富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月廿日(火)午後驟雨あり。昼に北角の寿司加藤に食す。ご主人に先日約束の上原浩『純米酒を極める』お貸しする。東京では観測史上初の39.5度記録とか。終日雑事に追わる。自宅にてレトルト物の蒲焼。菊正宗。明日が土用の丑ながら明晩薮用あり。雑な仕事に追われつつNHKニュース10見ると「悪い人ぢゃないが」の今井環君番組開始で「いやー、今日は暑かったですねぇ」と、もはやこの一言にてNHKのニュースルームのこの異常気象に対する取組み姿勢明らかだが、当然のように「暑い」「暑い」の様子ばかり。気象解説員はこの史上最高気温について原因を晴天、「高気圧」の上に別の高気圧が乗っかり、さらにフェーン現象があって、と解説。「なるほど、そういうワケだったんですね〜」と今井環。それぢたい間違いではないが、それくらいのことなら今までも何度も夏にあったことで、問題はなぜ夏にはけして珍しくもなき自然現象で過去になく今、この高温となったのか、当然これは異常気象なわけで、それがどう深刻かをニュース番組ならきちんと考えるべき。それを海に遊ぶ子供だのタクシーの売上げ増加だの、だがタクシー運転手は売上げ伸びても自らは冷房症に悩む、と冷房があればあったで大変、といふ余りにノーテンキな内容の報道続き呆れるばかり。それにしても39.5度の暑さに背広の上着羽織った会社員、きちんとジャケット着たタクシー運転手と見るからに珍妙。大平首相や今では羽田孜君ただ一人着用の省エネスーツは要らぬがせめて気候にあった服装を考えるべき。逃水すら蒸発しそうな灼けたアスファルト道路の上をシャツにネクタイで自転車で走る男の姿が画面に映る。香港で「あれが日本の銀行員だよ」と言ったらどれだけ人が驚くことか。大平首相といへば鈴木善幸元首相逝去。大平首相急逝を受け首相に就任したものの米誌に「善幸って誰だ?」と書かれ、同じ「江沢民って誰だ?」の江沢民が権力に居座ったのに対して善幸君は周囲も驚くほどさっさと首相の座を降りて今この弔報を新聞で読み「まだご存命だったのか」と思った国民多い筈。
朝日新聞にて梅原猛の連載『反時代的密語』よめば「東アジア文明の語るもの」といふ題で東西を語り東の多神教に対して西のキリスト教一神教は「森が破壊されて荒野となった大地に生れた種族のエゴイズムを神の意志に仮託する甚だ好戦的な宗教」であり「この一神教の批判あるいは抑制なしには人類の永久の平和は不可能である」って梅原先生、本来なら朝日の知的随筆でポスト加藤周一吉田秀和の筈がもう加藤、吉田の両巨頭よりずっと向こうに、もう河を渡ってしまっている。これはマズい。この東アジアの稲作文化は自然と共生するものに対して西は狩猟民族で農業も小麦栽培は植物支配であり自然を牛耳る人間の人間主義となり基督教では人間に他の被造物に対する無条件の支配権を与え、その奢りが今日の様様な問題を生み、その結果が前述した一神教と人間中心主義への批判と繋がるのだが暴論(笑)。西洋にも否、西洋にこそ自然に対する畏怖もあり、また聖書読めば人間に対する精神的には刑法の如し。その制約のなかでいかに悦びを見いだすかにこそ西洋の哲学、人生観があり、梅原先生はそれに対してアジアの価値観を評価するが東アジアの経済活動での今日の自然や環境破壊見ていれば何処に自然に対する畏怖だの共生感があろうか。短絡的な東西の比較文明論など何を今さらと感じ入る。
荷風といへば、と昨日の話の続きで築地のH君が永島慎二の漫画「若者たち」を読むと主人公の漫画家・村岡栄のアパートに下宿する自称現代詩人の名前が「井上アー」。これはやはり荷風先生の友・井上唖々に由来か、と。なるほどねぇ、さすがH君。ところで荷風サイトでは随一の余丁町散人氏のサイト(こちら)見てみれば七月四日の項に日経に川本三郎氏の書いた文章引用あり晩年の荷風先生の面倒を見る小林修といふ青年についての記載あり。生家は押上の理髪店、美男でダンディー、同姓の小林庄一という男性と暮らし日本舞踊西川流の名取りで生涯独身通し昭和59年に六十余歳で逝去とあり。荷風の周辺にはこの小林青年と昭和の初め荷風を怪しげな性風俗に案内するW生といふ青年あり。私娼渡辺某の夫なるW生とは銀座だの芝口でばったりと出遇うこと屡々だがどう考えても落ち合っての何処かへの遊興としか思えず。流石の荷風散人も椿事ありしことのみ朧げにしか綴らず。
横綱朝青龍の四連覇。関脇に二連敗で挽回この蒙古横綱の天性の強さか、それにしても気になるは朝青龍より寧ろ高砂親方朝潮)で「昔ほどギラギラしたものを感じない。朝青龍らしさをもっと出してほしい」とアンタは解説者である以前に師匠だろうが。某芸能プロダクションの社長が「あの子はもっと可愛らしかったのに」と言うのと同じ。思っても口に出していけない筈が解説者慣れしすぎた親方のコメントなり。

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