富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

憲法記念日


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変種株ウイルスの高い致死率にワクチン接種するか死ぬか、と大公報。香港で外国人家政婦=実質的にはフィリピン人がターゲットにワクチン接種強制でフィリピンの外相が偏見に基づく人種差別と徹底抗議の宜。

▼本日快晴。初めて「業務スーパー」に出かけてみた。まぁ凄い品揃へ。ここで調理済み食品買ひ揃へれば即、何ちゃって中華料理屋とか居酒屋が開けさう。香港の食料品店のやうな食材や香辛料もある。冷凍の水餃子だの予想以上にあれこれ買ひ込んで帰宅。本日は憲法記念日(社説)新たな時代へ課題を直視せよ : 読売新聞 は「憲法が制定以来、一切手を加えられていない現状は望ましい姿ではない」といふ。なぜ改憲されてゐないのがいけないのかアタシにはわからない。(社説)コロナ下の記念日 憲法の価値 生かす努力こそ:朝日新聞 は「憲法に忠実に従い日々の政権運営に生かす。それこそが首相に課された責務である」としてゐる。然り。改憲については「司令塔なき憲法改正 漂流する「安倍路線」水面下の議論はいま」(毎日新聞) が面白い。

改憲の旗振り役だった晋三の首相退任で党内論議は「司令塔不在」に陥っているのが実情だ。(略)晋三は4月22日、東京都内で憲法関連のシンポジウムに出席し「そもそも自民党は公約で憲法改正を明確にしている。それを読んだ国民が1票を入れているのだから国民投票に付すことに反対すること自体がおかしい」と訴えた。だが党内には「憲法審査会は安倍カラーを出さない方が進む」と野党が態度を硬化させるのを懸念する声も少なからずある。

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護憲派はコロナ禍で憲法に基づく生存権を訴へる。憲法施行から74年まさかこんな豊かな(はずの)時代にあつて憲法25条の最低限の生活といふ国民の権利が求められるとは思つてもいなかつた。改憲派は国防の必要性だの安全保障だの環境権だの時代に合はせ何かしら改憲の理由を見つけてくるが今は何といつても緊急事態条項の新設。それにしても、あんなに晋三が改憲色を滲ませれば滲ませるほど国民世論は改憲を否定。改憲意欲の薄いスガになつて改憲必要45%、不要44%:朝日新聞世論調査  とまた改憲が微秒でも逆転したのだから皮肉である。

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ほんの少し前なら憲法講演会で柄谷行人樋口陽一先生だつただらう。晋三のおかげで樋口陽一小林節なんて共闘すら生まれた。今回は樋口先生の席にあるのは蟻川恒正先生。柄谷行人先生もさすがに高齢でシンポヂウムで自由に語らふにはつらいところあり。用意した原稿の棒読みで口跡も良からうはずもなく何うにか聞き取るだけで精一杯。大切なことを述べてゐるのだが徳川憲法だとか、高座でいへば一瞬、脈絡からの逸脱は志ん生師匠か、と思つたがもはや観念の世界で談志のやう。講演の後の質疑応答でも自ら発言を求めて徳川家康がどれだけ世界を見渡してゐたか、といふことを三浦按針など挙げて語られてゐた。それは確かにさうだが、それが現行憲法に何ら影響があるのか、憲法記念日の今日それを何う積極的に解釈すべきなのか。ふと晩期ホロヴィッツの来日公演を聴いた秀和先生のことを思ひ出す。その思想界の老大家に対する若い蟻川先生は今の日本で憲法学では最も重要な研究者であらう。樋口先生の憲法学もさうであつたが拝聴して目からウロコとはまさにこれ、さういふ解釈で憲法がさらに磨きかかつたものになる。

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今まで聴いたプレゼンで、これほど簡単でかつ重要なこと「だけ」が綴られた1枚レヂュメは見たこともない。蟻川先生の思考が言葉として発せられるのを聴いてゐて、この方の頭脳がなんて高尚なものなのかと唖然とするばかり。自民党が、讀賣新聞が、戦後否定社中が「権利ばかりで義務がない!」と叱る現行憲法に実は、その個人の権利を護るために何れだけの義務が求められてゐるか。公共の福祉は国家が制する規則ではなく他者の権利を尊重するためのものであること。よって国民は(人々は)国家に制約されるものではないこと。ちなみに蟻川先生の講演で「跋」は何かといふと「今日は憲法9条には触れずに憲法について語らせていたゞきました、といふのも」と憲法学者憲法を語ると9条のことに触れて政治的になるので、それを避けるべきと叱られることもあるやうで……と、それがこれ。憲法記念日の講演に憲法学者・木村草太起用鎌倉市「9条に言及する懸念」で拒否:東京新聞 ネット中継を見てゐて思はず大笑ひしてしまつた。

蟻川恒正:菅首相が好む絆 「権力者がめざすものでない」(朝日新聞)20210427

「絆」は身内にとっては心地よいこともあるけれども身内の外の者には抑圧的に働く。首相の長男までもが関わった違法接待、安倍政権下の森友・加計学園問題も権力者との「絆」から生まれたもので。一方、権力者との間に「絆」を持たない人々は日々コロナ禍に苦しんでいる。「公共社会」とは一人一人が等しく尊重されなければならないという考えの上に成り立つもの。「絆」は「公共」に責任を負う権力者が「めざす」べきものではない。「公共」を支えるのは、憲法が掲げる個人の「人権」。「人権」は権力者との距離とは無関係に誰に対しても保障しなければならないもの。それは身びいきを許さない厳しさを持つ「絆」とは対極にある考え方。「絆が大切」と言われると「なるほど」と納得してしまいがち。しかし、それを権力者が言い出すとき、立ち止まって考える必要がある。憲法を考えるとは、そういう作業でもある。(蟻川恒正)