富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

国立能楽堂開場40周年記念公演

癸卯年四月十二日。気温摂氏18.3/27.2度。晴。銀座で午前十時に銀座松屋開店で入店。5階の紳士売り場に昇降機で上がるとフロアではアタシが口開けの客で各店子の店員が通路に点々と並び、そのなかを無視もできずあまりぺこぺこ頭下げるのもヘンで笑顔で視線のあつた店員には少し頭を下げながら宮様のやうに進む。先日、とてもよいお色の薄手のカーディガン購めたレセント(LeCENT)でスラックス1本求めやうと思つた次第。ふと気づいたら無印とユニクロのパンツしかクローゼットになかつた現実を少しだけ改めやうと。スラックスはレセント(大阪深江橋の林田商店)ではなくエミネント(日本橋小舟町の越前屋)のもの扱つており尾作隼人(究極の一本を追い求めるパンタロナイオ | STRASBURGO)とのコラボなのださう。グレーの地味な1本に決めて裾上げの寸法を図るところまで済ませて銀座松屋から銀座通りほゞ真向かひのM理髪店で散髪。もう1年近くヘアカットお願ひしてゐるT君は新宿角筈の理髪店数日前までで来月から神田淡路町の理髪店に移り心機一転で再始動。そのT君が昨年まで勤務してゐたのが銀座のM理髪店でトラヤ帽子店のあつたビルの地下なので昔から知つてゐたが一度も散髪してもらつたことがなく、この機会に、と思つた次第。さすが銀座の、といふか東京での有数の理髪店だけのことはある。値段がけして高いわけではない。まことに丁寧な調髪。これまで角筈で散髪を済ませ代々木を抜け共産党本部の角にある吉そばで蕎麦を啜り千駄ヶ谷能楽堂へといふ行動をしてきたわけだが今後、角筈で散髪しないと代々木の吉そばに寄ることもないと思つたが吉そば本店は銀座で松屋通りを入るとすぐ(馬券場向かひ)なのだつた(実はそれを理容師T君に聞いてゐた)。温かいめかぶそば。正午にレセントの店で裾上げしたスラックス受け取り。箸の銀座夏野で『銀座百点』6月号いたゞいて丸ノ内線で四谷経由で千駄ヶ谷

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今年が国立能楽堂開場40周年で9月に40周年記念の番組がいくつか予定されてゐるのだが五月末に本日だけ予告のやうに1本だけ特別企画番組組まれ大槻文蔵先生〈源氏供養〉である。40年前の開場当時からこちらで能を観てきた見巧者の畏友村上湛君も40年前に当時、将来この文蔵師が日本の能を背負つて立つ存在にならうとは観世銕之亟Ⅷ(静夫)、宝生閑、友枝昭世シテ方が存在するなかで誰も想像はできないことだつた、と。御意。それが本日、文蔵先生が国立能楽堂の40周年の幕開けでシテ方を勤められるお見事。本日の〈源氏〉も源氏物語を元に作者・紫式部が源氏供養怠つたがゆゑに成仏できず……と里の女が旅の僧に祈り捧げるやう願ひ、その結果、紫式部の亡霊が現れ実は紫式部こそ石山寺の本尊・如意輪観音の化身で源氏物語は「現世の人々を悟りに導く方便として佛によつて書き記された……といふ何ともあばからべっそんな物語。であるから文蔵先生(シテ)の中ノ舞をきちんと見届けたい、ワキ(福王和幸)の凛々しい佇まひが好きだとか、松田弘之先生の笛が素晴らしすぎるとか、さういふ楽しみが充実してゐるから飽きずに拝見してゐられる世界であつて、これがもしさうした素晴らしさに一つでも欠けるものがあつたら(下手な演じ手であつたら)本当に目を覆ふほど惨憺たることになるでせう。さういふ崇高なるものがあることによつて〈源氏供養〉といふ能が源氏物語から乖離した独立した世界となつてゐる。地謡も地頭(本日は浅井文義師)がどれだけのものであるとか大切な点も少しわかつた気がする。狂言大蔵流で「今が旬!」の山本家で東次郎先生と本当に声がよく通る則秀さんの〈舟船〉。これで「ふねふな」と読む。この狂言だと万作&萬斎では万作先生の崇高なる世界と萬斎さんの演出ではtoo muchなわけで東次郎&則秀でのバランスが良く、この二人の掛け合ひが本当に今が旬と思へた。もう一つの能は〈檀風〉(参考)。なか/\掛かることのないワキ方の活躍する能で下掛宝生流でも直近の〈檀風〉は2015年に第1回の下掛の能の会で森常好さんがワキ方阿闍梨)を演じたもの。本日の阿闍梨の宝生欣哉さんはその時に後見で、ご自身はその2015年から遡る昭和47年に父・宝生閑先生が阿闍梨のときに子方(梅若)を演じたさう。この2回のみ。『太平記』を元にして討幕の罪で佐渡流罪となつた日野資朝北条高時の命で資朝を斬罪に処す佐渡の本間家の三郎、父(資朝)慕ひ佐渡に渡る倅の梅若(子方)、その梅若扶ける阿闍梨(ワキ)、更に最後にやつと現れるシテ(熊野権現)。あまりにドラマチックすぎて、かういふドラマ仕立ても能楽にあるのか、と勉強になりました。湛君のお誘ひでT君と三人で千駄ヶ谷駅前のカフェのテラスで黄昏の一杯。最近、澤瀉屋騒動でテレビで(醜聞ではなく)歌舞伎のあれこれを語る湛君の話芸はテレビよりやはり生はもつと良い。水戸に戻る常磐線は日没と夕焼けが実に見事で筑波山がそれに映えてゐたが石岡を過ぎたあたりから西方の笠間の方に暗雲がかゝり徐々に列車も黒雲のなかを水戸に到着。家人が駅まで傘を持つてきてくれてゐて(ってサザエさんか)驟雨になるなか小食堂(ビストロヴィニヨン)で美味しいものを少しずついろ/\頬張りワインを飲んでゐる間に雨が歇んでくれて帰宅。

 フランシス・フクヤマ(インタビュー)終わらなかった歴史:朝日新聞

冷戦の崩壊で「歴史の終わり」と論じ切り世界をあっと言はせ当時は今でいへば竹中平蔵のやうに胡散臭くも思へたが、その後のポスト冷戦の世界の難局に積極的にリベラルな視線から世界情勢を見続け竹中平蔵と違ひ世界から「立派な学者だ」と見直されたフランシス=フクヤマ先生。この朝日のインタビューをかなり精読してみたが本当に冗談ぢゃないがタイトルの通り「終わらなかった歴史」とは。歴史の終はり……のはずが「実は終はりませんでした、ジャン/\」って漫談ぢゃないんだから、まったく。でも本当に今となつては冷戦がいかに世界的にはバランスの取れた世界だつたか。調和。日本の自民党社会党55年体制の見事。権威主義ポピュリズム。バカほど権威をもつことのできる21世紀とは。どれだけ社会が劣化したか。こんな社会で民主主義が存在できるはずもないか。