富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

清方そして三三の新三

昨晩、寝しなに寺井広樹廃線寸前! 銚子電鉄通読。市立図書館の新着本棚にあつたもの。いくら話題の銚電とはいへ新書で?と思つたら成る程、交通新聞社。1日の運賃収入が4,800円なんて日にまで陥つた倒産寸前の銚子電鉄の再建どころか日銭稼ぎの苦肉の策の副業や「無いところから価値、利益を生み出す」アイデアは評判となつたが何より「目から鱗」は、これ。

あなた一人が90人の夢を運ぶ乗車券(銚子電鉄全駅全区間乗車券) | 銚子電鉄

この90人とは何か。銚電には6.4kmの路線に10駅あり確かに全駅全区間乗車すると(往復を別とすれば)10x9で90パターンあり90枚の乗車券をセット販売。合計で21,760円になる。つまりこれを買へば90人が何らかの区間で乗車したことになり銚電の売上に貢献。それでも「90人の夢を運ぶ」か何うかは知らない。銚電愛があれば好事家はこれを買つてくれる。しかし企業倫理的に問題なのはw無人駅で切符販売をしてゐない駅からの乗車券も売つてしまふ(実際にその乗車券は存在しない!)のだから大したものである。

農暦三月廿八日。気温摂氏9.9(水戸)/21.1(東京)。晴。

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午後3時に竹橋の東京国立近代美術館。大評判の〈没後50年 鏑木清方展〉参観。昭和50年から所在不明になつてゐた名作〈築地明石町〉を同美術館が所在探し当て、その所蔵者(個人)から銀座の画商通じて購入。これを機会に同じく所在不明だつたさう〈新富町〉と〈浜町河岸〉も購入で総額は5.4億円の由。今回はこれが目玉で福富太郎コレクションなどからも多数出品あり。肉眼で、といつても作品保全のため全体的に照明は暗くガラスの向かふの作品を単眼鏡で眺めただけだが〈明石町〉の婦人の金細工の指輪の肉厚はまるで本物の金指輪を嵌め込んだやう。それにしてもVixenのモノキュラー(H4x12)持参の方が多いこと(アタシもだが)。絹地に精緻に着物の柄が描かれてゐるから近くで見るとそりゃ素晴らしい。今日の展覧を見て清方をアタシが最初に見たのは小学生のときに三遊亭圓朝像だつたと認識。旺文社の学芸百科事典といふのが家にあつて各巻末に三島由紀夫ぢゃないが〈聖セバスチャンの殉教〉など美術の画像が充実してゐた。それで〈圓朝〉を見て落語好きの小学生は「柏木町の師匠はこの噺家を意識している!」と直感的に思つた。

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地下鉄で九段下経由で新宿へ。西口をぶら/\してゐたら暑くて喉が渇いてBERGで啤酒を飲んで又少しぶら/\して結局またBERGに戻り初めて評判の五穀米と十種野菜のカレーを飰す。確かに美味、だけどあまり時間もなく早喰ひで紀伊國屋ホールへ。紀伊國屋書店の4階に上がり、こんな有名な劇場なのに来たのはもしかすると初めて?かもしれない。昭和の頃に井上ひさしこまつ座の芝居を新宿でみたら、こゝしかない気がするし映画上映もあつたやうな。だがホールのロビーも劇場内の横壁の装飾も全く記憶にないのだ。

