富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

農暦十二月十八日


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大公報が叱るのは香港の大律司*1公會の主席・夏博義(Paul Harris)が専業精神と良識、法治の原則を忘れ香港の安定を撹乱する動きに加担してゐる、といふこと。一般論としては個人の人権や言論の自由など普遍的なものがあり、この主席もそれに基づいてゐるだけなのだが中共的にはダメ。蘋果日報は香港で携帯電話実名制実施を報じる。実名制ぢゃなくても通話通信内容などいくらでもトレースできる世の中で今更これに驚かなくなつてゐるのも悲しいこと。両紙とも1面最上段に見出しだけ「中共がBNO旅券を旅行証書として承認拒否」とあり。

BNOは正式にはBritish National (Overseas)で英国海外市民。英国での在留権はなく滞在は6ヶ月迄だつたが英国公民としての権利や領事保護あり。中共への香港返還となるなか1983年にこの旅券の発行が始まり1997年までに340万人が申請だとか。中共の支配受ける香港市民にとつてBNO旅券は身分安全の御守りのやうなもの。実用面では英国に準じての海外のビザ免除あり(現時点で186カ国・地域)*2。それに対してそれに対して1997年からの香港特区旅券も善戦して170は悪くない(中国が74カ国・地域しかビザ免除がないと思へば香港特区がどれだけ優遇されてゐるか明らか)。このBNOに対して英国が中共による香港弾圧への報復としてBNO旅券保持者及び扶養家族に英国で5年の居留許可等の優遇を決定。更に何らかの条件クリアして合法的に1年滞在すれば英国での市民権も得られる(5+1)。それに対して中共がとつたのが今回の措置。かなり深刻な影響出さうだが現実的には香港から大陸との往来は「国内」なので回郷証あればよく香港の出入りは香港の永久居民の場合は香港IDで良いので旅券の提示不要。中共が制する関所でBNO提示することはない。強いていへばフライトは香港からでもHKIDではなく渡航に有効な旅券提示が必要で中共系エアラインがBNOでは搭乗不可とするかもしれないが、これはリスク回避も可能(CXはBNO旅券を理由に搭乗拒否はせぬらしい)。便宜上は今すぐに何か不自由はないだらう。次は香港市民が海外で領事サポート受ける場合に(二重国籍を認めぬ中共の方針で)保護は香港特区旅券保持者に限る、BNOは英国の援助受けろとでも突っ放すのかしら。香港での選挙権剥奪もあるかもしれない。

 

明日で1月もお終ひ。それにしても疫禍で外出自粛とはいへ本当に無聊な毎日が続く。外食は数回さっと昼食はあつたが夜はずっと家にて。1度だけ馴染みの居酒屋で早酒にコップ酒飲んで30分で退散のみ。掃墓と八幡宮参拝が各1。近所のご不幸でご焼香と市立博物館の戦争展見学。病院は内科と歯科が各1で散髪1。遠出といへば正月に笠間に遊んだのと先日の歌舞伎見物だけ。歌舞伎といへば廿七日に楽を迎へた歌舞伎座の一月興行。播磨屋の七段目で途中休演もあつたが由良之助の「うれしそうな顔わいやい」が毎日楽しみだつたと葵太夫さん。

お軽の肩を扇でチョンと叩きトントントン…とよろけるのを踏みとどまって扇をザラリと開き顔の右側にかざし顎を左下にちょっと引いて気味合い。これが「チャン」と独吟二の句のカカリ。〽世にも因果な…」となり、右足を少し引いて扇の骨の間からお軽の様子を窺い、右足を前に出しスンと泣き上げ、気を変える。この「スン」が〽因果〜ツツン」の三味線と大体合っている。

仮に歌右衛門丈ならば「あたしここはお腹で泣いているの。泣ける様なツツンを弾いてちょうだい」とご注文が有りそうな箇所である。おそらく吉右衛門丈もそういうお気持ちで、ここを演じておいでではないかと勝手に想像した。「演じる」と書いたが、吉右衛門丈の境地となると役を「生きる」とした方が適切であろう。義太夫節でも「語らずして語る」という禅問答の様な教えが有るが、眼前現れている〽世にも因果な」がそれなのだと思う。吉右衛門丈の細胞が由良之助の細胞になっている…。晩年の延若丈は一度も平舞台へ降りずに勤めたと聞くが、吉右衛門丈は体調万全ではない中を極力型を変えずいろいろな工夫をなさって勤め上げられた。千穐楽の幕切れはご見物も心の中で「大播磨〜!」と声を掛けておいでの様な拍手であった。

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*1:大律司は英国の司法制度で法廷弁護士(Barrister)のこと。

*2:因みにこのビザ免除だけは日本は190で世界一……日本が世界一なんてこれと長寿くらゐか。