富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月三十日(金)曇。実家より成島湖北『柳橋新誌』漢文の原版復刻和綴本(昭和五十二年日本近代文学館の特選名著復刻全集ほるぷ出版)と同書読下しの岩波文庫版届く。岩波は昭和六十二年の第二版。この初版は昭和十五年で実に四十七年ぶりの復刻は岩波文庫創刊六十周年記念。それと一緒に司馬遼太郎全講演その1朝日新聞社文庫届く。頼んでもおらぬ文庫に偶然昨日築地H君と司馬先生談義あり偶然に驚くばかり。更に一緒に本に挟まれた小冊子は水戸室内管弦楽団定期演奏会の今年六、七月のパンフレット。先日に母と電話で話した折に吉田秀和氏の話題となりこのパンフレットで吉田氏の卒寿賀っており母の付箋は吉田氏のそれへの答辞の頁に。卒寿の祝ひの答辞とはいへ実は九旬になったは昨年の九月、それに二月に応える。その間に吉田氏の妻の逝去あり。この答辞にも亡妻のこと述べる。昨日の朝日新聞にはこれも偶然に「音楽展望」の連載休む吉田秀和の談話が載る。からだの半分がなくなったようでとても音楽評論の文章が書けぬと吐露する吉田秀和。写真はかつての紳士然とした風采が絣の半纏の如き上っ張り姿。夫人のバルバラ女史が生前に骨盤内の癌に冒されつつ荷風の墨東綺譚を独逸語訳し次いで断腸亭日剰のうち全編といふわけにもいかずせめて、と昭和十二年の独訳目指していたなどといふ話初めて識る。読むにも切なし。この水戸室内管弦楽団の演奏会はちなみに指揮が小澤征爾バルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」とモーツァルトの協奏交響曲変ホ短調でホルン独奏はラデク=バボラークで(!)更にフルートが工藤重典にオーボエ宮本文昭。何たる贅沢。だがその演奏が行われる水戸芸術館は中身はどれだけ贅沢でも周囲の街はすでに死に体。柳橋新誌の郵送の礼のため父に電話せば来週末の夏祭りもかつては数万人の人出も今では商店街も老舗百貨店や大店の書店だの閉店続き商店街の大通りに店半分も営業しておらず道行く人も多からず。商店会にて夏祭りへの協賛すら危なきほど。商売も数ヶ月先が見えぬようで夏祭りどころではなし。演奏に満足して晴れの気持ちで会場出れば嘗ては夜も歓楽街だ花街だのと東京から客が遊ぶほどの賑わひありし市街は人も歩かぬ暗き街角。そんな商店街のなかにこの芸術館位置すると思ふとまことに悲しいかぎり。早晩にジム。筋力運動一時間。今月マメに運動。運動くらいせぬと極端な不健康に陥り憂鬱か中島らも氏的なアルコール依存になるも余は容易。これほどジムで鍛錬し週末は走り山を歩き、これで高脂質で要注意とはいったい如何。ジムに行く途中、灣仔の歩道橋は普段でも湾岸やImmigrationに往復する人で混雑する場所、この時期は灣仔展覧中心にて「書展」の開催で殊に今年は五十万人だか動員の記録更新だそうで、その人出があるといふのに灣仔の地下鉄站から会場に向うこの歩道橋が改修工事中。この改修は偶然か七月朔日のデモの一週間前だかに開始。昨年、この歩道橋から主催者側の拡声器でのシュプレヒコールが轟き、デモ参加者はいったい何万人が参加しているのかわからぬ状況の中、その拡声器から「香港電台が二十万人参加と報道!」と聞かされ更にデモの興奮高まったのがこの場所。この改修で今年はデモ当日も歩道橋に竹の足場組まれ偶然かどうか……などと懐疑もしたが書展のこの時期に歩道の幅三分の一ほどに狭まり政府の行政職員の思慮の浅はかさに呆れるばかり。この歩道橋上では書展の参観者をば意識して法輪功の信者諸君が江沢民の弾圧非難してビラ配り続ける。「中国国内で」こうして法輪功が活動し中央政府非難できるのだから香港は言論の自由保障されているかも。帰宅して晩のニュース番組眺めればICACの廉政専員が新聞業界代表と会談後の緊急記者会見。今後は新聞社の取材内容捜査の必要あってもその手順など慎重に検討、と。権力や司法官憲からも距離置き自由自在な捜査権限有する高度な独立機構のICACながらその廉政専員の間抜け面をば見ていると「これじゃダメだ」と相にあり。続いてNHKの「毒にも薬にもならない」今井環ニュース10見てしまふ。冒頭より十五分!台風情報。台風の進路など報道大切なのはわかるが「対策として」と社会部記者が「河川から離れる」「土砂災害に注意」だの挙げ今井君が「なるほど」と頷く。東京大学出だの早大政経の優秀なる頭脳がテロ侵入からも厳重に警戒されたNHKニュースセンターの内部にて(NHKの放送センター内でもニュースセンターは警備など別格)小学生でもわかること神妙に語るの図。煙草チェリーのヤニでまだ歯がお歯黒の橋本龍太郎橋本派の会長辞任表明し次回選挙では選挙区から立候補辞退と述べるが「まだ頑張れ」といふ声あり比例代表制に推挙されれば、と。結局反省などしておらぬ(当然か)。