富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

桐生に遊ぶ

癸卯年二月初六。気温摂氏1.7/12.9度。晴。かねてから桐生の大川美術館を訪れてみたいと思つてゐた。地元桐生の出身で三井物産経てダイエー中内功社長の直近の部長としてダイエー急成長に貢献した大川栄二(1924〜2008)は美術品の蒐集家でもあつて1988年に郷里にこの美術館開設。なか/\桐生まで足を運ぶなかつたが先日の朝日新聞にこんな記事あり。

大川美術館4年超の松本竣介アトリエ再現展示6月終了:朝日新聞

しかも長期的に取り組んできた松本竣介の企画展で最後の「デッサン50」は3月12日迄。その間だと今日しか来る機会なし。すわ桐生だが乗り鉄のアタシでも水戸から桐生だと水戸線で小山まではまだ良いが小山→桐生の両毛線は本当に面白くない路線。鉄道だと駅to駅で3時半ほどかゝるが自家用車で北関東自動車道だと1時間50分ほどで美術館に着いてしまふ。

桐生市内見下ろす水道山公演の高台の上に佇む美術館は入り口が4階で、そこから崖にはりつくやうに階下に3フロアの展示室がある。

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松本竣介(1912〜1948)は桐生出身ではない。美術館創設の大川氏が個人的に竣介の絵画を愛して蒐集したのがきっかけ。この竣介のアトリエはクラウドファンディングで集めた資金で再現。

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横浜など都市部の工場や住宅地の光景。それを何う切り出すか、そのプロポーションを何うするか、の見事さ。温かみがあるやうで社会主義リアリズム的なディフォルメ。色彩も暖かいのか冷たいのかの微妙。そのやうな苦悩のなかで描かれた作品がデッサンと完成を見た作品と並んでゐるから面白い。この美術館の設計は竣介の息子の松本莞氏で元第一勧銀の桐生支店社員寮だつたさうな建物からの増幅も面白い。地元だつたら天気の良い休みの日にはこちらに来て少し展示を見て図書室かカフェに佇んで好きな本をずつと読んでゐたいところ。

今回は松本竣介作品とそのアトリエ復元を見にいつたわけだが山口晃のこの桐生市街を洛中屏風風に描いたこの作品には暫し目を奪はれた。

桐生ゆかりの人気画家・山口晃さんの大作〈ショッピングモール〉匿名市民が市に寄贈:東京新聞

安野光雅の旅の絵本でも見てゐるやうな飽きのこない世界。

桐生市街に下る。聖地巡礼のやうに訪れたのは上毛電氣鐡道の西桐生驛。終着駅だが30分に1本の前橋行き電車には遭遇できず。駅にスタンプがないのは惜しい。


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桐生新町の「重要伝統的建造物群保存地区」とされる本町通りを歩く。その西端の桐生天満宮に参拝して「参拝者以外駐車ご遠慮下さい」の駐車場に自家用車停めさせていたゞき午後も1時半だつたので昼食混雑もピーク超えたのでは?と思つたが人気店の藤屋は8組待ち。家人とそれぞれいずれかが入店待ちで周囲を歩いてくる。


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桐生名物のひもかわうどんソースかつ丼をいたゞく。それにしても上州の空っ風は本当にすごい。この藤屋の外の待ち客のネームリストは風に煽られ破け、立て看板なども倒れるほど。今日の桐生の最大瞬間風速は14.3mでけして大したことはないのだが歩いてゐて一瞬、前に進めないほどの風が吹いてくる。おかげで空の雲もどこかに吹き飛ばされてしまつて青空。


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建物はかなり保存がされてゐるが銭湯が閉業したり会社の事務所も実は倉庫になつてゐたり伝統的建造物保存も本当に難しいところ。カフェとかにでもできれば良いのだらうが川越くらゐ東京に近くもないので古い街並といふだけではそれを維持できるほどの観光客も来ない。本町通りの三越桐生支店(創業享保7年)まで歩き天満宮まで戻る。水戸に戻り早晩に或る会合あり末席を汚す。少し長引き会合で出されたものをさっと食して南町の酒場で少し飲んで帰宅。今晩は市街にいつもよりか少し多く人が出てゐると思つたら、これ。

夜梅祭 2023 - 水戸観光コンベンション協会

再建された水戸城大手門前で今どきのプロジェクトマッピングだかあつたのでみんなスマホで映像撮つたりしてゐてなか/\近づけなかつたのだとか。夜桜ぢゃないのだから梅なんて夜に照明当てて見るものぢゃないと思ふ。夜の梅は「暗香浮動月黄昏」の昔から見た目ではなく香りをめでるのが「夜の梅」と久ヶ原T君より。

春の夜の闇はあやなし梅の花

色こそ見えね 香やは隠るゝ (古今)

梅の花の色が見えなくなつてしまふが、その素晴らしい香りだけは隠れようもない。とらや代表する羊羹〈夜の梅〉だつて「切り口の小豆を夜の闇に咲く梅に見立てて」ゐる。闇なのだ。夜梅(よばい)は夜梅(やばい)だろ。