三三師匠の独演会で「三三の新三」と題して〈髪結新三〉の通し語り。一昨年の5月にこれを開催予定だつたものが古呂奈で直前中止(アタシはその公演気づいたときにはもうテケツは完売)。それが2年かゝりで本日。三三は真打昇進2年後の2008年に月例会でこれを高座にかけたさうで14年ぶり二度目。見事に満席。それも昼の部もあつての夜の部。アタシばかりぢゃないが「三三だつたら聞きに来る」って客が多いのがわかる。
〈髪結〉は歌舞伎では見てゐるが落語ではアタシは初めて。落語で〈髪結〉といへば柏木の師匠で(Youtube)上下1時間50分あり、こんな長編をきつちりと語れる噺家は当世数へる程で三三師匠が下手なはずもない(長屋の大家・長兵衛の出のところで途中10分休憩)。圓生師匠より面白可笑しく演じてみせる。だが六ッかしいのは面白く演じてしまふと〈髪結〉の、それでなくても人情噺でも怪奇譚でもない物語なのが余計に本筋が曖昧になりかねないジレンマがある。殺す殺されるの実話が元とはいへ、芝居の方はともかく落語ではそも/\何故に新三が白子屋に付け入り娘お駒と使用人の忠八を拐かす悪意をもつたのか、カネのためにしては新三は大家長兵衛にまんまと遣り込められ長兵衛も狡賢いやうな善人のやうな、それが理屈の応酬の劇ならそれはもつとキャラ設定も精緻にできたわけで芝居の方もさうだが〈髪結〉は面白いやうで面白くしたいのか悲劇にしたいのか「悲喜劇」としての中途半端。エンディングのオチがない。ふと思つたが同じやうな悲喜劇で見事にエンディングにオチをつけてゐるのは、かのシェイクスピアの〈ヴェニスの商人〉だらう(さういへば〈髪結〉の半身をやるのやらないのゝ初鰹ぢゃないが〈ヴェニス〉も肉を切る話だ)。それでも〈髪結〉の方はそれこそ、この話がなぜ初鰹の時期かすら必然性もない。本当にワケのわからない設定の話。芝居なら芝居らしくできるが落語の一人語りでは限界がある。柏木の師匠は、これを淡々と演じてみせた。だがそれでも元々の筋が筋だから「よくわからない」のだが圓生だから何ができたか、といへば敢へて中途半端な噺を延々と語れる「話芸の上手さ」を披露すること。柏木の、あの師匠の性格なら、それくらゐのことはできるはず。この噺の最後に

 狼の人に喰はるゝ寒さかな

なんて〆るなんて圓生くらゐにしかできない「これでいゝのだ」だらう。ちなみに三三師匠は今晩この「狼が」は用ゐず。そりゃさうだらう。今晩の噺では新三はとても狼でもなけりゃ長兵衛もけして人ではない。いずれも「どちらもどっち」の「あまり考へてゐない連中」のやうでしかない。師匠は明晰だから、さうしてみせた。これからもこの噺を高座にかけてゆくのかしら、楽しみではある。

大型連休前の新宿は新宿駅地下にも「これでもか」といふほどの人混み。みんな心地よささうに酔つてゐる。古呂奈なんて存在もないほど。口罩は一応してゐるだけ。新潮『波』5月号読みながら帰宅。麻布十番の天ぷら「よこた」のご亭主亡くなつてゐたことを俳優・高嶋政伸の随筆で知る。

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古呂奈で分散リモート開催などやつてきた香港立法会が従前の全体での会議再開。で議場に議員は数名。国安法下の選ばれるべくして選ばれた御用議員ばかりで審議など事実上ないのだから立法会ぢたい解散しても良いのでは?

▼戦争という惨い行為が公に行われ多くの人生を奪い人々に深い悲しみを刻み込んでいる今この時に国際平和を希求し武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄している、この日本でありがたいことに戦争を体験してない私が演劇という果てしなく自由な世界に導いて頂き……(岡本健一紫綬褒章でのコメント)https://t.co/iQg1JwnSz1

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党紙の創刊120周年記念の記念郵便切手発行の由。120年前の清末に開明派のオピニオン紙として天津で創刊され清朝から睨まれフランス→日本の租界で発行し続ける。各地で其々発行され内地の大公報は中共に整理されたが香港で存続して中共傘下になり党紙に。それにしても何故に数ある新聞の内の一紙の創立何周年祝賀で記念郵便切手になるのか。まさに一党独裁政権下の党紙の証左。

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