富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

ジャクソンひとり

壬寅年十二月晦日除夕。気温摂氏▲1.0/8.5度。快晴。家人と三の丸公園に探梅。公園の梅はまだほんの少しの開花。だが藩校・弘道館の敷地内の白梅紅梅は見事な咲っぷりで「有料だからかよ」で何とも。壁の外から見上げるばかり。


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来月の小旅行にフリー切符の購入と、その切符での新幹線の予約のため水戸駅に寄る。鉄道切符や指定席もアプリや「えきねっと」での購入でみどりの窓口に行くなんてことも今では稀。みどりの窓口が多少混雑は常磐線の上り特急の大幅な遅れゆゑ。大甕〜常陸多賀間の人身事故で常磐線の勝田〜日立間が不通。常磐線の人身事故はもうこれで3日連続。一昨日は朝に牛久駅で昨日は早晩にひたち野うしく駅。これが水曜日のことだつたら朝の上りも帰りの下りもこの不通に遭遇してゐたはず。飛び込み自殺での人命の云々ではなく鉄道の不通に遭ふか遭はないかとしか考へられなくなつてしまふ鉄道での人身事故。常磐線での人身事故はLINEで流れてくるから「またかよ」と思ふのだが2022年のデータを見ると常磐線は15件で13位。1位が30件の宇都宮線で前年比+18のワースト。2位が京王線の27件で、それに中央線(快速)西武池袋線が24件で3位。それに東武伊勢崎線西武新宿線埼京線と続く。閑話休題銀杏坂の古本屋(とらや書店)に寄る。昭和25年の『現代画家番付』入手(220円)。刊行元の谷中清水町にあつた美術倶楽部出版部は美術鑑定家・清水澄の主宰。


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それにしても大観、靫彦、清方が現役といふ近代日本画壇の最盛期。松園先生はこの番付発行の前年に亡くなつてゐるが名前は残つた。前年の文化勲章朝倉文夫、如是閑、松園刀自に靫彦……思わず姿勢を正してしまふほど。

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帰宅して安堂ホセ『ジャクソンひとり』読む。直近の文藝賞河出書房新社)受賞で先日の芥川賞候補作にも残つたもの。先日見たNHKプロフェッショナル 仕事の流儀)で校正者(大西寿人さん)が手を入れた作品の一つで紹介されてゐたのがこれ。「こんな作品もいぢれるのか」とあばらかべっそんなのは安堂ホセのこの作品があまりにも現代の最先端みたいなシーンを扱ふからで還暦の厭世的とすら思へる校正者がよく若者のこれを扱へたもの、と素直に思ふ。かなりこの校正者の筆が入つたさう。アタシも読んでゐても「ロンティー」からわからない。ネット世界のさまざまな作法や流儀も物語そのものも作者は分つて曖昧にしてゐるのか未熟で整理されてゐないのかわからないが校正者はそれを活かしたのだらう。ロイクと邦人のミックスのゲイの若者たち。クラブで遊んでドラッグが近くにあつて、かなりヤヴァいレベルでの性行為。お尻に突っ込むのがスピーカー機能付きの張形で自分や行為相手の声がお尻から振動で伝はる快感、って。丁度今日の朝日新聞にこの小説の書評(金原ひとみ)が出てゐたがこちら)これはあらすじネタバレしすぎ、ほめすぎ。この作品を新刊(河出書房新社)で読まうと思つたら図書館で8人待ち。数か月から半年後になるが文藝賞なのだから『文藝』冬号に掲載ありのはず。こちらの雑誌は今年春が出てゐて冬号貸出し可で、それを借り出して読む。もう本当に誰も文芸誌なんて読んでもゐないし存在すら知らないのかもしれない。文藝賞の審査員評で町田康が受賞作のこの『ジャクソン』について一言も触れてもゐなかつた。さもありなむ。ついでに著者がゲスト出演したといふ今週月曜(16日)のTBSラジオ〈アシタノカレッジ〉も聞き逃し配信で聞く。この作家のかなりのセンスの良さが声とコメントから伝はる。19日が芥川賞発表でこのラジオでは「もう芥川賞とつたら?」みたいなノリであつた。ご本人、河出書房、NHKもTBSもみんなそれをかなり確実視してゐたのだらう。このテの「常軌外れたやうな時代の最先端」みたいなテイストの作品が文学賞を取るのは村上龍限りなく透明に近いブルー』あたりからだつたかしら。

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今日はBS1で相撲中継もなく幕下で琴手計の勝越し如何気になりAmeba TVを見たらタイミング良く丁度、琴手計の一番。快勝。勝越し(次の場所が十両昇進狙ひか)。兄(琴勝峰)は幕内で優勝争ひ。

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午後遅く家人と水戸芸術館へ往く。この展示は29日(火)まで。

中﨑透 フィクショントラベラー|現代美術ギャラリー|水戸芸術館

地元出身のこの作家は高校時代に水戸芸術館の活動に出会ひ美術家を志したさう。武蔵美に進学ののち2007年に水戸に拠点移し美術家としても同館の活動に携はつてゐる。作品のテイストはアタシにはちょっとわからないものだつたが

本展では中﨑の出身地である水戸と中﨑にとって最も身近な美術館である当館をモチーフに当地および当館にまつわる「もうひとつの物語」をインタビューとリサーチを通して独自の視点から浮かび上がらせます。

といふ展示で、その壁にいくつも発表されてゐる地元でのインタビューの内容は面白いものだつた。しかしそれは材料であつて作品ではないのだけど。

展示室C(左)、カレンダー(右)は展示ではなくアタシの陋宅の洗濯場

このギャラリーの中央は高い三角屋根の展示室(レイアウト図のC)。今回はそこに足場が組まれ足場の上に上がれる演出。これはこれで面白い。施設管理でいへば事故を想定すると「一番やりたくない」展示だと思ふのだが、これまでもコロナ禍にあつて悪疫猖獗のさなかの意欲的な次々とイベント実施だとか立派。偏に実質的トップのО副館長の「俺が責任とる」なのでせう。上述の中﨑氏によるインタビューの中にも明らかにО氏のコメントと思はれる芸術館計画決定から着工での内輪話が面白い。当時の佐川一信市長の語るコンセプトの言葉を市役所の役職者らが意味がわからず「若いオマエがもう一度聞いてこい」と遣られたとか、コンペで採用となつた磯崎新先生が設計には1年半かゝる、建設工期が間に合はないから細部設計が間に合はないので「取敢へず工事を始めよう」とか。展示の後半の方で作者が高校時代にこの芸術館でのワークショップをしてゐるなかで311の地震に遭つたときの回想が書かれてゐた。展示室6の大きな窓ガラス(レイアウト図のI)が割れたさう。その窓ガラスは普段だと展示期間中は外光を遮るのにシャッターが下ろされてゐてシャッターが開いてゐるのを見たのはアタシはこれが初めて。水戸芸術館の丁度そこが中心線。向かひの敷地に新市民会館(伊東豊雄)ができたことで(以前は水戸京成百貨店の裏側)かなり見応へのある光景に。

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