富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

東京五輪まであと31日


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「蘋果日報」近く停刊か 当局の圧力で人も金も危機に:朝日新聞

新聞発行のための記事の取材、編集は編集部のパソコンやHD押収されてもリモートでできる時代ではあるが会社及び社主の資産凍結は痛い。かりに白騎士(ホワイトナイト)現れても資金提供は銀行口座凍結されてをり多額の現金を運び込まなければいけないし蘋果日報への援助ぢたい国安法違反とされかねない(どころか、さうなる)。

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蘋果日報を定期購読してゐることぢたい蘋果日報のサポートで国安法違反か。蘋果日報が他の新聞よりも低価格で発行部数伸ばしネット版は無料といふのは大きな発行部数を根拠にした高い料金設定での広告収入ありき、だつた。その広告収入が大手企業の忖度で減少してネット版有料で紙は捨てゝも、の背水の陣だつた。蘋果日報ぢたいには反共宣伝のために米国から資金が流れてゐるわけでもなく、さういふ意味では大公報こそ中共の広報紙として中共系企業の広告収入など間接的に中共資金の流入なのだが。

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やはり26年も読んできた新聞がなくなる、だが紙媒体としての経営難よりも中共による弾圧で惜しまれつゝ廃刊といふのは光栄か。

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政治風刺漫画の尊子氏が国安法で身柄拘束されないことがむしろ不思議なくらゐ

もはや、もう次のこの国安の状況下で「自由な思想」を何う維持するかに気を回すしかないだらう。香港の政治制度改革とかはあきらめて。中共がある限り。中共に何かあれば香港だけの問題ではない。混乱も含め中国全土に大きな「うねり」。一党独裁の中国とて国民の誰もが中共万歳!で洗脳されてゐるわけではない。むしろ中共の成果も悪い部分もよく知つてゐる。但し中共の指導で世界の大国となつて覇権主義的である今、その覇権を我がことのやうに自豪になつてゐる輩は少なくないだらうが。

紐育時報の香港報道が中共を刺激せずやんわりと香港の思想信条の自由を取り上げている。ウイグル問題についても報道が抑制気味に思へる。下手に中共を刺激して国安法理由に香港や中共での報道や購読制限など強制されるよか、の判断なのか。

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水戸はアジサイといふと保和苑から八幡神社が評判だがアジサイの花の見事さでは南町3の商店街のこちらが見事。国道沿ひで環境はけしてよくないのだが通るたびに愛でて飽きることがない。昨日偶然に立ち寄った旧酒門村「菊池」といふとうふ屋のとうふプリンがとても美味しい。

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エマニュエル=トッド『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房)を読む。タイトルに「著者名の」とあるので李登輝本みたいに誰かが上手いこと編集したものかと思つたら 

ある日、日本の出版社から(「思考する」という)このテーマでぜひ本を作りたいという提案をもらったとき、どのような内容になるのか、すぐには予測がつかなかったのです。私は日本では「予言」ということを通じて知られているのだと自覚しています。ソ連崩壊やリーマンショックアラブの春、イギリスのEU離脱などを予言した人物として。

とトッド先生がネタを明かしてゐる。なるほど。自国フランスや欧米に比べ日本ではトッド先生は朝日新聞への登場などかなり人気。これが日本語オリジナルになること、友人の多い日本には特別な思ひ入れがあること、歴史人口学の先達・速水融(1929~2019)へのオマージュなどあつて、この「思考地図」の執筆を受けたのだといふ。

社会のアトム化(核化)。社会集団としての分析と総合の難しさ。社会の解体。

①国家の存在。ナショナリズムを含め、それ(国家の存在)を超えたかたちの能動的帰属意識のやうなものがあり、それが集団に目的を与へ、歴史のなかで、未来に向かつて進んでゐるといふ感情を与へる。

②一方で集団の受動的な社会心理原則がある。人々に共通した収監。「ある一定の期間においては」比較的よく社会が機能する。但しそれだけでは個人間の関係を超へた部分で人々が何か大きなプロジェクトに参加してゐるといふやうな意識をもつことはできない。

今日の日本には②の受動的なかたちでの集団心理はあつても①の能動的意識に欠ける。人口減少、それこそが国家としての「共同プロジェクトの不在」を証明。未来へ向かふ集団意識の崩壊がある一方で、日本人として何うあるべきかといふ態度も「無傷のまゝ」そこにある。それでも「思考するために」何が大切かといへばやはり①の能動的な意識。社会から思想や信仰などの集団的な枠組みが消滅すると経済や社会の集団活動がより困難になる。これまで集団的枠組みといふのは「一種の制約」であつて、それが崩壊すると個人はより自由になるといはれてきたがその集団的枠組みの崩壊は「個人の縮小」を招いた。

「個人」といふのは賛美されるやうな存在ではなく、か弱い存在である。

集団的構造の崩壊で個人は混迷し模倣してゐるやうな存在となり自分が置かれた環境のプレッシャーに押しつぶされてしまふ。同時に集合的な信条が崩壊することで起きた個人の縮小が思考の能力低下を招いてゐるのではないか。一人で何の枠組みもない、つまり「無」のなかで思考はできない。歴史に対して何一つビジョンをもつてゐない人が歴史を、そしてその延長線上にある現在や未来を思考することは非常に難しい。

伯林の壁の崩壊以降、思想によつて歴史が歪められて解釈されてしまふ傾向がある。

マクロ経済から派生してゐる経済指標(ケインズ自身も好んでいなかつた)は自動車や冷蔵庫、洗濯機などの生産を積み上げるかぎりは結果としてはある程度の真実味を帯びたものだつた←当時はまだ商品価値がコストを踏まえて設定されるといふ流れぢたいが比較的道理を弁えたものだつた。ところがサービスの経済化が進むと価値の非-物質化が起き弁護士が想像を絶するやうな高額を報酬として求めると、それもGDPにカウントされるやうな、サッカー選手の高額年俸も同様。

新型コロナウイルスについて。グローバル化は社会発展の単なるステップではなかつた。西洋社会の一部を後進国状態にしてしまつた。HIV(AIDS)が社会にもたらした影響→性的行為での行動の変化。しかし社会はそれを乗り越えてしまつた。人間の根本的なエゴイズムといふのは利他主義的かつ利己主義的なもの。人々は集団を守るための行動をとる。欧州はユーロ政策の失敗の影響はさらに深刻化する。欧州の人々がいかに欧州といふ「ネーション」に帰属してゐるといふ意識をもてなかつたか。フランスでは貧困化が進み社会経済的衝突が一層深刻化する。日本では感染収束すると社会でそのある程度の満足感で、これまでよりもさらに「高齢者を救ふことよりも子どもを産むことのほうが大切であるといふ事実」が見えなくなる。思想的に淀んだ状態がますます強化される恐れ。不平等の広がり。

……かうして読んでゐるとアタシもまたやはりトッド先生の「予言」に注意を払つてゐる一人ぢゃないか。

エマニュエル・トッドの思考地図 (単行本)