富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月十一日(火)早晩外国人記者倶楽部。晩の音楽会まで時間あり白葡萄酒飲し寛ぐこと暫し。ラウンジよりの硝子窓越しに四半世紀前仙台に住まひし頃知遇得、今は華南にて手広く商ひされるU氏と邂逅。U氏とご一緒のS氏(某経済紙の著名なる編集委員)紹介されご挨拶。熟読要す新聞の切り抜き多数読み日記帳(スクラップブック)に忘備録的に様々書き込む。白葡萄酒三杯飲みカエザルサラダ(茹で鶏胸肉盛り)食す。白葡萄酒は順に豪州はYellow TailのPinot Grigio 06年。仏蘭西はMichel LynchのGraves Reserve 04年とDomaine Michel JuillotのMercurey Blanc 03年。サラダはポーションも大きいが三分の一で腹一杯、残りはお持ち帰り。明日の昼にパンにでも挟んで食さうか、と。市大会堂。今晩はチケット持参のZ嬢と香港ショパン協会主催の音楽会。今晩はギターのAlvaro Pierriさんが看板で前半はPascal Rogeさんのピアノとの二重奏、そしてLCOの楽団員によるカルテットとの共演。ロジェさんのピアノと合はせたはバッハのトリオソナタ5番(BMW529はアトで調べれば原曲はオルガン曲)とGuido Santorsola(1904-1994)のギターとピアノのためのソナタ3番、そしてカルテットが加はり、これが素晴らしい曲だつたが今晩急遽曲目変更あり曲名聞き取れず。で中入後はロジェさん退きギターとCharles Sewart氏のバイオリンでAstor Piazzolla(1921-1992)のHistoire du Tango「タンゴの歴史」で最後はMauro Giulianiの弦楽五重奏曲30番。アタシもそれなりに音楽聞いてきたが今晩の演目、バッハとジュリアーニは作曲家として知つてはゐるが全ての曲が初めて聴くもの。それにしても悔やまれるは中入り前の曲名知らず。主催者のAndrew Frerisさんがいつもの開演前の「演説」で曲目変更説明してゐたのだが早口な上に饒舌で聞き取れず。ところでなぜ香港でこの銀行家夫妻がショパン協会か、と言へば、当然、音楽こよなく愛好する夫妻だが、この夫妻とショパン、或いは香港とショパンにどういふ謂れありや。で十日ほど前の信報の記事から引用すれば斯の如し。1848年音楽家ショパンは病弱で巴里にて貴族の子弟など相手にピアノ教授で糊口を凌ぐ日々も時は仏蘭西革命の最中、優雅にピアノ習ふ子弟も減り肺病病んだショパン、Jane Stirling君なる学生から故郷英国倫敦への渡航ショパンに勧めらるる。倫敦での日々ショパンは体力も衰弱せばオーケストラとの合奏も能はず不憫に思ひしHenry Broadwood氏がピアノと室内楽のアンサンブル企す。その場所が倫敦のEaton Placeなり。時は20世紀、奇しくもその百年前にショパンのアンサンブル開かれし屋敷に住んだのがAndrew Freris氏夫妻。偶然のショパンとの縁に、香港に移り住みたる夫妻は香港での音楽活動始めるにあたり香港ショパン協会設立の由。帰宅して白州正子『両性具有の美』読了。いやはや、あたしのやうな古典知らず、でも読んでゐてこちらが恥づかしくなるほどの筆致といふか、向かう見ずな筆の具合にただただ茫然。また別の機会に少し述べたいが。
▼敬語の誤用ばかりか乱用も気になるところ。例へば「痛み入る」。あなたからの私信を読みました、と伝へると、そのお礼に「痛み入ります」は、ねぇ。だつて読んでもらふこと前提に送つてゐるんでせう、と。「痛み入る」は「あなたのご厚意の過分なことに恐れ入る」のはず。例へば「私の就職に関して先方にお言葉添へをいただいたと知りました。そのご厚情に痛み入ります」とか。知人の某さんのアドレス忘れてしまつたので教へてください、に教へてあげたら「ご厚情に痛み入ります」と言はれてもねぇ。
鳥インフルエンザがヒト&ヒトで感染か?(中国江蘇省)のニュースについて。江蘇省で24歳の男性が11月24日に発症、今月2日に司法したが、その父親(52)も感染した由。今朝のNHKで流れたさうで、日本の新聞は朝刊紙面には見当たらぬがネット版では昨晩遅くから、の報道あり(朝日の昨晩22:15の記事)。怖い話だが、香港では先週末に報道済み、で経過報道は今のところ、なし。ヒト&ヒトの鳥因(鳥インフルエンザ、の略で「鳥因」はどうかしら?)への警戒は必要だが、SARSの時と同じで実際の感染などから一定の時間を経てしまつてからの後追ひ報道は実際に感染防止の効果もなく恐怖心煽るだけ。今回のこの報道も時系列で見てみると、中国政府衛生部からの通達で香港政府衛生署の発表(7日21:01)、翌8日(土)の香港での報道、週明け9日(月)にWHOが発表したのを受け、日本政府は厚生労働省が10日に発表で……と今日になつてマスコミが報道したら香港での発表から5日目。感染で拡散してゐたら、もう完全にアウト、の5日目。お役所情報受けて報道するのは(記者クラブ的に)勝手だが、少なくとも「中国政府衛生部の発表が7日には出てゐたこと」と、その後、情報が出てゐない、或いは、拡散の「報告」はない、ことは明確にすべき。日本のマスコミのおざなりな「報道さへしておけば」の姿勢が緩すぎ。
▼信報で練乙錚主筆の連載論評、意識してぢつくりと読む。が、ここ数日の感想は「メリハリも華もない」。林行止氏と比べはせぬが「証券会社による企業の格付け」とか綿密に分析しても「それぢや、どうなのよ?」といふ話の極みに欠けるのが残念。林行止がウンコの話も経済学で面白可笑しく書くのだから後を襲ふは難しいところか。ちなみに本日の信報林行止専欄はハーヴァード大学法学院のMark Ramseyer先生の“Talent and Expertise under Universal Health Insurance: The Case of Cosmetic Surgery in Japan”を引き、日本の医療制度での医療費の問題、医師の収入、とくに美容整形医の高収入などの話を紹介。林氏はMark Ramseyerの論文要旨を訳しただけなのだが面白ければそれで良い、といふもの。

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