甲辰年八月廿一日。気温摂氏18.6/25.1度。晴。水戸駅に朝から「首にタオルを巻いた人たち」が多く「次の常磐線下り列車は」と再三のアナウンス。何かと思へばひたちなかでのロックフェスの再開。
東京駅で少し時間があつたのでステーションギャラリーで。本日が最終日。
朝十時開館の直後の混雑。展示の最初の部分を端折って途中から。で最期に最初に戻る。フォロンのイメージは淡い、曖昧なものだつたのだけれど実は政治的、メッセージ的でもあり、それが戦後欧州の良質のセンスの良いリベラリズムにもとづくものなのだつた。
30年ぶりなのださう日本でのフォロン展。その展示の中で思はずしばらく足が止まつてしまつたのがフォロンが出した絵葉書。切手をメインに据ゑて、そこからの絵が広がつてゆく。日本の高速道路の切手も。
特に秀逸なのが1975年にフォロンが東京からジョルジョ・ソアヴィに送ったもの。ジョルジョ・ソアヴィはイタリアのオフィス機器メーカー、オリベッティのアーティスティック・ディレクターで、1960年代初頭からフォロンの才能を見出し、同社の広告や出版物のデザインをフォロンに依頼した人物です。ここでフォロンは高速道路が描かれた「東名高速道路完成記念1969」の切手を中心に貼り、その周りに風景と道路を継ぎ足しています。そして様々な車のイラストが描かれた印刷物を貼りつけ、コラージュ作品を完成させています。フォロンはこうした封筒やポストカードの制作を大切にしており、1975年にはソアヴィ宛ての封筒を集めた本が出版されました。
こんな絵葉書を受け取つたら……これを投函された東京の郵便局の職員の驚きは。できたら下手でも、こんな郵趣をしてみたい。
ブルックスブラザーズ丸の内店で午前11時の開店に合はせ口開けの客でニットのカーディガンのお直し受け取り。日比谷から銀座へ。『銀座百点』の九月号がもうどこにも置いておらず大和屋シャツ店にならあるかしらと寄つたら当月号あつた上に夏のセール中。今日も白色の開襟シャツを着てゐたが開襟シャツとなるとオーダーメイドで誂へるほどでもなく既成であるのかしら?と尋ねたらリンネルのステキな開襟シャツがMとLと一枚ずつ残つてゐてMを購入。Rolexの腕時計の修理仕上がつてゐてRolexブティックでそれも受領。トラベルケースなるものを貰ふ(メルカリでも出品少なからず人気アイテムの由)。
銀座線で渋谷へ。銀座線の電車の中で座席で膝の上でミントケースにMINTIAを並べて入れてゐたら隣席のインバウンドのご婦人に“So beautiful colours' contrast!”と感嘆された。カーディガンと手拭ひ、黄色の眼鏡ケースを置いて、その上で桜材の木製のミントケースにMINTIAを入れてゐたのだが確かに三色がきれいだつた。
銀座線が東横デパートに直接乗り入れるやうに終点で改札からデパートに入ると伊東屋渋谷店があつて東急文化会館が自分の渋谷での基地のやうだつたのがもう遠き記憶の彼方。渋谷駅ではまだ剛建であつた東横デパートの建物解体工事が続いてゐる。
渋谷セルリアンタワー能楽堂で九月の定期能。秋分の日のこの番組は毎回、二部構成で畏友村上湛君の解説がもはや話芸の域で、それを愉しみに。
本日は何といつても第一部で関根祥丸の能〈歌占〉である。歌占は先月、喜多流で塩津哲生師を見たばかりだが(子方は孫の希介君)祥丸さんは齢三十超えたばかりだが、もはや見所からの厳しい眼差しは「若いのにこんなお役を熟すとは」ではなく「きちんと演じるもの」になつてゐるかも。観世会「春の別会」で祥丸さんが〈道成寺〉披かれたのをテケツ手に入らず見逃してゐて祥丸さんシテは実に二年ぶりかしら。関根家の能についてアタシが最初に識つたのは13年前の上海万博のとき。香港で読んだ報道。上海万博の「日本週間」で関根祥六、祥人、祥丸が三代で能〈船弁慶〉を演じたこと。そしてその十日後だつたか祥人氏急逝。村上湛君がそれに追悼した「蘭摧餘薫」を読ませていたゞいた。祥六師も他界され祥丸さんのシテを実際に初めてみたのは二年前の本日のこの能舞台で〈杜若〉であつた。第二部まで1時間余あつて湛君と渋谷の回廊を歩く。東京の最高気温27.7度で薄手のカーディガン着たまゝでも暑くはない。渋谷サクラステージからJR渋谷駅の新南口改札を案内してもらひ渋谷ストリームへ。渋谷スクランブルスクエアは入つたことあつたが、その商業エリア最上階(14階)に鳩居堂がテナントであるのださう。誰がそこまで上るかしら。渋谷ヒカリエに入れば昭和の終はり頃の東急文化会館が懐かしい。湛君とは鳩居堂の奥の立田野で甘味を頬ぼつた。ヒカリエから金王坂に面したTKPガーデンシティ渋谷といふビルを眺め宮益坂の裏通りまで。この渋谷の回廊も湛君にとつては、このあと第二部の能〈葛城〉で葛城神にかゝはる「石橋」のやうに見えてゐたかしら。第二部で関根祥丸君は仕舞で〈融〉を舞ふ。まるで目の前に左大臣が舞つてゐるかのやうな優美さ。第二部まで残つてこんなご馳走があつたとは。品川から常磐線特急で水戸に戻る。水戸駅には良い汗をかいた「首にタオルを巻いた人たち」たち。ひたちなかロックフェスは5日間で20万人動員だとかで本日の大トリがサザンオールスターズである。サザンにとつての夏フェスは今晩が一世一代なのだつたとか。
今日は東京駅ステーションギャラリーのショップでフォロンのピンバッチを購入。かうしたアイテムを買ふことも珍しい。それを伊東屋のフェルト製のドキュメントトート(A4)につけてみた。くる/\回つてしまふので裏は接着剤でピンだけ固定。