富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

国立能楽堂三月定期公演

癸卯年二月十七日。気温摂氏2.7/21.9度。快晴。日較差で20度近ひのは本当に勘弁してほしい。朝は寒さで厚着で昼はシャツ1枚で過ごせて夜は花冷えに体力消耗甚し。新宿は相変はらず睦郎『善の遍歴』の如き世相。


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柏木。常圓寺掃墓。最近いつもこちら柏木の裏通りの花屋は墓前に花でもお弔ひでもなければ春の彼岸など随分と明るく花を盛つてくれてこれはこれで「整ふ」。最近このサウナに入るだけで「整ふ」とかいふ。何が整ふのだか肝心なところは曖昧。五月下旬の陽気なのだとか西新宿を歩くだけで汗だく。それにしても超高層ビル街は殺風景。それでも地下にまだ汚い世界があるから。角筈で散髪。


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代々木に歩き共産党本部前の吉そば。さすがに温かい蕎麦厭ひ冷やで特製吉そば。何のことはない天かすとワカメに半熟卵の蕎麦なのだが美味。国立能楽堂

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狂言(左近三郎)は山本家で則俊さんに代はり則俊と則秀の兄弟はきちんと演じるところ今日は叔父にあたる東次郎さんが御宗家がシテの能〈采女〉でアイである。これは贅沢。采女の小書は美奈保之傳。ワキは森常好さんで道行から着セリフまでが本当に歌ふやうにフレーズが見事。アトで村上湛君より千駄ヶ谷の駅前のカフェで白ワイン飲みながら、この采女の面白さを十分に拝聴の贅澤。太鼓の入らない序之舞でそれだけでも采女の入水が印象的だが笛(杉市和)が余計に抑へた音色で音に采女が溺死しさう。間狂言はなか/\きちんと聞かれないが采女のこの小書き(美奈保)で省かれたところも間狂言がきちんと繕ふわけで東次郎師のそれは本当に聞き入るほど見事。それだけで溝口監督の映画にでもなりさう。今月のプラグラムで今日の公演の解説執筆も湛君。

北朝天皇の権威の実体を支えていた義満。寵愛が失せても怨まず「天地穏やかに国土安穏やに、四海波静かなり」と治世の太平を讃える采女は年たけた世阿弥……実に底深い作意というべきでしょう。(村上湛)

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村上湛君が夜の芭蕾舞公演まで時間があるといふので彼に誘はれ青山の散策。千駄ヶ谷から二期会を経て鳩森八幡神社将棋会館(今日こちらで藤井五冠の名人戦出場決定ださう)から神宮前を経て外苑西通りに出て三十数年ぶりにギャラリーワタリのあたり。


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とんかつのまい泉のところまで入り湛君と別れ国道246まで下り長者丸通りから南青山に入り雲月へ。讃君は令和の日和下駄が書けるのではないかしらと思はされる楽しい散策であつた。

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雲月で数日前に電話しておいた鯖寿司と小松こんぶを購める。わらび餅は店頭で、といはれたが現実には売り切れ。「電話差し上げようかと思ったんですよ」って、それなら電話してくれゝば良いのに言ひ訳は京都の倣ひか。客遇ひ慇懃ではあるが一見の客にはクールなのが何とも。


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早晩に天ぷらの宮かわ。仙台で出会つた頃はまだ高校生であつたギタリストのK君と最後にあつたのはまだ昭和末で三十数年ぶりに再会で旧交温める。彼は美味しいものとお酒が大好きで、それならこちらに連れてきてあげたかつた。表参道を原宿駅まで歩き新宿駅のベルクでビールを一杯だけ飲んで別れる。