富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

Krystian Zimerman Recital fortepianowy

f:id:fookpaktsuen:20211119074853j:image大公報で「香港は習近平の〈歴史決議〉からどんな啓示を得ることができるか」なんておかしな説教を垂れてみせる譚惠珠(マリア=タム)はベタなオバサンだがかう見えても倫敦大学出の弁護士で英国統治の頃は民生改善など成長に求める開明派であつたが主権交代に合はせるやうに親中派に立場を移し公職歴任。民主化運動に対しては人民解放軍による鎮圧を求め弁護士の分際で「香港に三権分立はない」と宣つてみせる。クリス=パッテン総督のいふところの、まさに“not that this community's autonomy would be usurped by Peking, but that it could be given away bit by bit by some people in Hong Kong.”の典型のやうな輩なり。

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本日は陰暦十月十五日。十五夜皆既月食、しかも晴天といふ偶然にも不思議な夜を迎へる。昏刻に母と傾城水戸で待ち合はせ資生堂に寄るが母は昔は売り子もみんな顔馴染みだつたけど今ではもう外出も少ないしマスクしてゐて……と。行徳から水戸に戻つてゐたJ君と三人で木内酒造の「な嘉屋」で夕食を軽く済ます。J君は御母堂の看護で屢々水府に戻つてきてゐるが維納まで行くほどのクラシツク音楽好きで東京でも連日コンサートへ。今日のツィメルマンのリサイタルは東京の知人がチケット入手したものゝ来られなくなり、それを水戸だといふので譲り受けた由(彼は自らもアマチュアオーケストラでベースを担当してゐて聴くのも専ら合奏ものださう)。J君の大学生の次男が今回、水府に同行したさうで彼が「な嘉屋」で独酌してゐたのに遭遇してしまひ折角の寛ぎを邪魔してしまつたのでアタシらが出るときに年上の流儀として彼の伝票もまとめて会計を済ませてしまつたらアトでそれを知つた彼はわざわざ菓子折り調達して芸術館に途中休憩の時間を見計らひJ君からこれを私に渡してほしいと届けに来てゐた。彼にはむしろ気を遣はせてしまつたが今どきの若者もこんな律儀なものかと感心。傾城水戸から建設中の新市民会館の横を抜け芸術館に至るとタワーの向かふにぼんやりと皆既月食の月が浮かんでゐた。偶然とはいへ不思議な日にクリスチャン=ツィメルマンのピアノリサイタルとなつた。

f:id:fookpaktsuen:20211121130651j:plainさすがに定員を半減させたコンサートホールはチケット完売。先ほどの会食でJ君と母と話してゐたときに「この芸術館の次期館長は?」でアタシが名前を挙げた片山杜秀先生も来場。彼はこゝでVIP扱ひ。コロナ禍でツィメルマン先生がかうして来日で無事にリサイタル開催かといふとツィ氏は東京?にも自宅があるほどの親日家でスタンウェイのピアノも当然、日本に在留で来日公演なのではなく日本の在留許可をもつてゐるとか国民健康保険ばかりかJR東日本の大人の休日倶楽部にも入つてゐるとか冗談でいはれるほどで今回も晩秋に日本を津々浦々まで巡業。静寂を好む彼にとつて余計な音を立てゝ演奏の邪魔をすることもない躾の良い観衆がゐて地方でもきちんとピアノ曲を理解してゐて音響もしつかりしたホールがあるのだから日本での演奏は覇権を争ふ某国Aや某国Bに比べたら本当に落ち着くところだらう。演奏中の咳払ひ一つでも憚られるが、それより開演前もいつも以上に静寂につゝまれてゐるのでした。バッハのパルティータといふとアタシにとつてはグレン=グールドで今日も昼間、或る場所のサウンドチェックといふかBGMにそれを流して聴いてゐた。ツィメルマンのパルティータといふのも想像できなかつたが実際に演奏が始まつてみるとグールドのそれがバッハに忠実と思へるほどメロディアスで感情表現の豊かなパルティータとなつた。コロナ禍の閉塞のなかで、と考へると、これはこのタイミングだからのツィメルマンの奏法なのかもしれない。中入り後のブラームスの3つの間奏曲は出色の出来だつたやうだが作曲技法もよくわかつてゐないアタシにはよくわからないまゝ。ショパンソナタ3番。コロナ終息から収束への願ひを高らかに歌ひ上げるやうに、今日これを聴いた聴衆が少しでも元気づけられるやうに、そしてツィメルマン自身の勇気そのものゝショパンであつた。世界でも今もっとも優れたピアノストであらうツィメルマンがアタシにとつてご近所まで来てくれるとは。それも、この水戸芸術館は自分が通つてゐた小学校の跡地でコンサートホールのある場所こそかつての音楽室。そこでツィメルマンがピアノを弾いてゐるのだと思ふと感無量。芸術館を出ると東の空、芸術館のタワーの上の方に皆既月食があつたことが嘘のやうに満月が輝いてゐたのでした。