富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

二月十一日(火)曇。建国記念日。その式典にて首相小泉三世「悲観論から新しい挑戦は生まれない」と 宣ひたり。空虚な曖昧模糊とした改革だの唱えることが挑戦であるなら悲観論で現実を重視して、意味のない挑戦など口にせぬほうがマシと思わぬか。広州など 広東省各地で謎の肺炎流行り死亡者少なからず。広州の病院では職員ら全員マスクして、香港も余波にてこの肺炎には白酢採ることが予防と酢の売上げ倍増。某 国の在香港総領事館からはこの肺炎の流行に対して「広州にお出かけの際はご注意ください」という案内が出たとか……。いったいどうやって病原さへ不明の肺 炎を予防するのか。末世的。ルービンシュタインの弾くショパン即興曲聴く。精神安定のためすごく酒が飲みたい。手の届くところにマッカラン12年、バラ ンタイン21年、ニッカの鶴などなどのボトルが並ぶ。だけど一番飲みたいのは冷凍庫に眠っているスミノフ。でもここまで断酒しているのだから16日の香港 マラソンまでは続けようと思う。ショパン即興曲4番幻想、なぜこれ聴くと中村紘子が頭を過る、中村紘子といふと旦那の庄司薫が過る……庄司薫なんて気を つけて、断酒の禁断症状か、困ったものだ。朝日の広告で『文藝春秋』三月号は五段抜き二頁見開きで「これでもか」といふ威勢、かつてはその文春と片頁ずつ 対峙していた『中央公論』は別頁に半幅にてひっそりと生息してはいるものの読売資本となった『中央公論』はもはや「民族主義反日論は有害無益だ」なる対 中批判だの佐伯啓思靖国に代替するものはあるのか」だと曾ての「文藝春秋より多少リベラル」の装いも何処へ葬り去られたのか『諸君』かと見間違えるほど の論調、『中央公論』もはや存在するにも値せず、南無阿弥。小熊『民主と愛国』まだ読み終わらず江藤淳の章読む。愛妻を亡くし「心身の不自由が進み、病苦 が堪え難し。去る六月十日、脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は、形骸に過ぎず、自ら処決して形骸を断ずる所以なり。乞う、諸君よ、これを諒とせられよ」 と遺し平成11年7月21日になくなった江藤淳君はなぜか 余の印象高橋義孝君の世代ほど老成しているのだが享年65歳にて石原だの大江君と同じ世代。保守の思想家として評価されているが実はやはり堀辰雄的な世界 の住人だったことを小熊氏指摘。
▼米国によるイラン攻撃に人々が戦々恐々とする戯れの最中、数日前にはイスラム尖沙咀にて何者かが雑居ビ ル屋上よりビンラディン師の肖像に「新しいテロの時代」と書かれたビラを撒く。誰か知らぬがその行為よりもビルよりたった一枚降ってくるビラをテレビカメ ラが的確に捉えていることこそ奇っ怪と思えぬか。香港政府は米国のイラク攻撃や香港内でのそういった出来事をとりあげ香港のテロ遭遇のリスクも低い段階か ら高まりつつあり市民に警戒を呼びかける。茶番。明らかに反テロが利用されている。日本政府の海外渡航安全情報とてタリバーンによる声明なるものをBBC 電として伝 えているが、もはや共同幻想だ、これぢゃ。「本情報が発出されていないからといって安全が保証されるというものではありません」とあるが、事実は 寧ろ「本情報が発出されているからといって安全が保証されないというものではありません」だろう。ところでこの海外渡航安全情報ののURL、pubanzenって安全情報をpublishしていること の略だろうがどう見ても「パブ安全」って酔っぱらって理性なき酒場か……早大歌右衛門の桜でutazakuraに近いフザけたURL名。すべてがオチャ ラケ。
北朝鮮に拉致された人々の「救う会」、拉致されたと思われる人々の名前追加公開などますます積極的な活 動。家族を拉致された者が積極的にそれを救う気持ち高まるは当然だろう。本来、政府がするべきといふ気もするが政府は寧ろ救う会の支援団体の如し。ふと思 いだすは、こういった被害者の家族による運動は中国残留孤児があり。実際、1983年に独り中国訪れたおり黒竜江省の山奥の村にて残留孤児の一人と知りあ い、この方が半年ほどして来日、永住は叶わなかったが千葉の親戚を訪れ、そこで余も再会し残留孤児の殊に日本側の家族の様々な現実の問題垣間見て考えさせ られもする。が、明らかに当時の中国残留孤児のことに比べ今回の北朝鮮拉致は違う。中国残留孤児の場合、入植者家族の離散は元を辿れば日本の大陸侵略とい ふ背景あり。被害者であるが加害者といふこと。負い目。それに対して今回は被害者以外の何者もでなし。まさか拉致者の問題を金日成体制、南北朝鮮分断、米 ソ対立……とまで辿りあげはしまい。そこで負い目のないこの問題、「誰も反対しない、できない」運動を積極的に利用する「巣くう会」の如き輩が徘徊する要 素がそこになかろうか。昔からこうした出来事が政治的に利用されることは珍しくなし。皇太子ご成婚もオリムピックフォークランド紛争も。ただし少なくと も天皇制反対であるとかミュンヘンオリンピック占拠とか反サッチャー主義とかアンチを唱える余地あり。それが9-11からテロといふ全人類にとっての敵が 生まれ、最近までこれにアンチ唱える者はすべてテロリストであり敵であるかのように。そういった意味で北朝鮮「拉致」はその究極。