橋本君本人曰く「国際的にもやり残したことがある」と(国内では本人への批判高まりへの牽制だが)「国際的に」橋本君のやっていることなど誰も知らぬ(笑)。今年でいえばアジア太平洋環境開発フォーラムだのカザフスタン共和国訪問や日本国際貿易促進協会第31回訪中団団長として訪中だの国際反テロ情勢および反テロ協力シンポジュウム参加で本人には失礼だが首相経験のある自民党のドンの一人といふ格の役柄ばかり。強いて「やり残した」国際的なことといえば橋本君主宰の国際寄生虫対策ワークショップだろうか……。日本歯科医師協会が自民党寄生虫なのか自民党が医師会の寄生虫なのか余には判断できず。夏の臨時国会開催。参議院議長に上方の成駒屋の三代目の内儀。鴈治郎は来年四代目坂田藤十郎襲名でこれにも箔がつくか。参議院議長の夫の襲名披露なら各企業だの献金……いやご祝儀か、も期待できるはず。永山会長もさぞやお喜びのはず。それにしても二百三十一年ぶりだかの大名跡の復活だそうだがどうも上方で「坂田」といふと坂田利夫ばかり想像。鴈治郎も京の芸妓相手に悪巫山戯すぎる点では坂田利夫も一緒にされては怒るかも知れぬが参院議長の夫では何かとお座敷遊びも自重なのだろうか(まさか……)。それにしても扇千景衆議院議長国会に登院は退紅の色も艶やかな着物姿はそれでいいが国会議員バッチをば着物の胸に挿すは如何なものか。洋装のブローチならいざ知らず着物にそういった針刺さず。せめて和服なら「ねつけ」のようなものに、それも絹糸でも巧妙に編み、それに議員バッチつけるくらいの装飾が許されるものか。許されぬといへば国会敷地内にて琉球衣装で弦楽器奏で歌ってみせた喜納昌吉議員、いきなり警備員に叱られる(笑)。どうせなら予算委員会とかでも質問で歌ってみせるか。自民党荻原健司先生はインタビューに「スポーツマンシップ」連呼し、この先生の辞書にはスポーツマンシップ以外言葉ないこと国会初日に暴露。自民党両院議員総会には青木、阿倍といった「反省を知らぬ」面並ぶ。かたや民主党といえば同じ両院総会で幹事長某氏(名前すら失念)が「今回自民党は会期を八日間と短くする姑息な手段をとったが……とにかく頑張ろう!」と、この「とにかく」としか言えぬのが民主党らしいが、これについて自民党河野太郎君は国会日記にて民主党は一ヶ月の会期など求めているのは「ふり」だけで実は「議院運営委員会の海外視察が八月半ばから予定されていて」「民主党議運委員も参加」する予定で「本当に民主党が会期を一ヶ月にしたいのであれば、まず、この海外視察がキャンセルされなければならないが、この視察の日程がどんどんと決まっているらしい」と揶揄もあり。「他の民主党議員もお盆明けからぞくぞくと海外に出る」のが実情で「結局のところ、一ヶ月を主張して、与党に否決させて、与党を悪者にして、海外に出るというのが本音」で「強行採決にしろ、会期にしろ外には建前を見せて、内には別な本音があるという国会運営がずっと続いている」のは「五十五年体制そのまま」と河野三世。国会議事堂どの動物園よりも珍獣多しと思ふばかり。ここ数日はずっとPierre Fournierのチェロばかり聴く。バッハの無伴奏組曲有名だがこのフリニエのバッハの無伴奏組曲の良さといふのはウヰスキーでいえばスコッチのモルト好きにとってのマッカランの味といって良いだろうか。とても豊饒なる贅沢な味、でもクセやピートの強み好む者にはアンナー=ビルスマが好み、といふ感じか。フルニエのドボルザークの協奏曲を聴けば(ジョージ=シェル指揮のベルリンフィル1962年)フルニエのこの曲を久が原のT君が生演奏で聴いていると語っていたがそれは凄いものだろふと想像するばかり。
▼数日前の蘋果日報に「差館」と云われた昔の警察署の写真あり。香島区に九つの警察署。九つのうち2つは現役。2つは建物既存。残り5つは形跡もなし。
1号差館 銅鑼灣Leighton道 現:PCCW東区機構ビル
2号差館 既存。現:灣仔警署
3号差館 既存。旧灣仔郵便局 郵便局移転後建物解体免れ環境署の環保軒。
4号差館 金鐘兵房(現在の香港公園内?)
5号差館 中環Wellington街
6号差館 (この記事に記載なし)
7号差館 既存。現:西区警署(中国政府中聯弁前)
8号差館 既存。西環高街。現在:香港警察刑事総部
9号差館 中環Caine道。
▼本日香港の市街電車(トラム)開業百周年。単層の二十六両の車輌にて営業開始。うち十両は一等専用車で料金10セント。残り十六両が三等で5セント。開業より八年の一九一二年に現在のトラムの原型となる雙層の車輌登場。上層と下層三分の一が一等ながら上層は無蓋にて暑さと悪天候に人気なく一八年に上層に幌がつき二五年に現在の二階建てトラムの原型となる(といふかそれ以降殆ど変化なし)有蓋となる。現在163両運行中。

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