富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

山手散歩は高低常ならず

陰暦四月廿一日。気温摂氏15.9(水戸)/ 20.7(東京)。東京は朝から昼過ぎまで雨(39.5mm)。

駒場の日本民芸館には通りをはさんだ向かひに西館(旧柳宗悦邸)があつて家人がぜひそれを訪れたいといつてゐたが西舘の開放は毎月第二、第三の水曜と土曜だけでなかなか二人で予定が合はず今日やつと駒場に出かけたのだが渋谷を出て井の頭線を下りたあたりからの大雨。民芸館ぢたいは雨空が似合ひ参観者もけして多からず静かでよろしい。宗悦邸は栃木から移設の石屋根の長屋門ありき、でそこから宗悦先生設計の二階建ての母屋が続くのだが、長屋門を潜ると三和土があり、そこから右に応接間にもなる妻・兼子の音楽室があつて低床の食堂から一段上がる畳敷きの広い茶の間への空間えのパースペクティヴが何とも素晴らしい。ガラス窓の向かふにある雨降りの庭。陋宅からだと雨でアスファルトの駐車場だから面白くも何ともないがあまり手入れがされておらず草の繁つた庭も緑が雨に映えるのは美しい。


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雨も峠を越したやうで駒場公園となつてゐる旧前田侯爵邸も参観。本当は同公園内にある日本近代文学館でなぜか没後55年といふ中途半端で川端康成展をやつてゐて、そちらに行つてみるつもりだつたのだが前田邸まで見たら、もう今日の参観エネルギーが失せてしまつた。


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折角こゝまで来たので足をのばして富ヶ谷の和菓子・岬屋へ。雨模様とはいへ土曜も午後になつてしまひ何も残つてゐないのでは?と思つたが上生菓子はもう売り切れながら水羊羹ならございますよ、と。水羊羹「なら」なんて。これこそこの季節のお楽しみ。この季節は水羊羹で餡をかなり使ふので他のお菓子は出来る数が減つてしまふので先にお電話いたゞければ用意しておきますから。


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お昼は通りかゝりで近くの Bondi Coffee & Sandwiches へ。サンドヰツチを二人でシェア。Bondi を「ボンダイ」なんて読むので豪州?と思つたらシドニー郊外の人気ある海岸ださうで、そこのビーチに面したカフェをイメージした店舗なのださう。こちらは駒場当代裏に狭い道路に面してゐるのだが自転車とかで通りかゝる付近の人々は確かに「軽さ」がオーストラリアっぽいかもしれない。

雨もさいはひにあがつてこれなら漫ろ歩きもできるかしら。家人ができたら一寸寄つてみたいといふ ateliers PENELOPE といふズック布地の鞄やさんが目黒の東山にあつて「では歩きませう」と富ヶ谷から駒場の東大キャンパスを抜けて都立駒場高校と目黒一中の傍を抜け目黒天空とかいふ大橋JCTから池尻の手前で目黒川沿ひに歩き、この鞄やに来る。本当に谷の高低差の大きな面白いコースであつた。その谷の高低差は今日は夜まで終はらないのだが。
いつものことだが家人の買ひ物に付き合つてアタシの方が勝手に先に欲しいものを選んでゐる。今日は二人の欲しい小物入れが同じで色違ひ。買つてもらふ。


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この鞄やから急な坂を目黒川の方に降ると山手通り沿ひにドンキホーテの中目黒本店。昭和の終はり頃に自転車でよく走り抜けてゐたが当時は当然こんな商業施設は存在しなかつた。山手通りにこんなに人が歩いてゐるのかと驚き自動車の通行量も多いのでのんびり目黒川沿ひを歩かうかと横道に外れたら目黒川沿ひも両側に小洒落たブティックや飲食店など並び雨の上がつた土曜の午後はまるで原宿か青山のやうな人出に驚いた。

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桜が満開の頃に花見散歩なら人出もあらうが普段からこんなに人気スポットとは。そりゃもう30年以上も前と比べても仕方ないが当時は本当に閑静でサザンのメンバーが生活者モードで歩いていた印象が強い。へーっと驚きながら東横線のガードを潜り駒澤通りを槍ケ崎まで上がり恵比寿に下る。恵比寿で恵比寿南の靴や(plus by chausser)に寄つて線路をアメリカ橋で渡ると恵比寿ガーデンプレイスの広場にこれまたすごい人出。テスラーの電気自動車の展示会とかやつてゐるやう。昔は本当に鄙びた場所で恵比寿麦酒のビアホールなんて本当に静かだつたのだが。恵比寿駅の東口の方に下る。えびすストアとか商店街が何うにか昔のまゝなのが懐かしい。アタシと家人にとつてはまだ二十代!の恵比寿。
渋谷に来たものゝ予定もなく家人と一旦別れて何となく東急ハンズに行つてみる。この春、東急ハンズがCainzに買収されたが渋谷の旗艦店も老朽化した施設に商品も昔に比べると品薄で客も少なめ。家人とおちあひ山手線のガードを潜れば宮下公園が高層建築の上に。のんべゑ横丁がテーマパークのアトラクションのやうに残つてはゐる。宮益坂下の交差点を渡ると小林ビルにあつたのはキティレコード。


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宮益坂を上り山田帽子店を冷やかして「こどもの城」跡地を仰ぎみて表参道。紀伊國屋が高層ビルの中に埋もれてゐる。根津美術館の方に下り天ぷらの〈みや川〉。久ヶ原T君に聞いてから香港から東京に戻り二、三回寄らせていたゞいてはゐたがご亭主も傘寿の由。鞘巻が勿論美味しいが中入りで吉野葛の天ぷら!だとか帆立の天ぷらの素晴らしさ。ご亭主には本当によくしてゐただき感謝。隣席に来られた初老の御仁が一見さんなのだが入るなり「プロデューサーの秋元さんとか来てるの?」にはさすが南青山と恐れ入つた。ご亭主には「さぁいろんな方がお出でなので」と軽く遇らはれてゐたが。美味しい天ぷらが揚がつてゐうのにさっと頬張りもせず連れの女性と新加坡だとか深圳での投資話もおめでたいかぎり。
南青山7丁目の交差点から殺伐とした六本木通りを渋谷駅まで歩く。今日は山の手を随分と歩いた気がしたが26千歩で17kmほど。本当に谷と坂ばかり。フツーに平地だつたのは駒場から富ヶ谷と目黒川沿ひと南青山の一部だけだつたかしら。

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