富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七夕の大雨


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香港の不動産価格が、これほどの社会的絶望のなか今年も9%増を見越すのだといふ。移民による香港離れだとか人口減少のマイナス要因で不動産価格下落があつてもおかしくないが上昇といふのは十分な買ひ支へが作用。これで不動産や株価の暴落でもあつたら目も当てられないわけで中央政府もそこは最重要課題だらう。明報の記事は選挙人選挙で大手六大地産商から43人報名で選挙人の3%占めるといふ。わずか3%とはいへ今後の行政長官や立法会の御用選挙で民主派=反政府派排除したところで親共建制派といつた背景ない地産商の社中がキャスティングボード握る可能性あり。政府に対して異議申立てがほとんどなくなるなかで香港返還前からの財閥が英国系も地場系も香港といふ「金の卵」を守護するため親共派以外の勢力として影響力維持は課題なのだらう。

農暦七月七日。やつと七夕だが台風のあと天気不安定続き西日本は豪雨。水戸も昨日は57.5㎜の降雨(本日は結果、76㎜となる)。本日は国立劇場(小劇場)」で第23回の音の会開催あり。ちょうどお昼にかゝる公演で日本橋弁松のお弁当を注文しといて東京駅大丸の出店で受け取り。緊急事態宣言でかつては百貨店すら営業中止だつたが今は平常通り。東京駅も従前のお盆の繁忙期に比べたらこれでも人出は多少少ないのかもしれないが閑散となんてしてゐない。三宅坂に行くのに雨模様で日比谷で晴海から来るバスに乗らうと思つたら昼間なんて1時間に1本とは(朝夕でも毎時2本)。かつて都バスの03系統なんて新宿~晴海ふ頭で時刻表も気にせず乗つてゐた記憶。

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長唄が〈四季の山姥〉〈楠公〉と〈新柱建〉の三曲。〈四季の〉は山姥となつた京九条の遊女(八重桐)が足柄山中で怪童丸、後の坂田金時を育てながら、で廓つとめだつたころの四季の風物を彷彿……って何うすれば、こんな発想が、と江戸時代は面白い。〈楠公〉は太平記の世界の歴史もの。〈新柱建〉は明治に黙阿弥の作で、これも頼朝の時代に富士の裾野の狩で頼朝公の仮屋建るのに棟上げで……の寿曽我対面と同じ背景で、緊張の場に廓でのあれこれ……と話の展開がハズレてゐるのが面白い。中入り後は歌舞伎で桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)から〈帯屋〉の段。何うしようもない帯屋の旦那・長右衛門と近所の信濃屋の娘・お半ができてしまつて厳しい状況で気丈夫にふるまふ長右衛門の妻お絹を京蔵さんが上手に演じる。今回の長右衛門は鴈乃助でいかにも上方の成駒屋っぽい芝居はよく見てきてゐるし京蔵さんも京屋のならでは、と思はせるお絹。2000年2月の歌舞伎座播磨屋の長右衛門と雀右衛門のお絹とは。仁左衛門XIIIもこの長右衛門を長く勤めてゐた由。この〈帯屋〉の段だけ見てゐると長右衛門がお半と何でそこまで、と思ふが浄瑠璃(竹本拓太夫が熱演)がきちんと語つてゐるわけで、この物語の前段となる長右衛門の昔のレコだつた芸妓との心中の因縁などわかつて見てみてやつと「果たしてかうなるのか」がわかる話。それにしても長右衛門なんて今だつたらお半14歳で立憲民主党なら除籍処分。

芝居見物を一緒したK君が中国語の勉強を始めるといふので独学だから何か教本を得ないといけない。雨空のなか半蔵門線で神保町。すゞらん通りも閑散。内山書店と東方書店を覗いて内山で『 真剣に学び続ける人の中国語教本(入門編)』(アルク出版)をK君に勧めK君購入。これはその日に独学する項目内容が明白で見開き2頁に要領よくまとめられてゐる。アタシは手許から消えてゐた同書店発行の『漢文を読むための助字小字典』を再度購入でK君にも一冊差し上げる。雨のなか神田まで歩く。途中「まつや」が開いてゐたがお酒も供してゐない。また今度。神田の駅前はさすがなもので数軒、この感染拡大のなか開き直り昼酒を供す焼き鳥屋などあり。まだ地下で闇営業ぢゃないだけ禁酒法の時代ではないか。東京は本日も昨日に続き感染は5千人超。

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常磐線三河島事故があり南千住は小塚原の刑場で荒川放水路渡れば右手に小菅の東京拘置所と続く……いつも慣れた路線なのに乗るたびにいろいろ脳裏を過り気分が重たい。昭和の昔は昼間は千住の発電所おばけ煙突、夜はナイター開催のオリオンズの東京スタヂアムの光が眩しかつた。列車が松戸を過ぎると暗闇を走れば東京の銀座や有楽町の夜もネオン輝く明るさが子どもながらに惹かれ祖母や両親が次はいつ連れてきてくれるのかしら……と。小菅にある、この高層建物は車窓から眺めてきて、ずつと集合住宅だと思つてゐたので、あれが小菅の刑務所知つたときには驚いた。あそこに最大3千人の刑人が収容されてゐると思ふと警備厳重、建物牢固とはいはれても惨事は何うなるのか……想像しただけですぐにでもサスペンスものの劇画や映画になりさうだが足立区の下町の密集地ゆゑさうしたフィクションは回避。この高層の大型拘置施設があるため?敷地は余裕があり旧小菅刑務所の白鳥のやうな、何とも不気味なほどの近代建築は残存。その旧舎も高層の現行建築も見事なパノプティコンである。フーコーの『監獄の誕生』を読んだときは、その発想に驚いたがアトでベンサムの先駈があることを知つた。