富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

水府は震度5弱

陰暦二月十四日。気温2.9/15.9度。曇。資生堂の「春の化粧品デー」始まりポイント10%還元(今月末まで)。傾城水戸の資生堂カウンターでメンズの化粧品大人買ひ。いくつかそろそろ買ひ足す常用品があつたが春のこのキャンペーンが近いとわかつてゐたので今日まで待つてゐた次第。

市立図書館で文藝春秋のバックナンバー2冊借りる。2006年3月号は賢太の『どうで死ぬ身の』が芥川賞(2005年下期)候補だつたときの、2011年3月号は賢太が『苦役列車』で芥川賞(2010年下期)受賞したときの、それぞれの選評を読むため。前者は少しの時間で読み終はるだらうと図書館のコンビニでワンカップをひっかけてから(芥川賞の選評なんてとても素面でなんて読めたものぢゃない)。

前者の『どうせ死ぬ身の』では山田詠美さんの評が格別。いきなり「爆笑。」で始まる。

死後のこれでもかという連発、あまりにも古い文学臭。それもここまで極めればかえって新しい。他人を笑う小説の多い昨今、自分を笑うのは希少価値。もちろん、作者は、そんなことには無自覚だろう。笑われるなんて不本意だろう。意識せずに天然の心持ちで、自らを笑い者に出来る人は、天才、もしくは、ばかたれと呼ばれるが、この作者は天才でもばかたれでもない。愛すべき文学ばかたれである。

この選評、これでもかといふ罵倒の前半だけだつたら賢太は詠美を殴りに出向いただらう。だが後半は言葉こそ悪いが愛情すら感じる。そこが山田詠美の上手さ。この選評、最後は「主人公が心酔する作家の魅力に具体性があれば、もっと良かった」とコメントしてゐるが、同様のコメントは他の選者からも挙がつてゐる。それで選考で外れた。だが当時の賢太にとつて自らの藤澤清造溺愛を冷静に言葉で表現などできようはずもない。この『どうで』で清造がどれほど素晴らしい作家か、自分が清造のどこに惚れたのか、なんてきちんと記述できてゐたら本当につまらない読み物になつてしまふ。選者のなかで池澤夏樹は賢太と『どうで』に一切触れず賢太が尊敬する慎太郎は自分の文学観を述べたあと「私にとって今回も、どの候補作も期待した未知への戦慄からはほど遠いものでしかなかった」と候補作全てに何も触れてゐない。

そして5年後の賢太の芥川賞受賞(受賞者インタビューはこの人の小人物性があんまりで一つも面白くない)。島田雅彦は『苦役列車』を「古い器を磨き、そこに悪酔いする酒を注いだような作品」と形容も見事。ダメの低下層のやうな生活で「社会や政治を呪うことさえできず、何事も身近な他人のせいにするその駄目っぷりだが、随所に自己劇画化が施してあり、笑える」と評してから「一応、「私」を客観的にプロデュースし、最低人たる自分を社会の片隅に置いてもらうための交渉をしているわけだ」と賢太の狡いところを見抜く。高樹のぶ子は「人間の卑しさ浅ましさをとことん自虐的に、私小説風に描き、読者を辟易させることに成功している」と褒めた?上で「これほど呪詛的な愚行のエネルギーを溜めた人間であれば、自傷か他傷か、神か悪魔の発見か、何か起きそうなものだと期待したけれど、卑しさと浅ましさがひたすら連続するだけで、物足りなかった」と残念。池澤夏樹はその了見で今回も賢太とその作品に一言も言及せず。さすがである。慎太郎は「近年珍しい破滅型作家の登場」をフツーに褒めるばかり。そして山田詠美である。

正当にやさぐれているのを正確に描写しているのに、「蕎麦」ではなく「お蕎麦」、「刺身」ではなく「お刺身」、「おれ」ではなく「ぼく」。あまりにもキュート。この愛すべきろくでなしの苦役が芥川賞につながったかと思うと愉快でたまらない。私小説が、実は最高に巧妙に仕組まれた、ただならぬフィクションであることを証明したような作品。

と前回「罵倒のやうな救済」から今回は皮肉で罵倒してみせたやうなもの。そしてこの時の芥川賞は圭太『苦役』と朝吹真理子『きことわ』の二作が受賞なのだが詠美は自分が「〇をつけた二作品ともが受賞して本当に嬉しい」と結んでゐる。結局、圧倒的支持で『きとこわ』が当選に対して(村上龍によれば)過半数の支持で『苦役』次点で受賞となつたといふのだから詠美は賢太といふ「あまりにおかしなフィクションの誕生」を面白がつて当選としてゐたことになるのか。

本晩三更に大きな地震あり。宮城県沖60㎞が震源でM7.3もあり最大震度6強で水戸は5弱。


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香港の感染防疫はすでに制御不能と大公報。明報は香港大学の発表として香港ではすでに人口の半数が感染(無症状含む)と報じる。昨日の明報で中文大学のシミュレーションで香港で第5波は最大500万人の感染と予測といふ記事を大げさすぎないか?と思つたが、この港大の発表と抱き合はせて見ると「なるほど」と合点したくもなる。

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尊子漫画(明報)。香港では「隔離」「全市民PCR検査」がいずれも失敗し次は病床の不足、医療崩壊で最後は棺桶不足、と。