富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

どこの国でも其国のたましいが国の臭気也(秋成)

fookpaktsuen2016-12-23

農暦十一月廿五日。天皇誕生日。香港は一つも寒くならないが札幌では半世紀ぶりの大雪ださうで1m近くつもり空路鉄路とも運休。本日札幌から香港に還るはずのI氏より空港で足止めと連絡あり。食前酒にウヰスキー、食事で焼酎でいつもなら睡魔に襲はれるところ目が冴えて読みかけの本や雑誌に目を通し深夜に至る。仲良くさせていたゞいてゐる放送作家・村上卓史氏の『感動競馬場』イーストプレス刊読了。新潮社『考える人』2016年春号を今更。特集に「漱石を読もう」とあり改めて朝日新聞で連載中の『猫』を読むがやはりダメ。池澤夏樹氏の連載「科学する心」で原子力について専門家のやうな内容に驚いたが、この稀有の作家が埼玉大で理工学部物理学科(中退)だつたとは今日まで知らず。青土社現代思想』2015年4月号「教育クライシス」も今更。教育改革、それは自民党でまさに晋三的な「あるべき姿」への改革だが「なぜこれに自民党が熱心なのか」について藤田英典先生の分析が興味深い。一つの理由は小選挙区制にあるといふ。政治家が「次の選挙で当選するため」実績づくりに熱心になり(本来は当然のことなのだが)政策や改革に力点をおく。あくまで当選のためで、その改革の責任を取るものではない。そこで教育政策が手っ取り早い。それが福利厚生や農業政策だと具体的に何がどう変はるか、誰が利益を受けるか、が明らかになり合理性、適切性や有効性が問はれるが教育政策は影響や結果が短期的には表面化せず悪い影響や結果が出ても何が原因かの特定は難しく誰が具体的に責任を取るものではない。そこで政治家の言ひたい放題、しかも戦後教育が左傾と非難される。そこで素人集団が諮問機関などで自分たちの偏見や思ひこみで改革の大枠や基本方針を決め首相直属の諮問機関が具体的な改革案を答申にして実施に。最悪。新自由主義グローバリズムについても考へさせられること多し。もう一冊は水原紫苑『桜は本当に美しいのか』平凡社新書。近代の天皇制と戦争に至る桜についての原武史のやうな考察か、と一瞬思つたが副題が「欲望が生んだ文化装置」で作者は春日井健の弟子の詩人だから、もっと詩歌にそつた桜の話と察したが読んでみると古代の桜は自然で近代が天皇の鉄道による行幸に合はせ全国にソメイヨシノが植樹されてゆく、さういふ構図と思つてゐたアタシだつたが古今集から新古今の時代にも「国家による桜文化の創造から変容の流れ」があつたといふ。紫苑さん曰く「桜が、いかなる幻想からも解き放たれて原始の不逞な花を咲かせてくれることを望む」。この家人が桜について書こうと思ひ年月ばかり過ぎてゐたが一冊にまとめる決心をさせたのが藤圭子の死だつたといふ(あとがきより)。現代の桜をテーマにした歌についての中で最後に宇多田ヒカルの『桜流し』が取り上げられてゐる。桜を読んだ歌といふと晋三の御代になつてからのチャラい国家主義が謳はれるなか宣長
しき嶋のやまとこころを人とはは朝日ににほふ山さくら花
がすぐ浮かぶ。これについて上田秋成が大の宣長嫌ひといふこともあるが歌の下手さに苦言した上で「どこの国でも其国のたましいが国の臭気也」と宣つたといふ。晋三に聞かせてやりたい一言。新潟の糸魚川で大火。
▼聖上が誕生日に先立つ記者会見で8月の退位所望の発表について触れ「多くの人々が耳を傾け、各々の立場で親身に考えてくれていることに深く感謝しています」と述べる。あの内容は「天皇としての自らの歩みを振り返り、この先の在り方、務めについてここ数年考えてきたこと」と説明。「この先の在り方」は短絡的には(政府与党的には)天皇自らの今後のことのやうに聞こえるが聖上の意図するところは皇太子以下将来の「象徴天皇としての在り方」でせう。そして何より「山椒は小粒で」なコメントは8月のお気持ちの内容は「内閣とも相談しながら表明しました」といふ一言。さすが。

感動競馬場 本当にあった馬いい話

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現代思想 2015年4月号 特集=教育クライシス -教育改革からブラックバイトまで

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