富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

さうだ京都へ行かう①

陰暦八月十六日。気温摂氏23.6/34.7度。雲一つなき快晴。茹だるやうな猛暑。今回の京都はとくに何か予定があるでもない。素泊まりのホテルからイノダコーヒー本店が近いので「京都へ来たのだから」で朝食に出かける。サンドイッチを二人でシェア。珈琲は以前ほど濃厚ではない?これで丁度良いけれど。日曜朝で客席もソーシャルディスタンスなのでアタシのあと8時半くらゐからは行列になつてゐたが昔からの常連客は行列を他所目に「おはよう」と入つてゐつて常連席へ。家人が五条坂にある河井寛次郎の旧邸(鐘渓窯)が記念館として公開されてゐて、それを見たいといふ。灼けるやうな日ざしのなか日陰を這ふやうに錦市場から祇園に渡り建仁寺六波羅蜜寺を拝して清水坂下のおそろしい人混みを眺め寛次郎記念館へ。

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狭い敷地に見事な設計の自宅兼仕事場。これは旧の家屋が昭和9年に寛次郎43歳のとき室戸台風で損壊し故郷(島根安来)の民家の形をもとに登り窯の形に対応するかのような構造の建物を自ら設計し木材の技巧の見事さは実家の大工の協力なのださう。戦後、寛次郎は陶芸から木彫に創作の域を広げ室内は椅子や机、飾り物まで見事な木工の作品が生活用途に用ゐられてゐるのは民藝運動の流れ。文化勲章を辞退する。人間国宝芸術院会員などへの推挙もあったが全て辞退されたさう。この記念館の猫(えきちゃん)がちゃんと出迎へてくれ本当に人懐こい。入場料は900円だが年間パス(3,000円)でいつでも出かけて館内で寛次郎が製作した椅子に座り本を読んだり、ぼんやりは快適だせう。京都の洗練された町家の居住空間づくりに対して木材の「これでもか」の主張は縄文的なイメージで寛次郎の設計を郷里から来た兄を棟梁とする島根大工の集団が建造したのださう。

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暑いのだけれど歩くしかない。清水寺は何うやら一日観光で起点らしく寛次郎記念館から出てきたら、それほどの人ではない。茶碗坂を上がり〈東哉〉に行つてみる。日曜も店舗を開けてゐるとあつたが「御用の方は工房の方へ」と張り紙あり。工房の方もどなたかゐる様子だがわざ/\開けてもらつても今日は何か欲しいといふわけではないので失礼はご遠慮。五条坂を下り真田紐〈江南〉。こちらはストラップなどいくつかほしいものあり。木屋町通りを上り〈ほぼ日〉のTOBICHI京都のある寿ビルデイング。祇園に渡り〈権兵衛〉でお昼。卓袱のうどん。鍵膳良房で葛きり。あまり冷たい葛きりは苦手で氷を取り出したら、まぁさすがに氷まで見事な美しさ。溶かしてしまふのが勿体ないので持参の琺瑯水筒に氷をゐれたら、さらに美しい。亀屋清永まで歩いて「お団」を購める。八坂階段下でいづ重に寄るつもりが通り過ぎてしまひ戻つて見ると店舗のあつたところが更地。老朽の店舗改築で路地裏で営業中。こちらはこちらで店構へになか/\味はひあり。お夜食用に鯖寿司を購める。

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京都に来ても本当に同じところを定点観測のやうに歩くばかり。祇園から北に三条まで上り鬼かまぼこのキク嘉。持ち歩けないがやはり食べたいから(チルドゆうパックで自宅に送る)。ほんま暑いなぁ、と西日のさす店内でご亭主。鳩居堂、宮脇賣扇庵とクールダウンしながら宿に戻る。午後3時に浴場が開くので一ッ風呂浴びる。夕方やつと外で熱中症にならないやう。風はあるのだが暑い。珍しくあまり訪れない四条烏丸まで下る。COCON KARASUMAといふ商業施設の入つたオフィスビルの空間はセンスがよくて誰かと思へば隈研吾。夕食を何うしませう?と結局ホテルの方に戻り往路で立ち飲みスペースから覗いたらドテ煮が美味しさうだつた(三条室町通下ル)エムイソスタンドへ。さつきは夕方の営業で店を開けたところで客をらず。それがかなりの賑はひで予約がなければ1時間だつたら、とカウンターに通される。「京都の自転車はなんであんなに飛ばすのだらう、路地の角から減速せず現れるし歩行者スレスレを暴走してゆくし、本当に危ない」と家人と話してゐたら店の前でマヂに自転車どうしがぶつかつて一人は道路に買い物の荷物散乱させて横転。くわばら/\。京都の自転車に轢かれたくはない。ドテ煮を頼んだら隣席のお客が「ドテ煮を注文するんだつたらドテかつの串も一緒にイケますよ」と教へてくれた。とても良い感じの食肆なのだがビールがアサヒなのだ。京都は河原町スーパードライ京都なんてのがあるがアサヒビールが人気。家人がアサヒなら……とスタウトを選んだ。さすが了見といふもの。スタウトを飲みながら周囲を見ると店の入り口の立ち飲みでも3人で香檳を飲んでゐるしドテかつを教へてくれた隣席の御仁も香檳をボトルで(グラス売りはない)独酌。家人にふと「さういへば久ヶ原T君はエリザベス女王亡くなつた晩に献杯で女王陛下のお好きだつた香檳とスタウトのミックスをお飲みになつたんださう」と話してゐたらドテかつさんが「さうなんですか」とその話に入つて来られてロンドンには仕事で何度も出向いてゐて女王さまがジャガーを自ら運転してスーパーマーケットに買ひ物に来られたのに遭遇しただとか話をされてゐてアタシたちは香檳はあまり飲まないが強いていへばランソンの黒が好きなんて話したらボトルクーラーのカバーに包まれてゐたのはランソンの黒で「飲みませう」と彼は2本目を注文してアタシたちにグラスを用意されたので返礼にアサヒのスタウトはアタシたちの奢りで、といふことでランソン黒&スタウトで献杯となつた。この方かなり香檳ラヴであちこちでかなり三鞭酒を飲んでゐるのだが、このスタウトと割つたのは初めてださうで「美味いなぁ」と感心されてゐた。予約の客が来るのでアタシたちは退席。部屋に戻り〈いづ重〉の鯖鮨をいたゞく。

京都の地元客の多い飲食店や飲み屋は本当に店の前に自転車が多い。自転車も飲酒運転は禁止されてゐるのだが。アンディ=ウォーホル展(京都市京セラ美術館)は今週末から。残念だが南座の顔見世に上洛すれば見ることができるかしら。烏丸三条の星巴珈琲の前を昨日から何度も通るが昼も夜も本当に若者たちで賑はつてゐる。小さなカフェとかも「こんな場所で」と思ふロケーションでも客がゐて京都人は本当にカフェ好き。