富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月朔日(火)快晴。炎暑猛々。気温至摂氏三十二度。新嘉坡にて李光耀の息子が首相就任と新聞に記事あり。世襲に非ず能力ある者が指導者に就くといふ原則に理があろうことは英国の剣橋大学の数学かだか成績優秀で栄誉学士号だか授り卒業しこれまでの経験、殊に新嘉坡銀行の総裁だの財務大臣としての仕事ぶりからも賢明な人選なのかも知れぬ。だが一国の首相なのだからせめて国会で首班指名するとか。いくら一党独裁のアジアでは北朝鮮につぐ専政国家とはいへ人民行動党の党内で首相指名がされるといふのは下手したら北朝鮮以上に法治よりの逸脱ではなかろうか。……自民党の総裁指名=首相の日本と変りないか。それでも国民が経済的に裕福で福利をば授けられれば文句言うに値せず、とそれが全てとは。スーパーマーケット国家。スーパーの商品と同じくそれ以上の価値はそこから生れず。逸脱して生れた、例えば先日の映画『18』など制作者も出演の少年たちもそのスーパーの食材棚から腐って床におちた果実の如し。それにしても新嘉坡、首相は世襲でその二代目の奥さんが政府系投資会社の代表で弟が新嘉坡テレコムの行政総裁って北朝鮮以上の専政。早晩にジム。いつも空いたお師匠さんの稽古に今日は満員御礼で何がおきたのかそれでなくとも指導下手なお師匠さん興奮していつも以上に拙き指導ぶり。帰宅して白菜と豚バラ肉の水煮、葱玉焼など食す。NHKの報道番組見れば佐世保にて小学生の女の子同級生に刺され被害者の父親が偶然にも新聞社支局長という職業ゆへか娘を亡くした父でありながらも「娘と同じ年の子供の気持ちは大人とも違う」だの加害者の少女に対して「おちついたらきちんと話してもらいたい」と職業柄とはいへ取乱さぬこの物言いとても印象に残る。これに続きダスキンの経営するミスタードーナッツで販売する粥に蛾の幼虫がしており……というニュース。途中飛ばして清潔業者のダスキンが蛾の幼虫というと「近い」気がするのだが。なぜダスキンミスタードーナッツを経営するのか、なぜドーナツ屋が粥を売るのか、なぜその粥が粥でありながら「涼風」なのか、なぜ粥にいれる菠薐草が越南から輸入されるのか、蛾の幼虫がたとえ実際には健康に害を与えるものではないと判断されたにしても「健康に害を与えるものではないと判断」とミスタードーナツ社は言切ってしまえるのか、その大胆不敵さは「改善が確認できるまで販売を中止」つまり「また売る」と強気。実際には清潔に詳しいダスキンだから蛾は嫌われてはいるが例えば病原菌を撒散らすような害虫ではない、とわかっているのか。全てよくわからないがやはり一番の謎はなぜダスキンがドーナツ屋をするのか、だろうか。ニュースのあとはいつも慌ててチャンネル変える原因となる「歌謡ショウ」で岩手県水沢市からみちのく歌謡ナントカで当然登場は千昌夫が「北国の春」歌うのだがこの曲聴くと八二年だったか初めて中国訪れし折に北京より長春に向う夜行列車の硬座車にて鉄道案内だの公共衛生だの政府のプロパガンダ流すだけのはずの車内放送でこの曲がかかり当時大流行の上に乗客には日本人=我ありといふことで大合唱となり当時まだ人民服に人民帽多き乗客が人民公社での夜の集いの如く晴やかにこの曲歌われ「歌え、歌え、中村歌江は歌右衛門の後見」とさんざん囃し立てられた記憶ありそれ以来この曲聴くとトラウマの如く中国の夜行列車硬座車髣髴。ところでZ嬢と雑談の折にふと気になったのは青島幸男。あれだけ民意を汲んで政治家になって期待外れの御仁も珍しく、あれと石原慎太郎とどっちのほうがマシなのか、といふ話となり、ふと気づくは民意の怖さで東京都民のうち前回は青島に投票し次は石原といふ、本来の政治的にはリベラルと極右といふ全く極端な投票パターンをした都民が、おそらく百万人くらいいるのではないか。東京都民の十人に一人くらい。で次回参議院選挙で青島にまた投票する石原支持者も実は30万人くらいいたるする。非常に不可解そうで実は社会民主主義的な独逸がナチスになった歴史もあり。だが国政選挙となると前回、二院クラブに投票した有権者が次回自民党に投票する確率は低いはずで、それがなぜ起きるかといふと立候補者がタレントであり、しかも青島……に限らず例えば大橋巨泉もあれだけの支持率ですぐ辞任してみせる無責任の大御所、石原君はその無責任のアンチテーゼとして責任=男の如きホモフォビア宣伝しての存在といふ意味では同質。永六輔先生などあの世代で良識的ではあるが一切の<装置>から逸脱乖離しているところが(もともと実家がお寺さん)或面では無責任の一人。『バカの壁』読んで「バカがどうしてバカなのかを理解したつもりでいるバカ」くらいにこの感覚理解できず……って書いて「この感覚」の「この」の指したのが(1)青島に続いて石原に投票した都民、(2)青島や巨泉、石原に棲まふ無責任、(3)養老先生、の何れなのか実は余もはっきりとせず。荷風先生日剰昭和十五年秋を読む。
▼本港政界の青蛙李鵬飛君恐喝したとされる姓「陳」なる中央政府に近き人物が港澳弁公室副主任の成凱三なる人物と昨日マスコミに情報ながれた途端に本人香港電台の番組の電話取材に応じ夕方には政府御用の全国記者協会の段取りでマスコミ取材に応じる手際の良さ。本人は旧交の李君に電話しただけで威圧など意図もなしと否定。これと一昨日の愛国民主大遊行の記事日刊ベリタに送稿。
▼余のサイトの熱心な観者の一人蛙鳴女史よりメールで指摘いただき先日の「忽然一周」にまつわる記述で余がカリーナ・ラウ(劉嘉玲)を「趁嘉玲」と「趁」の字をば手書き入力までして打ったことの間違い指摘受け、これは確かに「趁」はこの場合「〜の機に乗じて」の意。女史の指摘通り「カリーナのお色直しの隙にトニー梁朝偉がマギー張曼玉に会いに行った」ということ。そして劉嘉玲と梁朝偉は内縁の関係で実際に夫妻ではない、というのはわかっていて「まぁいいか」とした余のいい加減さ。ところで蛙鳴女史よりの指摘で「はぁ確かに」と膝を打つほどに合点したのは、「忽然一周」での鞏俐と章子怡の客室探訪の荒れた室内の写真より女史が思い出したは「覇王別姫」の映画。鞏俐扮する妓女・菊仙が芝居小屋の最前席で瓜子皮を床に散らかすのを舞台の上から横目で見て冷笑する女形・程蝶衣(レスリー・チャン)というシーン……確かに。カンヌのホテルの散乱った女優の部屋の絨毯に散乱った瓜子皮の殻からこの映画のこのシーン、しかも鞏俐でそれ髣髴されるとは蛙鳴女史に敬服。

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