富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

石川禎浩『中国共産党、その百年 』(筑摩選書)


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大公報は香港の民主化運動、反中運動のリーダー格であつた李卓人(収監中)の組織する「職工盟」に外国組織から1.8億香港ドルの黒金(運動資金)が!と。世界的な人権組織からの資金流入は、それでなければ地元のカンパだけであんな巨大化した運動は組織できないわけで今更驚きもしないが国安法的には、それが中国政府転覆を企てる動きとなる。明報は香港警察の輔警(香港輔助警察隊)トップと警察幹部候補のエリートの隣接した自宅が不法に私有地拡張で公共土地占有で、それが指摘されてゐても土地当局は放置のまゝ半年と報じる。政府批判は国安法的にはできないなか公務員の個人的な違法行為の追及が香港のマスコミに許容されたぎりぎりの報道の自由か。ところで本当に大事件が起きると大公報と明報のトップ記事が同じになるが今日のやうにそれぞれの持ちネタの日も少なくない。

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▲大公報に昨日の公選された「選挙委員」による市民への接触で「市民の声を私たちはしっかりと聞いた」と提灯記事。政府に批判的な声など出るはずもなく茶番も茶番。こんなことでいつまで社会が維持できると彼らは思つてゐるのかしら。

中国共産党、その百年 (筑摩選書)

石川禎浩『中国共産党、その百年 』(筑摩選書)

日本で中国共産党史=中国現代史のテキストとして最高峰の内容だらう。初心者から玄人筋まで十分に利用できる内容。かなり細かいところまでフォローしてゐるがタコツボ的にならず著者がこの中共なる組織をかなり俯瞰できてゐることが分析の随所に顕れる。その380頁ほどの大著が1,800円って筑摩書房おかしくね?この値段なら気軽に入手できて内容充実なのだから嬉しい。狂草の書家、中共最大の文人としての毛沢東に関心のあるアタシは、この本で第3章(毛沢東とかれの同氏たち)4節の「毛沢東と文-書斎のなかの皇帝」は毛沢東と古典、漢籍の教養を語り、この本の中でも白眉だと思ふ。


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この本を読んで中共の思考なるものを(納得はできなくても)理解すると「歴史」といふのは党が決議して決定するもので諸個人の思考に属するものではなく、だから六四の天安門事件も党がそれを反政府的暴乱としたのだから「それまで」で民主運動の見直しを求めるなんてダメなわけで党の決定は法治を超越するのだから三権分立なんてありえない。それでいいのだーっ!だらう。唯一我々にできることは中共が「一党独裁による責任」をどこまで何うできるか?を傍観することくらゐ。共産主義イデオロギーの崩壊で今はもう強引な中華ナショナリズムしかない。それもウイグルチベット、香港にも強制するネーション・イズムで相変はらず中共の中国といふ国家は「統一か分裂」といふ二者選択しかない。民主主義を省くことで比較的安上がりに実現できた近代化=中国モデル。この中共史で人民共和国成立以降についてはもう随分とさまさまな研究もあつて既知のことも多いが戦前の中共について曖昧な部分も含めこの本でかなりのイメージをつかむことができる。面白い分析も少なからず。刑法が施行される1979年まで中共には「反革命処罰条例」と「汚職処罰条例」しかなかつたといふ。だが今でも実はこの「反革命」と「汚職」の取締り以外何も要らないだらう……笑へない事実。文革も我々は毛沢東の時代で相次ぐ政治運動と非効率な計画経済で経済発展が蔑ろにされ鄧小平の改革開放で政治運動が抑制され社会の安定化が図られ計画経済から市場経済になつたことで今日の経済成長があつた……とステレオタイプに理解してゐるが実は文革期の10年も経済成長は平均で年4%を維持してゐて中央政府が政治的混乱に陥るなかで地方政府は比較的裁量権をもち農村では人民公社の共有資産や土地の分配などが勝手にされ、それが次の時代の郷鎮企業や個体戸になる下地となつてゐた、と。これは目からウロコ。共産党政権をひっくり返すのではなく強要するやり方に従はない、規則をひそかに破る。生き延びて次の時代への準備。結果論だが香港もこの「したたかさ」を民主化運動で活かすべきであつた。それができなかつたので中共に負けて運動は壊滅にまで追ひ込まれた。

党の側に何らかの特性や施策があって「もった」のではなく、無体な統治を何とか耐え忍び、とことん窮したときは「言うことをきかない」という〈静かな革命〉を起こせる農村社会が共産党を「もたせた」。

まことに御意。この中国人のしたたかさこそ中国の強さなのだらう。それを無理やりに中華ナショナリズムで制御してゐるのだから。アタシとかまだ存命のうちに中共に何らかの末期的なものが見られるのかしら。まぁポスト習近平の時代までは見てみたいと思ふのですが。だが習近平が白寿になつても国家主席なんてこともありえないわけではない。