富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

壽終正寢

農暦六月初七。曇。無聊。中学生の頃、英語で“dead”といふ形容詞が奇異に映つた。対義語の“alive”は「生きてゐる」がすんなりと入つたが「死」について“die”といふ動詞のところ、死は結果であり、その先は(死後の世界、霊界でもなければ)身体も意識もないわけで、そこで“dead”を何う理解すべきか、わからない。アタシの陳腐な想像力では遺体が霊安室にあるのが“dead”なのだ。本日、行政長官の林鄭が7月2日未明以来で記者会見。

行政長官林鄭月娥表示,政府今次修例工作完全失敗。修例工作已徹底全面停止,包括政府會否向本屆立法會重提草案,林鄭月娥強調,條例草案已壽終正寢。

と述べ、あの目つきで“the bill is officially dead”と宣ふ。“The Chief Executive, Carrie Lam, has admitted that the government's handling of the extradition bill amendment has been a complete failure. Lam said the bill is officially dead.” そして今後も市民との対話を続け未来に向け、云々と。学生団体とも対話をといふが彼らがそれを拒んでゐる。抗議者の暴力による拘束は法治の原則で、これに粛々と対処すべきで特赦といつた措置は取らぬ。で行政長官は辞めない。“the bill is dead, but I’m still alive”か。絶対に撤回(withdrawal)とは認めない。

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これまでも条例改定の無期限延期、立法化の中止、このまゝいけば会期終了で事実上の廃案、完全に作業中止と言葉を変へ、そして今回の「死んだ」だが、用ゐる語彙は
作業上の表現:無期限延期、立法化中止、完全に中止
曖昧な状況の表現: 会期中に審議せず終了、死んだ
のいずれかで香港政府、北京中央の意思で、この条例を撤回し廃案にするとは絶対に言はない。それに言及することは「敗北」なのだから。通常の政権なら英国のキャメロン前首相、メイ首相のやうに退任なのだが北京欽定であるから、さうはいかない。また、この林鄭の強気は保守派が今回の修例作業の誤謬につき判断、責任についてあれこれ言及始めキャッチングボード握る自由党で田(Tin)兄弟が林鄭や行政会成員でもある自らの党の党首らの責任を問ふ動き見せ足下が揺らぐなかで身内に対する強い意思表明なのかもしれない。

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特首立候補(左)と今日の林鄭月娥

今回、英語の“dead”に対して中国語で林鄭が使つたのが「壽終正寢」といふ言葉。文雅だが「寿终」は「年纪很大才死」つまり長寿で「正寝」は旧式家屋の正房、つまり「長寿全うして家で安らかに臨終を迎へる」といふ誰もが願ふ真に穏やかな死期。これが転じて「物事が灰になる」つまり何か途中でダメになる「おじゃんになる」の比喩もあり。つまり正意でも比喩でも、いずれにせよ行政長官が現状と今後の方針発表といふ場で使ふ言葉でないのだ。

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NHKのNW9で香港問題扱ふのはよいが「若者たちに深い絶望感」は確かに「政治的には絶望感がある」か、実際に自殺した青年もゐるのだが、けして絶望が社会を覆つてゐるわけではない。この報道で「立法会の議席の半分は中国寄りの業界団体に割り当てられています」って、そんな。明らかに誤報。それだつたら300万人デモが起きてゐても不思議ではない。


Hong Kong Canto-pop star Denise Ho takes anti-extradition protest to UN

▼昨日の信報のどの記事だつたか、一部引用。

如果北京為彰顯對香港有絕對權力而不准林鄭市長正面回應市民要其下台的訴求,等於說六七月的市民大遊行可能會令她的權力更上層樓!
北京的「一國」凌駕於「兩制」之上,已是人所共知且不會逆變的事實,她當然有權讓林鄭再坐一會兒,但香港以百萬計市民的上街遊行,北京不瞅不睬,即使特區政府權重如山,你道香港還能成為國際金融中心嗎?!