送稿忘れ搭乗。機内で今日の香港各紙には董建華行政長官辞任確実の報道あり「しまつた!」と思ったが遅し。今日ではもう確定情報ですでに報道も多かろう。じつくりと新聞読む。『諸君』は朝日とNHK問題特集でナベツネの朝日NHK論掲載されていると新聞広告にあり、それ期待して読んでもいつこうにナベツネの文章なく「あれ?」と思えば空港の書店で購入したのが間違つて『正論』であつた(笑)。特集のテーマもなら内容も殆ど同じでは間違えるのも当然か。偶然に昨日の香港→成田のフライトアテンダントがこの451便に搭乗。何人かに「あ、昨日のお二階の」と1泊の筋斗返りで多忙なビジネスマンと勘違いされる。お二階の、って此処はお茶屋か。「あらあら、昨日の今日でずいぶんお盛んだこと」つてな感じで。村上春樹海辺のカフカ』読む。もうずいぶん昔に『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』だったか新刊で読んだきり二度目の村上春樹。先日マラソンしながら徒然思つたのは、嫌いである筈の村上春樹だが自分の世界の中でワンダーランドにて物語に遊ぶ、そのマラソンランナーと自分も実は同じぢゃないか、といふこと。すると翌日だかの新聞にこの『海辺のカフカ』が文庫になつたといふ広告あり空港で購つた次第。読めば主人公の15歳の少年は社会から退き図書館で本を読むのと唯一のもう一つの行動はナルシスト的にジムで鍛えるだけで(とてもそれが15歳の少年の実際とは思えず村上春樹自身の理想的15歳で、著者との唯一の違いは(であつて欲しいと信ずるのは)顔かたちだけか)而も物語の舞台となる高松から琴平電鉄の光景が偶然にも去年の秋に旅した旅程で舞台がとても鮮やかに想像できて読み耽る。飛行機は蔡明亮的な雨の降る台北に到着。摂氏13度。キャセイのラウンジのヌードルバーで牛肉麺と油醤麺まで食す。そのために成田からの機内食も余り食さず抑えたのも事実。美味。台北から香港に到着の間に『海辺のカフカ』上巻読了。さういえば昨年の正月二日にやはり同じ台北経由のこの便で機内で江藤淳『妻と私』読んで涙。香港も雨。機場快線の車内で日曜日に恰度この鉄道の上の道をこのような気温と雨のなか走つていたこと思い出す。二時間以上かけて走つた片道を僅か八分ほどで列車駆け抜ける。香港站からタクシーに乗れば競馬のラジオ中継の最終レース。馬主C氏のDashing ChampionとDashing Winnerがともに参戦であること思い出し慌てて携帯で馬券購入したが出走に間に合わず。結果二匹とも惨敗。帰宅して旅荷解き片付けに徹す。

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