富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

大槻文蔵師〈三輪〉名演

壬寅年十一月晦日冬至。気温(水戸)摂氏3.3度。雨(23.5mm)東京は昼に雨上がり10.7度。家人と新宿まで一緒に来てオリンパスのギャラリーで善本喜一郎(公式サイト)さんの写真展を見る。

善本喜一郎(写真展)東京タイムスリップ 1984 ⇔ 2022:OM SYSTEM GALLERY

1984年がとても昔に映り1984年がもう38年前といふのが信じられず。新宿でも甲州街道の陸橋で御大典記念碑がまだあつた当時。その広場から御苑側に階段を下ると臭く汚らしい公衆便所があつて。その界隈の写真が多い。家人とは新宿だと待ち合せはシラフだと但馬屋珈琲だつたが飲むときは〈日本晴〉で、このポスターの写真の右の隅に日本晴が写つてゐる。

台北飯店。麦とろ。五十鈴。今も残つてゐるのは食堂の長野屋くらゐ。長野屋は女将さんが晋三国葬で国費の浪費は冗談じゃないと威勢よかつた。家人と別れ角筈1で散髪。西口で時間潰して原宿経由で表参道。家人と待ち合せ銕仙会(能楽研修所)。昨年に引き続き村上湛君にお誘ひいたゞき明星大学(日本文化学科)の学生を対象にした能楽鑑賞会で末席を汚す。f:id:fookpaktsuen:20221223125913j:image

昨年は〈葛城〉で今年は〈三輪〉。シテ方が大槻文蔵、大鼓は亀井忠雄(いずれも所謂「人間国宝」)笛は松田弘之師でワキに福王和幸、小鼓が飯田清一、太鼓が林雄一郎と手堅い中堅。湛先生の前解説も相変わらず見事。この季節、聖誕祭を前に明治神宮の表参道でといふ話から日本人の宗教観、神の話と(学生をいぢりつゝ)歯切れよく展開してさらりと今日の演目(三輪)の話に入り謡の要所/\を学生と朗読しきっかり55分。お見事。

今日のこの文蔵師の〈三輪〉がどれほどの名演であつたか。本当に拝みたくなるほど崇高なもの。銕仙会の客席は板間に座布団で段になつてゐて足を前に出せもするが正座して見始めたらさすがにアタシでも集中して拝見し続けた(正座してゐたのは湛先生とアタシくらゐかしら)。神楽のところでの松田師のジャズの即興のやうなフレーズの見事、そこに的確なリズムでの亀井先生の鼓。そこで文蔵師が舞ふのである。思ひ出すだけでもぞく/\して鳥肌がたつほど。こんなパフォーマンスをご覧になれる学生は本当に幸せもの。学生には筋書きが配られてゐたが最初は謡曲の活字に目を落としてゐたのに途中から何人もの学生が舞台に見惚れダンスとか好きなのだらうがから本当に目を輝かせてゐて。一般公開ではない舞台で今年の年末にこれを拝見させていたゞけたことは湛先生に本当に感謝。能楽堂を出て家人と日暮れ間際の青山南町を漫歩。外苑西通りの方まで裏道を歩き長者丸横丁から谷町を横目に表参道の通りに戻る。京の塩こんぶ〈雲月〉の出店あり。乃木坂から青山墓地横断して根津美術館に延びる道路は昔の地図を見たらやはりなかつた。関西天ぷらの〈みや川〉へ。


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今年は三度こちらで天ぷらをいたゞけた。ご亭主も高齢だが来年もまたどうぞ宜しくと年暮のご挨拶。銕仙会の建物は外から見たら能楽堂とは思へない現代建築だが能舞台は昔からのものを仕組んでゐる。


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表参道は明治神宮の参道なのにクリスマスに合はせイルミネーションの電飾がにぎやか。平日の夜だがクリスマス前でこれを楽しむ若者がたくさん出てゐる。原宿まで歩く。昔は表参道がこんな坂道だと意識もしなかつたが年をとり原宿の駅までずいぶんと足に疲労感。品川から特急で水府に戻る。まだ小雨模様。水戸の大通りもイルミネーションだがこちらは歩く人も数へるほどで地元キャラ「みとちゃん」の電飾も寂しげで寒さが堪える。